06 腹ペコガール、感動する
『ガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャ』
ふよふよ。
ふよふよ。
『ガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャ』
ふよふよ。
あー、もう!
王様の部屋こと、巨大お化け屋敷(祭壇付き)を王様、主任と共に出て、噂の巨大城の主、女王サマに会いに向かっているんだけど……。
遠っ!!
もうどれくらい歩いた、私!?
このガイコツの身体のおかげなのか体力的な疲れは感じないんだけど、精神的には非常に参るのよ!
巨大な通路を抜けて、階段を下りて、ジメジメした薄暗い通路を抜けて、今度は階段を上がって、長い通路を通って、また階段を上がって、また通路を通って。
ムキャーッ!
この建物を設計した奴に物申す!
見てくれは立派だろうけど、無駄に広くすりゃあ良いってもんじゃないぞ! 機能美とか居住性とか、そういう美意識は無いんかね、チミィ!?
本当に無駄にでかい。
だって、殆ど人(人?)に会わないんですよ?
時折、主任のお仲間や現場監督や銀ちゃんよりもちょっとみずほらしい鎧を纏ったガイコツ騎士さんとかに出会うこともあるけど、それにしたって建物の方が圧倒的に広く、この建物内のくせに人口密度の事考えちゃったよ?
どこの田舎レベルの人口密度だよ。
東京ドーム何個分の広さよ。
さっき通った通路という名の広間なんて、本当に東京ドームがすっぽり収まるんじゃないかってくらいの広さでしたよ。
あそこの空間、目的は何か聞きたい。
女王サマに会ったら小一時間くらい問い詰めたい。
そんなやさぐれアヤカさんですが、どうも先導する王様や主任はそれなりに私の事を気にしてくれているみたいで、時折チラチラと様子を見てくれる。
歩いているのは私だけだからねー。
たぶんだけど私の歩行速度に合わせて先導してくれているんだろうな。
きっと私が居なかったら、女王サマのところなんてアッと言う間に到着するんだろうね。
浮いているし、お化けだし。怖いし。
でも、そんな見た目お化けな黒ドクロさんと金ドクロさんなんだけど、気遣いの出来る紳士ドクロさんたちで良かったー。
それにしても、まーだー?
どれだけ歩いたか本当に分からん。
体感的にはもう2~3時間は歩かされているんじゃないかな?
女王サマの元に辿り着くどころか外すら見えねぇ。
ずーっと建物の中。
それより、予想よりもずっと大きいよ、この建物。
外から見た時もでっかい壁だなー、遠目から見てでっかいお城だなー、なんて思っていたけど、建物だけでこの広さってあり得なくない?
何となくだけど、この建物とお城って繋がっているのかな?
って、頼むからそうだと言ってくれ!
これから外に出て、お城まで歩いてなんてマジ無理!
あのお城、体感的には壁建物の3倍はあるんだよ?
そこ歩くってどんな苦行よ!
女王サマに会うだけで数時間どころか下手すれば日付跨ぐ大行程って何さ。
遠足も真っ青だよ!
あ、そうそう。
私が通う青渚学園には高校1年生の時にクラスメイトの親睦を図る目的で遠足なる行事があります。
うちの学校って中高一貫校だから、私みたいに中学受験から入った子は別の高校へ進学しない限りエスカレーター式なんだけど、同時に高校受験から編入してくる子たちも居る。
高校になったら大きなクラス替えもあるし、中学からの子と高校からの子とゴチャゴチャするから1年の春先に親睦行事として実施されるのが遠足なんですよ。
遠足と言っても1泊2日の国内バス旅行なんだけど、これが結構楽しかったんだよね。
行先は長野県と岐阜県。
初日の長野県は、私のおじいちゃん家が長野にあることもあって、あれが美味しいとかこれが美味しいとか女子のグルメコーディネーターとして活躍しました。
まぁ、おやきくらいしか無かったけどね。
あと、宿泊先の南信の温泉郷。
最初、皆して『年寄りか!』なんてブーブー言っていたけど、男子も女子も普段着慣れない浴衣姿にドキドキしたり(ってハナちゃん達が言っていた)、宿の外から見える星空に感動したり、何組かカップルが出来たり(ただし長続きしなかった模様。そういうもんらしい。知らんけど)、それなりに楽しんだ様子。
その時、ハナちゃんの気になる人を聞いちゃったんだけど、意外ー!って驚いた。
ハナちゃん、あぁ言うタイプが好きなんだなーって。
え、私?
食い意地フルアクセルの腹ペコガールでっせ?
好きな人なんて居ると思う?
そもそも私の事を恋愛対象として見る奇特人間なんていないですよ?
言っていて悲しくなるけどさ!
あ、遠足の話だったね。
二日目の岐阜県こそ、遠足のメイン。
目的地はアウトレット。
首都圏にも幾つかアウトレットはあるんだけど、そこのアウトレットは広くて環境も良いいから凄く人気なんだとか。
実際、私達も大盛り上がり!
特に私が大好きなアイスクリームのお店とオムライスのお店があったのはポイント高かった。
オムライスはもちろんLサイズ!
私がどれほど大食らいなのかと知らなかった子たちが盛大にドン引いていたのは今でも覚えている。
……ぶっちゃけ、それだけじゃ足りなかったのはここだけの話にしておこう。
なーんて、遠足のことをぽやーと思い出していたらどうやら私たちは螺旋階段を上っていたんだよね。
うん、ここも悪趣味だ。足元の階段部分はたぶん鉄製なんだけど、模様がおどろおどろしい。某ネズミ王国のお化けマンションも真っ青だよ。
それに手すり。テメーもダメだ。
何この、匠の遊び心が爆発して全部骨という骨で造り上げました! というアホな造形は。
これアフターなの? アフターでこれなの? 実はビフォーって言ってよ。リフォームを要求する。
うん、女王サマに謹んで進言しよう。
まぁ私、喋られないし、そんな事を言えるようなアイアンハートなんて持ち合わせていないし。小心者の平民でございやす。へへぇ。
『間もなく女王陛下の間だ。心せよ。』
うわっ! 超くだらない事考えていたら王様が釘刺してきた! ……って、え、もうすぐ女王サマのところなの? あれ、お城は?
あ、やっぱり建物とお城は繋がっていたんですね! ですよね~、あまりに広すぎておかしいと思ったんですよ! うんうん、これで『まだ建物で、お城は別』って流石にあり得ないっすよねー。
って言うことは、この超ホラーな巨大螺旋階段も女王サマの御趣味ってことですかね?
うーわ。無いって。これは無いって。
……凄く嫌な予感がする。
ていうか、絶対そうだ。
だって、ガイコツさん達のお城ですよ?
造形も悪魔チック3:骸骨チック7って感じ。
びっくりするくらいの悪趣味!
女王サマも、ガイコツさんなんだろうなぁ。
王様がこんな煌びやかな黄金ドクロさんだから、その上の女王サマは何だろ?
水晶かな?
それとも、ダイヤモンド!?
黄金の上だから、きっとダイヤモンド!
ダイヤモンドドクロお化けさんが、女王サマの正体と見た!
うーわ。
会うのが楽しみになってきた。
そう考えないと、会う気になれない。
だって怖いもん。
王様ドクロお化けさんも大概だけど、主任が震えあがって、心無しか王様もカタカタ震えるような相手って、どんだけよ。
てか、主任に対して王様はかなり大きい。
3倍はある。
その法則を考えると、女王サマはものっそく大きいんだろうなー。妖怪の、なんだっけ? ああ、がしゃどくろ。それくらいあるんじゃないだろうか。
あ!そうするとさっき通ってきた東京ドームすっぽり広間と異様にだだっ広い通路は、女王サマのサイズに合わせて作られたんだ!
あはー、なるほどなるほど。
大きければ大きいなりに大変なんすね。
苦労が偲ばれますね、女王サマ。
あとそれに合わせてこんな膨大な建物とお城を建てざるを得なかった匠の皆様のご苦労を思うと涙を無しには語れませんね。
別に涙なくとも語れるし、涙も出ないけどね。
私、ほら、ガイコツだし。あっはっは。
……笑って誤魔化しているけど、私の心はぐちゃぐちゃに荒れ荒んでいる。
だって、どういう意味も理由も訳が分からないまま、ガイコツになっちゃたんだから。
森盛彩佳という記憶があるにも関わらず。
私の身体は、スケルトン。
まだ信じ切れていないけど、これは夢じゃない。
恐らく、現実だ。
明晰夢にしては信じられないくらいリアルだし、触れた物はカタカタと骨を通して音が響き、触れたという感触が私の全身に伝わる。
夢にしては、聞いた事の無い言葉や見た事の無い現象が起きている。
たぶんこういうのは、重度のオタクたる妹のミサキが詳しいんだろうけど、私は付き合いはしても詳しくはない。
薄らボンヤリだけど、ミサキがよく読んでいた小説に、こういう設定があったはず。
“異世界転生”
……まさか、ねぇ?
だけど、そう考えるとすんなり納得できそう。
この世界観。
実際に動く骨なんてあり得ないし、さっきまで大規模な戦争を繰り広げていたG軍団のような、超巨大G(しかも腕があって剣や盾を持つ!)なんて現実に居るはずがない。
極めつけは、魔法。
私の足元が燃えるように爆発したり、ガイコツさんを粉々に砕いたり、Gの頭が燃えたり。
重火器を使ったわけじゃなく、杖とか棒の先端にスマホのアプリダウンロード中みたいな魔法陣? を出したことを思えば、あれが魔法の発動だって何となく理解できる。
あり得ない、ファンタジーな世界。
その世界に、私は放り込まれたと考えると全ての辻褄が合う。
うわー! うわー!
あり得ない!!
何があり得ないかって、ガイコツの身になったことが一番あり得ない!
ゴハン、食べられないじゃない!
さっきから感じる、このどうしようもない空腹感はどうすれば満たせるの? まさかゴハン食べられるの、この骨ボディ? どうやって!?
もし仮に異世界転生ならば、やり直しを要求する!
この際、魔物でも魔獣でも化け物でもなんでも良い。
美味しいゴハンが食べられるなら文句は言わない。ガイコツになるくらいなら、そっちの方が万倍も億倍もマシだ!
ああ、最悪……。
……え?
『サアァァァッ』
そんな音が、身体を突き抜けるような感覚。
実際に風が過ぎるような音が突き抜けた。
螺旋階段を上り終えた先。
そこは、通路だった。
それも今まで通り過ぎていた、薄暗い通路ではない。
横は壁だけど、その反対側。
外が、見える。
相変わらず悪趣味な柱と手すりだけど、その先から見える外の景色に私の心は、全て奪われた。
時刻は真夜中だろう。
建物の中に入る前に見えた夜空は更に煌きを増し、大きな青紫のお月さまはさらに煌々と輝き、それは光り輝く星の雲海に浮かぶ大きな宝石のようにも見える。
そして、その真下。
恐らく私が通ってきただろう建物。
このお城と、大きな壁と建物。
それは全て、一体となった巨大な建造物だった。
あの壁も、建物も。
全て、お城の一部だったんだ。
地球じゃあり得ないほどの、広大なお城。
輝く夜空と不気味かつ薄暗いお城は、今まで見た景色の中で最も美しく、壮大なものだった。
もし私が声を出せて涙を流せるなら、人目など気にせず大声で泣き叫んでいただろう。それだけ、この景色は私の感性を全て奪うほどのものだった。
『どうした。立て。』
気付いたら、私は外の手すりに掴まったまま、座り込んでしまっていた。
“腰が抜ける” というのはこういう事を言うんだね。
だけど、無情にも王様と主任は私に立つように促し、先を急ごうとする。
これだからガイコツ野郎は……この目の前の感動がどれほどのモノかも理解しようとしないなんて、悲しい生物だ。
あ、ガイコツだから生物でも無いや。
あっはっは、ごめんごめん。
それにしても、良い物を見た。
もしもこれが夢なら、本当に良い夢だ。身体がガイコツになったとしても、またこの夢を見たいと思えるほどの良い夢になったのだろう。
だけど、恐らく現実。
私はガイコツ。
――それでも、少しは良かったと思えるものに出会えた。それだけでも少しは、本当にちょびっとだけど、私の心は救われた。
いつか、この景色を眺めながら “レストランテ・アヤカ” お手製のフルコース料理を作って味わいたい。
ガイコツの身だからこそ、それは叶わないかもしれない。
それはそれで絶望が心を染め上げるには十分だけど……少しは前を向いて行こう。
『大丈夫か? 間もなく女王陛下の間だ。』
甲斐甲斐しくも王様が声を掛けてくれる。
でかくて黄金ドクロの王様は見た目からしてドン引くくらい怖い存在だけど、こういう心遣いはちょっとは嬉しい。
あんた、良い王様だよ。
私は謝るように一つ頷き、立ち上がる。
うん、前を向こう。
◇
「ここだ。」
壮大な景色が見える通路を歩いた先、またもや悪趣味の階段だった。それを上り切った先の広い通路を通ってきたんだけど……。
流石は女王サマのお部屋に通じるところだ。
他とは違い煌びやかな装飾。
柔らかなレッドカーペット。
私、生まれて初めてレッドカーペットを歩いちゃったよ。 出来ればガイコツの身じゃなく、本当の彩佳の身で歩きたかったけどね!
その立派な通路の先。
大きな、だけど思ったよりも小さな赤と金で装飾が施された立派な観音扉。
これ、王様がギリギリ通れるサイズじゃない?
……意外や、女王ドクロお化けさんは小さいとか?
あ、それもあり得るか。
ミサキが言っていたけど、ゲームとかアニメとかのラスボスは、意外とサイズが小さくなるとか。
私が知るのはナメコ的な星を侵略していた牛乳戦隊を率いる冷蔵庫的な悪の親玉が、変身に変身を繰り返した先の最終形態はスッキリとしたディティールだったからね。
もしかすると女王サマも、その口かしら?
『ふふふっ。やっておしまい、ワイトキングさん。』
わー、それ言ってくれないかな!?
めっちゃ聞いてみたい!
たぶん、私、『で、でたー!』とか力強く叫べる。
声出ないけどね。
なーんてくだらない事を考えていたら。
わぁ、王様も主任も、何か覚悟を決めているような感じ。だってビシバシ感じるもん。凄い緊張感よ?
王様は羽織るマントの襟を正しているし、主任に至っては、あ、何か両手を組み合わせて祈るポーズだし。
そんなに覚悟がいるの、女王サマに会うだけで!?
え、粗相したら食われるとか!? 骨を?
うーわ、それは勘弁してほしい!
私、食べても絶対美味しくないよ! 食べるのは好きだけど、食べられるのは勘弁願いたい。私はいつだって食う側だ!
《ポン》
おぅ?
《称号『渇望なる者』スキル “飽食” 派生》
あん?
《スキル “飽食” 常時展開》
どゆこと?
全く持って意味が分かんないんだけど。
てか、この世界に目覚めて(?)から聞こえるこの妙な声はなんなん?
主任や王様とは別種の、この声よ!
まるで通り抜けるような、得体の知れない声の正体は、何?
スキルとか言っているけど、飽食ってスキルなん?
そりゃあ私は飽食を体現しているような燃費超最悪の腹ペコガールですけど!?
謎ボイスちゃん(もうやけくそだから、そう名付ける。異論は認めない)に言われる筋合いは無いんじゃない?
あー、またそんな事を考えていたら……。
『覚悟は良いか、スカルメイジよ。』
何となしに震える声で王様に聞かれた。
私も女王サマに会うのを躊躇っているように見えたんだな。
うん、ごめん。
さっさと行ってくれと思っている。
私は君らと違って、女王サマの恐ろしさも何も知らないから。
……まぁ、超巨大なドクロお化けだって想像した時点で恐怖は天元突破したんだけどね。
だけど、目の前にある心無しか可愛げもあるガーリーな扉を前に、ちょっと怖さが薄らいだというか?
女王を名乗るだけあって、そこは女子なんだろうね。
めっちゃオバちゃんとお婆ちゃん的な女王サマでも、驚きやしないよ?
可愛い物好きは、幾つになっても女子のハートを掴むもんだって、食べる事に全力を費やす女子的に終わっているアヤカさんでもそれくらいは理解してまっせ?
まー、そんな訳で了承の意味を込めて頷いてみる。
あ、何か感心したような声を王様も主任も漏らした。
『うむ。中々の胆力だ。生まれながら知能があり、初日で進化を果たした者だけことはある。』
あ、王様が私に対して高評価だ。
えへへ、大したもんじゃねーっすよ、王様。
『王よ。恐らくこの者は何も分かっていないと愚考いたします。』
って、おおぃ主任よ!
そこは部下が褒められたら同意するもんが筋じゃねぇの? そういう所を謙遜すると、あんた、出世できないよ!
知らんけど。
『それでも、この場に居て何とも平然とするのは豪胆な胆力が成せる業と見た。只者ではないぞ、この者は。』
お! 持ち上げてくれますなぁ、王様!
あんたは見る目がありますねぇ。
『確かに……。女王陛下の気配を受けても尚、真っ直ぐ立てるのは只者ではありませぬ。……王よ、かく言う私めは、今にも存在が消えてしまいそうであります。』
あら? 同意したと思いきや主任さん、何やら弱気発言ですよ?
って、すげぇ震えている! 主任、あんた大丈夫かいな!? インフルエンザにでも罹ったのかと思えるほどの震えですよ。
……本当に大丈夫なの?
てか、女王サマの気配って何? 私、なーんともないし、なーんにも感じないんですけど。
何か放っているの、女王サマ。オナラとか?
あ、またオナラとか言っちゃった!
『アヤ! あんたは時々口が悪いよ! 女の子なんだからちゃんとした言葉遣いなさい!』ってまたママに怒られる。
それ言うならミサキだって大概よ、ママ。
……まあ、どちらかと言えばミサキも言葉遣いで怒られているか。でもあの子は私と違って成績優秀だからなー、そういう面ではかなり大目に見られているよね、ミサキは。
うん、ミサキは自慢の可愛くて優秀で可愛いくて素敵な可愛い妹だからね。普段はツンデレだけど、私には結構甘えてくるし、重度のオタクって事隠しているのも凄く可愛い。ミサキちゃんは私の天使。
『レイスよ、これなら大丈夫であろう。』
王様が何か手に持つ先端宝石付きの棒を取り出して、スマホアプリDL中……さすがにこの呼び方は止めるか。魔法陣?を展開して、何か主任と、あ、私にも!?
魔法! 魔法掛けられた!?
何か分かんないけど、身体がじんわり温かいというか、毛布に包まれた安心感がある。
『王よ。感謝いたします。』
え、何を掛けられたの?
ちょっと、主任、説明プリーズ。
『では、参ろう。』
ちょっと、王様も説明してよ!
何、何をしたの、私たちに!?
『スカルメイジよ、今更怖気付いたのか? だが、覚悟せよ。我らには王が付いている。余程の事が無い限りは大丈夫であろう。』
主任―――!!
違う、そうじゃない!
今、王様が掛けた魔法について教えてくださらない!? ぶっちゃけ女王サマよりも、そっちが怖いし気になるわ!
そんな私の心境などお構いなし。
赤い扉に向かって、王様が頭を下げる。
続けて主任も、あ、また睨まれた。
はいはい。下げりゃいいんでしょ、下げりゃ。
私も頭を、ペコリと下げる。
『女王陛下。畏れ多くも御報告がございます。御多忙の折に御尊顔を拝見することを、どうか御容赦くださいませ。』
うーわ、何そのめっちゃ畏まった言い方。
王様、どんだけ女王サマを敬っているのよ。
『許す。』
ふぇっ?
な、何か、今までに聞いたことの無いくらい綺麗な声が響いたんだけど。これが、女王サマの声??
『ガガ、ガガガガ……』
同時に開く、赤い扉。
隙間から光が漏れ、徐々に部屋の全容が明らかに。
『御寛容、謹んで御礼申し上げます。』
その言葉と同時に頭を上げる私たち。
王様を先頭に、女王サマの部屋へと歩みを進める。
部屋の中央。
バッと宙から降りて、跪く王様と主任。
あ、これ、私も倣うところよね。
私もガチャリと音を立てて膝を付く。
そして頭も下げる。
ああ、女王サマを早く見てみたい!
先頭を歩く王様の背中で全然前が見えなかったし。
どんなドクロちゃんなのかしら?
「面を上げよ。」
脳裏に響く声じゃない。
考えたら、この世界に来て初めて、耳にする声だ。
G軍団の鳴き声?
アレはカウントしない。声じゃねーし。
綺麗な声に合わせ、私たちは頭を上げる。
その正面、“ザ・玉座” に座る、女王サマ。
色んな意味で、私の期待が裏切られた。
そこに居たのは、人間の女性だった。
……いや、人間じゃない。
凄く綺麗な人だけど、人間じゃない。
あ、頭に! 角、生えているーー!?
何なの、この人!?
……こうして私は、今後の運命を握る人物、もっと言えば長ーーーーーく、本当に長い長いお付き合いをすることになる、腐れ縁のド腐れ女王サマ。
“イリス・エンペラス・エンヴィ”
彼女との、初めての出会いだった。