005
いよいよ村長を決める儀式が始まる。
そういえば、儀式が「神樹」という無駄に仰々しい名前の付いたただの大きな切り株で行われること以外話していなかったと思う。この際、簡単に説明しておこうと思う。
儀式は切り株の上に棍棒を持った男たちおよそ二十名が集まって他の男を突き落とすというもので、最後まで切り株の上に立っていた男が村長になるという至ってシンプルなものだ。
ここまで話を聞いてきた諸君は女性がいないではないかと指摘されるだろう。実のところ、俺もそう思っている。
いっそのこと、あの鬼婆が男装してこの儀式に出れば、余裕で村長の座を勝ち取れると思う。——っていうか、マジでそんな気がする。
ただ、残念ながら、頭の固い長老たちがそれを認めない。
なんか「村長たるもの男でなければならない」という謎の固定観念が彼らの凝り固まった脳を支配しているらしく、いっこうに女性の参加を認めないのだ。
——まったく、今どきこういうことは流行らないって何度言ったら分かるのだろうか?
そのため、屈強な肉体を持ったごく一部の女性が血の涙を流しているのを除いて、基本的に、大多数の女の子は好みの男性(推し)を応援するための専用の応援団扇や横断幕などの応援道具を作って、応援するのだ。
ちなみに、うちの鬼婆は後者だ。
よりによって、なぜか、俺のことを応援している。
ただし、俺の応援団扇など用意するはずもなく、にこやかな笑みを浮かべて、じーっと俺の一挙手一投足を見つめていた。——いやぁ、照れるなぁ。
ちなみに、女子の応援が一番多いのがメリダであることが少し疑問だ。あいつは男しか愛せないんだぜ? なのに、どうして女子はあいつのことを応援したくなるのだろうか?
あと、「愛の貴公子」とか、「ろくでなしをさっさと拾って! メリダ王子様!」とか、「クウィック×メリダ」とか、「メリダ×クウィック」とかそんな横断幕が見受けられるのは気のせいでしょうか?
俺たちの名前の並びによって一騒動が起きているのも気のせいでしょうか?
ねぇ、こっちの儀式よりもむしろ彼女たちを止めた方がいいんじゃないでしょうか?
あれ?
よく考えたら、メリダの野郎と賭けをしてしまった。ということは、俺はなんとしてでもあいつにだけは勝たなければならなくなった。
あいつ、男しか愛せなくて、ひたすら女を磨いてきたくせにバカみたいに強いからな。うかうかしていると俺も負けてしまう。
——俺?
俺はこう見えて避けることに関してはピカ一の才能がある。
親父は愚かにもゴブリンが仕掛けた見え透いた罠にはまって一万体のゴブリンに取り囲まれて死んでいったが、俺はそんなへまをやらかさない。——っていうか、とっくの昔に俺は親父を超えている。
かつて、俺はあの天下無双の鬼婆の逆鱗にうっかり触れてしまって、ゴブリンの巣に放り投げられたことがある。その地獄から俺は無傷で生還した実績がある。——まぁ、今から五年ほど前の話だけど。
それに、鬼婆が『簡単に負けたら殺処分』だなんて言っていたからな。あぁ、あのとき受けた仕打ちを思い出すと身震いが止まらない。——あぁ、思い出しただけで寒気がする。絶対に負けるわけにはいかない。
そのとき、ふと視線を感じた。
そこには我が大変麗しいお姉様がおられました。
——何、負けたら飯を一生作らないぞ、この野郎?
えっ?
何どうして?
どうして?
なんで?
俺は何をした?
比較的真面目に生きてきたはずなのに、飯を一生作らない?
冗談じゃない。俺が死んじゃうじゃないか。
——あぁ、これは絶対にこれは負けられなくなった。だって、俺はまだ死にたくないんだよ。




