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07 腹ペコガール、嫉妬する?

『女王陛下。この度の進撃についての失態、謹んでお詫び申し上げます。』



本題の前なのだろうか。

恭しく頭を下げる王様。


王様に対して偉そうに、いや実際偉いんだろうね。

目の前の女王サマは片手を上げて、


「それは先ほど聞いたわ。許す。」


と伝えるのであった。

王様は王様で『勿体なきお言葉』とか言っちゃっているし。


……なーんか、気に入らないのよね、この女王サマ。

見ているとムカムカするというか、イライラする。


初対面のくせに何考えているんだろ、私。


アレかな、ビックリするくらい美人サンだから嫉妬しているのかな?


うーん、それは無いか。

むしろ綺麗なお姉さんを見るのは目の保養になるというか。むしろ、そこまで美醜に興味無いというか。


あまり他人に関心の無い私が、初対面の人にここまで苛つくなんて生まれて初めてのことじゃないかな? 何なんだろう。



その、女王サマ。

真っ赤な長い髪は燃え盛る炎みたい。

金色に光る眼は猫みたい。

あとまつ毛がすっごく長い。


赤と黒の対比が美しいめっちゃ豪華なドレスの胸元はバックリと開いていて、無茶苦茶な巨乳を惜しげもなく見せびらかしている。


座っているからはっきりとは分からないけど、ウエストはすっげぇ括れている。言うまでも無く、洒落にならないくらいのボンキュッボンなお姉様。


もう一度言う。

驚愕レベルのボンキュッボン美女サンですよ!


この美女さんの特徴はまだまだあるぞ?


一番目出つのは、頭だ。


イエローブラウンの、大きな角!

大きながらが○どんのような、山羊の巻いた角が頭の先から生えている。もうその時点で人間サマじゃないって分かるよね?


完全に、魔族的な女王サマだよ!


やー、でもちょっと安心?

だって最初は、超巨大なドクロお化けちゃんを想像していたんだから。


ドクロはたぶんダイヤモンド製で、身体はがしゃどくろ的な大きさ。

そして纏うマントは時価総額幾らだよ! って超豪勢なお化けドクロさんを想像していたからね。


まぁ、あの来ている赤と黒のドレスもあちこちに宝石らしい輝きが見えるから、すっごく高価な服ってことは分かる。


うーわ、あんなドレス似合う人って、現実に居るんだなあ。さすがお化けの国の女王サマだね!



「……何やら、失礼な事を考えているな、娘よ?」



ふぇっ!?

私のこと、私のことよね?

思わずひっくり返りそうになっちゃった!


『娘……ですか?』


唖然と尋ねる王様。


あ、そうか。

ガイコツだから性別が分かんなかったのね。


そーよ、女の子よ? 丁重に扱いなさいな。

あんなアホみたいな距離を歩かせやがって!


「そうね。貴方たちには分からないでしょうけど、ソレは娘よ。私が生み出したスケルトンから性別が発生するなんてあり得なかったけど、こういう事もあるのね。面白いわ。」


何やら饒舌に語り出す女王サマ。

って、ガイコツ軍団はあんたが生み出したの?

魔術的なアレですかな?


『陛下。この者は……。』


「ええ。知能があるわね。それに自我も宿っている。昼に生み出した個体でしょうが、すでに進化を果たしている。私も受肉してから(・・・・・・・・)日が浅いけど(・・・・・・)、今までに無かった、前代未聞の経験ね。」


おーっと、意味の分からない会話だぞ?


受肉?

日が浅い?

なのに今までに無かった経験?


何言ってんの? アホなの?


……って、なんで私、この女王サマに対して辛辣なのかしら!? 何にもされた覚えが無いのに、何故か無性に苛つくし!


もしかして、私をガイコツにした犯人かっ!?

それなら私の腹底から湧き出る怒りやら憎悪やらの理由が分かる!

許すまじ、ボンキュッボンめ!



「ふふふ。また失礼なことを考えているでしょう? 面白い子ね。」



ええー! なんで分かるの!?


表情に出てた?

ガイコツフェイスだけど分かるの?

それか心を読んだとか?


うーわ、やめてー! 骨プライバシーの侵害だわっ! 骨にプライバシーとかあるか知らないけど、こちとら生粋の女子高生ですからっ!

女子高生のプライバシーはこの世の三大機密に該当する案件なのよ! 知らんけど。


『も、申し訳ございませぬ陛下! この者は生まれて間もなく……無礼があったとなれば後に罰を与えますので、どうかこの場では御容赦くださいませ!』


王様が慌てて大きな頭を下げる!

えー!? 後で罰を受けるの、私!?

いやああああっ! 御無体なっ!


「その必要は無いわ。私がそう感じているだけですから。それに……その娘はまだ念話が出来るほど成長していない。今から考えると面白いわね。念話が出来るようになれば、何を語り出すことやら。」


クスクス笑う女王サマ。

よ、良かった……お許しくださるのね。

実は良い人っぽい? 良かったー。


うん、もう失礼な事は考えません。

極力。出来る限り。たぶん。分からんけど。


『しかし陛下。何故この者は知能と自我を持ち得たのでしょうか。我らも生まれたばかりは知能は無く、自我も乏しいスケルトンでありました。』


「それは私にも分からないわ。魔王が生み出す魔物は等しく例外なく、最下層のものしか生み出せない。それが世の理である以上、知能も自我も、進化の先でしか得られぬもの。その理という壁を崩したこの娘は、もしや神より賜った存在、もしくは神そのものなのかもしれませんね。」


おおっと、いきなり話が飛躍したぞ!


神だってー!?


プスーーッ! ククククク!

ただの女子高生上がりを、神様て!


ハハハ、我こそは神なり!

美味いゴハンを献上せよ!

なんちって★


「うん、本当に失礼な娘ね。」


うわー! ごめんなさい!

調子こきました! こちとら単なる底辺に生きるアホな腹ペコガールでございます!

どうか、どうかご勘弁をー!


『陛下、申し訳ございません!』


「いいわ。貴方が謝ることではありません。ただ、この娘が本当に神の使い、もしくは神そのものである可能性があるなら、扱いは丁重にせねば。それに何を思い、何を知るのか、早く進化させて語らせたいわね。」


うああああ……。

めっちゃ笑顔。

完全に悪役スマイルですよ、女王サマ!

怖ぁぁぁぁい。


「ときに……ワイトキングよ。」


『はっ。』


「この部屋に入る前に、この娘とそこのレイスに、“魔封保護” を掛けたな?」


『も、申し訳ございません! しかし、私の愚かな行為は、貴女様を前に矮小なこの者たちでは存在が保てぬと愚考したまで! 罪を問うなら、この私めに!』


マフウホゴ?

あ、それってさっき王様が掛けてくれた魔法のことかな? じんわり温かな、毛布に包まれた感覚の優しい魔法。


え、それって罪になるの!?

理不尽―!


「いいえ。それ自体は良いし、許している。むしろ、貴方の言うとおり魔王たる私を前にして、矮小な魔物が存在を保つことは難しい。」


え、そうなの?

そういうもんなの?


おっかねぇなぁ、女王サマ。


てか、魔王??

え、女王サマ、魔王サマなの!?


……マジで?


なーんて考えていたら。



『パチン』



『へ、陛下、何をっ!?』


女王サマ、謎の指パッチン。

それよりも王様が急に叫ぶからビックリした!


え、どうしたの王様?

なんで、私を見るの?

隣の主任も口をポカーンと開けて私を見ているし。


え、何? 何なの?


「ふふっ。これは凄いわね。ますます興味深い。」


え、なになに?

何で女王サマ笑っているの?


『な、何ともないのか……。』


は?

何が?


……ん?

そう言えば、私の全身を包んでいた毛布的な感覚が無くなったような?

あれ、あれれ? 王様が掛けてくれた魔法、効果が無くなっちゃった?



「魔封保護を解いても、たかがスカルメイジが存在を保てている。やはり何かあるぞ、この娘。」



って、犯人はあんたかーいっ!


いつの間に解いたのさ!

さては、あの指パッチンだな!?


あの温かい感覚を返せ!

毛布とゴハンを所望する!


『し、信じられませぬ。余の魔封保護なしに、陛下の御前に立つなど。』


知るかー!

お前らのルールなんか知ったこっちゃない!

ついでに言うと王様、驚き過ぎて一人称が “余” に戻ってまっせ!?


ていうか、色々説明してよ!

何で私がここに居るとか。


あ、そういや女王サマ、“私が生み出した” 的なことほざいていたな。

やっぱ犯人はあんたか、ボンキュッボンめ!


ハナちゃん曰く、

『巨乳は敵』

『細身も敵』

『つまりアヤカは敵』

だけど(最後の本当に怖かったよハナちゃん)あんたは美人・巨乳・細身でスリーアウトだ!

くそぉ、ボコボコにしてハナちゃんの前に引きずり出したい。もちろん無理だけど!


女王サマ怖い。

魔王みたいだし。


「考えられるとすると、持ち得る称号よね。本来、スケルトンは等しく()に《骸人》、身体(・・)に《下級剣技》を持って生まれ落ちるのだけれど。恐らくこの娘は、別の称号を持っている。」


『な、なんと!?』


は、称号?


……あ、そう言えばG軍団とやり合っていた時に、何か、称号が発現とか派生とか使用解除とか何やら謎ボイスちゃんに言われていたな。


ついでにさっきも “飽食” とか何とか言っていたな。


アレはスキルだっけ?

思い出したけど、失礼だよね。

飽食って! 私は燃費が悪いだけだし、お残しなんてしない完食ガールなのよー!

飽食の時代とか言われるけど、私的には飽食にならず! ドヤァ!



で、称号って何?



「私の今の力では、他者の称号を暴くことが出来ない。例え私が生み出した存在であろうとね。歯痒いわ。」


ちょっと。

誰か称号について説明プリーズ!

こういう時に謎ボイスちゃん、あんた、説明してくれるのが道理じゃないの? ねぇねぇ、今ならお姉さん怒らないよ? 照れてないで説明してよ!


……チッ。照れ屋さんめ。

私のこと “飽食” と言ったの、忘れねぇからな!



『然らば、この者の沙汰は如何いたしましょう?』


沙汰?

ちょっと、何も悪い事していないのに罪人みたいな言い方やめてよねー。思わずビクッてなっちゃったじゃない。


「ふふっ。私たちの言葉も分かるみたいね。面白い娘ね。……ワイトキングよ。」


『はっ。』


「この娘は、骸骨大将(スカルジェネラル)の直属とする。グリードの軍勢を刈り取る中、この者の熟練を底上げすることに終始せよと伝えよ。いいか、これは命令だ。例え己たちの身が朽ち果てようとも、この娘は死守せよ。」


おお! 死守せよ?

それって私を守ってくれるってこと?


『仰せの通りに!』


「それと、進化は好きにさせよ。本来は上位の者の手助けが無ければ矮小な魔物は進化なぞ出来はしない。だが、この娘は知能も自我もある。好きにさせよ。その結果を私は見たい。」


どういう意味か良く分からないけど。

私の好きにしていいよ、ってことかな?


『御意。』


「後は、自由に装備を選ばせよ。スカルメイジであるから大したものは持てないだろうが、それでも何を選んだか、何を装備出来たかを私に報告せよ。」


……何か、命令多いな女王サマ。


恭しく了承する王様、あんたも反論してもいいんじゃね? あ、でもこれ全部私の事なんだよねー。

うん。頼んだよ、王様!


「次は、念話を会得した時に私の許へ連れて来てください。今から楽しみだわ。」


うわぁ。また悪役笑い。

似合うなー、女王サマ。


まさに魔王!


うーん、でも私のイメージにある魔王サマとは全然違うんだよね。山羊の角はイメージ通りなんだけど、アレ、二足歩行の黒山羊さんとか、もっと悪魔アクマしているのが魔王だと思っていた。


まーさーか、こんな美人サンとはね。



「以上よ。下がれ。」


『ハッ!』



再度、深々と頭を下げる王様と主任。

あ、ついでも私も。


そしてクルリと踝を返して戻る。

はぁ、終わったのか。



「そうだ、娘よ。」



うえっ!? まだ何か?


「名乗っていませんでしたね。」


へ?



「私はイリス。“イリス・エンペラス・エンヴィ” 。この骸たちを統べる “嫉妬の魔王” よ。次は貴女の番ですよ。私にその名と存在を明かしてくれる日を楽しみにしていますわ。」



おおう、女王サマ、イリスさんって言うのね。

でも、“嫉妬の魔王” って……。


嫉妬?

イリスさん、誰かに嫉妬しているの?


逆じゃね?


あんた、むしろこの世の全ての女性から嫉妬されるくらいの美貌の持ち主じゃないですか。その時点で超勝ち組じゃないの? しかも女王サマだし。


『あ、あ、頭を下げぬか!!』


うわぁ! 王様、激おこ!

慌てて頭を下げようとする私、だが。


「いいのよ。これは勘だけど、その娘は恐らく私と同等、もしくはそれ以上の存在かもしれない。ならば礼はこちらが尽くすのが道理。話は以上よ、連れてきてくれてありがとう。」


『は、ははー! 勿体なきお言葉!』


またまた大きく頭を下げる王様と主任。

うん、私も下げます。

王様、怒らせると怖いって知ったし!


もう、何もないよね?

とっとと退散しましょう!

何かムカムカするし、イライラするし!


ああ、これが嫉妬かな!?


なるほど、嫉妬の魔王サマね。


出来ればもう会いたくない気分だけど、“次は貴女の番” って言われちゃったしなー。はぁ、最低あと1回は会う必要があるのか。はぁ~~。


そんな溜息を吐き出したくなる気分のまま、私たちは女王の間を後にした。



―――――



「何なのかしら、あの娘?」



ワイトキング達が退室した後、イリスは一人ぼやく。


それは先ほど連れてこられた、謎のスカルメイジについてだ。


感覚から “娘” と言い切ったが、確たる証拠はない。


だが、特段そのスカルメイジは否定する素振りを見せないかった、それどころか動揺しているようにも見えたため、恐らく “女性” なのだろうと、イリスは確信する。


「……私が “鑑定眼” を発現出来ていれば、話は早かったのだろうけど。」


爪を噛み、苦々しく呟く。

それは魔王である証拠、魂の称号。



《嫉妬を統べる者》



《統べる者》を冠する者が成長することで発現する可能性のあるスキル、“鑑定眼” さえあれば、その者の強さの指針、称号、スキルを暴くことが出来る。


だが、受肉したばかりのイリスは、まだそこまで辿り着いていない。



――魔王も、成長しなければ弱い存在である。



魔王が成長するための手段は、三つ。


一つ目は、配下たる生み出した魔物が、敵対する魔物や人類を殺害することで得られる “破塊” と呼ばれる破壊した魂のエネルギー体を吸着した後に生じる上澄みを自動的に搾取することで成長をする。


だからこそ、魔王は魔物を生み出し、戦争を起こす。

敵対する魔王の配下を駆逐し、人類をも殺害する。


それが、魔王としての格を高める近道だからだ。



二つ目は、自ら魔物や人類を殺害すること。

上澄みを得るわけでは無いため、その分の成長率は高まる。


だが、受肉したばかりの身ではリスクが高い。


魔王は、同じ魔王、もしくは “勇者” を冠する存在でなければ、滅されることは無い。

それが、この世の理。


だが、自らよりも強い魔物は世に溢れている。

その魔物に倒されてしまえば、死ぬことは無くとも魔王という器に傷が付き、その影響は配下にも及ぶ。

具体的には、配下の魔物を生み出す力が弱まることなどだ。


その悪循環に陥ることを、魔王は恐れる。



最後は――同じ魔王を殺害することだ。


これが最も魔王としての格を高める。

むしろ、他の魔王を圧倒する程の力すら得られる。

加えて敵対魔王の配下すら、呑み込むことが出来る。


だが、リスクは最も大きい。


何故なら、相手も “魔王” だからだ。



魔王は、同じように配下を生み出し、虎視眈々と敵対する魔王の首を狙う。


魔王が直接、魔王を討つ時。

それは、屈強な配下が敵対魔王を可能な限り弱めつけてから、最後の最後にその首を魔王が跳ねるのがセオリーだ。



前回(・・)、イリスは高みに辿り着いた。

だが、最後の最後に――――。



「あの時の失態は繰り返さないわ。ルクフェル(・・・・・)。」



イリスの黄金の瞳が、怪しく輝く。

見据えるは、前回の覇者(・・・・・)



――だが、それも。




「まずは、ガレオラ(・・・・)の首ね。期待しているわよ。娘。」



――その期待は、全く予想だにしなかった事実で完全に裏切られることになるなど、この時のイリスには想像すら出来なかったのであった。

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