004
三十分ほど遅れました。やっぱり予約投稿じゃないと、遅れてしまいますね。
オーガ並みに図体だけはでかいラカゴ君が、か弱い蓑虫こと、俺から逃げ出してから数分経った。
未だに、哀れな蓑虫(俺)の縄を解いてくれるような心優しい天使様は現れなかった。
そういえば、うちのお姉さまは、あんなに人を金棒で殴りつけて、さらに縄でぐるぐる巻きにしてからゴミ(たぶん、俺)をここに不法投棄して、『お姉ちゃんをわるーい鬼の嫁にやらないように必ず勝ってきなさい』と言ったくせに縄を解かないんですね。
まったく、あの鬼婆はひどいな。ひどすぎるよ。
そもそも、あの外面だけはいい鬼婆様も十分悪い鬼でしょ。
なんで自分はまるで被害者ぶるんでしょうか?
俺にはあの鬼婆様のその図太い神経が理解できないよ。
「やぁ。クウィックじゃないか」
「——そ、その声は」
「愛しのメリダだよ」
目の前には短髪で青髪の美少女、——いや、美男子(?)が立っていた。
こいつはメリダ。
今の村長の息子だ。——多分、息子だと思う。少なくとも彼の下半身についてあるアレは確認済みだから間違いない。
そんなメリダだが、なんかの間違いで俺に惚れたらしく、それからというもの、なぜかひたすら女を磨いた末こんな姿になっている。
——あぁ、焦ったー。焦ってしまったよ。
一瞬、男であるはずのあいつに見惚れてしまった。
「てめぇは見た目は女のくせして男だからたちが悪いんだよ」
「いやぁ、君のお姉さんには負けるよ。——ところで、僕と結婚する気にはなった?」
「なんねぇよ!」
「そうか。それは残念だ。じゃあ、君の縄を解いてあげないよ」
「ちょっと待った! さすがにこれだけは解いてくれ! 解いてもらわないとあの鬼婆に殺される!」
「そうか。——なら、結婚かな?」
どうしたら、そう聞こえるのか分からない。
「すまん。それは絶対にダメだ」
「じゃあ、解かないよ」
これはまずい。このままだと蓑虫の状態で儀式を乗り切らないといけない。——別にやろうと思えば避けることはできるのだが、このままではお姉様のご要望には応えられない。これはヤバい。
「——そうだ! 賭けをしよう! お前が俺よりも長く切り株の上に立っていたら俺がお前の婿になるよ」
「ぼくの嫁じゃないの?」
「見た目からしてお前の方が嫁だろ!」
俺が嫁なんて死んでもあり得ねぇ! 俺は男だ!
それに、女子の妙に腐った視線を感じるのだが気のせいか?
言っておくが、俺は養われるなら老若男女、それこそ鼻水を垂らした間抜けな面をしたトロールでも何でもありだが、性的対象と見なしているのは若い女性だからな! そこは決して間違えるなよ、淑女諸君!
「さて、解いてあげたよ。約束は忘れないでね」
「二度とくんな! 女男!」
「そんなこと言っちゃって! 本当はぼくのことをかっこいいって思っているんだろ?」
「かわいいとは思ったことはあるが、かっこいいだなんて思ったことは無ーい!」
——これは決して、そういった個性を持った方々を差別しているわけではない。
ただ、メリダに嫌われたくてそう言っているだけだ。
生憎、その作戦は一度も成功したことが無い。
——嗚呼、神よ! どうして俺はモテなくて、あのとてつもないろくでなし(男)をこよなく愛する美男子の方がモテるのでしょうか‼