05 腹ペコガール、進化する
《進化先より選択》
ちょっと……。
《骸骨戦士》
《骸骨斥候》
《骸骨術士》
なに、これ??
誰か解説プリーズ!!
進化?
進化ってあれよね、ポケットな可愛いモンスターがするやつ。知らんけど。
えーっと、それはつまり。スケルトンたる私が今言われた3つのどれかに、進化出来るってこと?
うーん、ますます人間辞めた感じがするね。
夢なのに。
……これ、本当に夢だよね?
何か凄くリアルすぎない?
明晰夢って、ここまでリアルなものなの?
建物、外の様子、ガイコツさん達が妙に生々しい。
あと、私の夢のくせに知らない単語が多いわ!
えーっと、進化、先?
スカルソルジャーは何となく分かる。
ソルジャーって兵士って意味よね?
普通のスケルトンも兵士っぽいけど、何か違うの?
次、スカルローグ。
ほら、これよ。
意味が分からない。
ローグって、何?
プロローグ?
うん、絶対違うよね。
最後のスカルメイジ。
……あ、個人的に散々お世話になっています♩
って違うよねー!
そっちじゃないよね。
メイジは分かる!
アレでしょ、魔法使いでしょ!
それくらいはアヤカさんでも分かりますって!
兵士と、何かと、魔法使い。
うーわ、ローグが何か超気になる!
そう、こんな感じで、私の夢の世界のくせに知らない単語がわさわさ出てくる。
でも夢の世界ってそういうもんなのかな?
訳の分からない事を寝言で言ったりするから、あり得るのかもしれないね。
ほら、妹も良く寝言言っているし。
……でも、それをミサキに話したら、
『お姉ぇの方が寝言言っているし!』
『お腹空いただの、何食べたいだの、夢の中でも食うことしか考えていないの!?』
『だから “モリモリ姉妹” って呼ばれるのよ!』
すっごい剣幕で怒られたなー。
あ、“モリモリ姉妹” ってのは私たちのことね。
苗字が “森盛”
もじってモリモリ!
まー、私は文字通りモリモリ食べるから言い得て妙だけど、妹のミサキにとっては禁句に近い言葉だ。
ダイエット中ということで小食を貫くミサキは、大食らいな私と同じように見られるのは屈辱でしか無いみたいで、間違ってミサキの前で “モリモリ姉妹” なんて口走ったら、二度と口を利いて貰えなくなる。
ミサキはうちの学校の超人気者だからねー。
私は食べることばっかりだから底辺だって自覚あるけど、ミサキはスクールカーストの最頂点!
そんな彼女に禁句を述べようものなら、とんでもない目に遭う。
だけど、それを理由に他の子が禁句を口走った子を虐めたりハブにしたりする事は許せないみたい。
怒るのは自分であって、他の取り巻きや仲良い子がそれに便乗するのは、余計に彼女を怒らせる事になる。
私たちと一緒にエスカレーターで進級したハナちゃんとか他の友達も当然それを理解しているけど、高校から編入してきた友達って中々それを理解していないからなー。
1年の頃に3年だった当時学校一モテてたサッカー部キャプテンの何とか先輩が、ミサキに好意を向けて近づいてきていたけど、それが原因で二度とミサキと絡めなくなったというのが我が校のレジェンドの一つだ。うん、関係無い話だね!
まー、すっごくモテるから女子たちのやっかみを受けることもあるけど、それを気にするようなヤワな妹じゃない。
だけどモリモリ言われるのは本当に嫌みたい。
そして言われる度に私が怒られる。
理不尽―!
良い子も悪い子も、人の名前や苗字で茶化すのは絶対にダメだよ! 腹ペコガイコツちゃんとの約束だっ!
えーっと、めっちゃ脱線したけど気にしない。
《進化先を選択》
何か、急かしていない?
まぁ、選ぶって言っても三択だしなぁ。
まずソルジャー。
今と余り変わりなし。パス。
ローグ。
気になる。気になるけど……パス。
そう、最初から心は決まっているんですよ!
メイジ!
これっきゃ無いでしょ!?
だって、魔法使いだよ?
女の子なら一度は憧れるじゃない!
竹ぼうきに跨って大空を飛ぶとか、指先から魔法出すとか、変身して可愛いドレスを纏うとか!
え、さっきG軍団に魔法を放ったって?
アレ、魔法って言える?
剣が犠牲になったし。
あ、Gから拝借して壊してしまった剣はさっきこの建物の中に入る前に、木の根元に埋めて手を合わせておきました。
主任が “何してんだ、コイツ?” って顔で見ていた気もするけど、何も言われなかったからOKでしょ。
そんな訳で魔法使いに、私はなる!
最初に使う魔法は、決まっている。
ボーンと、豪華な七面鳥の丸焼きを出すことだ!
何かで見たけど、魔法使いが七面鳥の丸焼きを魔法で出すシーンがあったはず!
魔法っちゃ、それが常識でしょ?
異論は認めない!
そんなわけで、レッツトライ♩
《オーダー:骸骨術士へ進化実行?》
もっちろん!
さぁ、こい!
《骸骨術士へ進化実行》
あ……れ?
意識……、が。
―――――
《骸骨術士進化実行中》
《称号『下級魔導』派生》
《称号『下級魔導』スキル “火魔法”、“土魔法” 使用解除》
《スキル “火魔法” 使用レベル “1”》
《スキル “土魔法” 使用レベル “1”》
《称号『下級魔導』スキル、発動トリガー手動設定》
《ポン》
《称号『刃の達人』『下級魔導』より称号『魔導剣』派生》
《称号『下級魔導』抹消》
《称号『魔導剣』スキル “灼熱剣”、“地烈剣” 使用解除》
《称号『刃の達人』『魔導剣』スキル、発動トリガー自動設定中》
―――――
……ふぇっ!?
あれ、私……。
あれれ!?
《骸骨術士への進化完了》
え、進化?
終わったの?
今、私、意識を失っていた……。
え、えっと、進化完了って、進化したってことでいいんだよね!?
辺りをキョロキョロと見回す。
両隣のガイコツさんは、相変わらずジッと佇んでいて、相変わらずの不気味っぷりです。
そして、私。
手を見る。
うん、ガイコツ手。
立ち上がる。
全身を見る。
うん、ガイコツちゃんだねー。
……何も、変わっていない??
何よ、これぇ!?
進化って、何か見た目とか変わらないの?
ポケットな可愛いモンスターの進化だと、かなり見た目変わるじゃない!
ほら、あの雷ネズミちゃんとか、変わるでしょ!?
よく知らないけどさぁ!
ええー。ガイコツのままかいなー。
こう、魔法使いのローブとか三角帽子とか被せてくれれば分かりやすいんだけど、何てことない、骨は骨のままだったよ、HAHAHA!
うーわ。
萎えるわー。
……それよりも。
……そんなことよりも。
私は、悍ましい予感が過った。
“進化”
この言葉が頭を過った時、思ったのよ。
“ああ、これで夢も終わりか”
“これで目覚めるのね”
ある意味、夢の区切りというか。
そういう予感があったの。
実際、進化中は私、意識を閉ざしていた。
遠くから例の謎の声が響く感じだけはしていた。
だけど、意識は完全に無かった。
それが、またこの場で目が覚めた。
夢から覚めるのではなく、また、この薄暗い広間で、無数のガイコツに囲まれて蹲るガイコツの私に。
ヤバイ。
信じたくない。
だけど、その可能性が徐々に現実味を帯びてきた。
あり得ない。
でも、実際それは起きている。
……これは、夢じゃない??
夢じゃない。
そうなると、現実。
現実となると。
私は、ガイコツ。
ガイコツ?
嘘、でしょ?
え、だって、ガイコツだよ?
ゴハン食べられないじゃない!!!
消化器官、無し!
歯、たぶん丈夫!
だけど食道も胃袋も無し!
うわああああっ!
誰か嘘だって言ってぇぇぇぇ!?
『ガチャンッ!』
ねぇ、ちょっとアンタ!?
黙ってないで何とか言って!
何で私、ガイコツになっちゃったの!
何か私、悪い事したの!?
ねぇ、ねぇ、ねぇってば!!
……取り乱した私は、隣で佇むガイコツさんを掴んでガッチャガッチャと揺らす。そのガイコツさんはされるがまま、グワングワンと首や腕を揺らすだけで、何も語らない。
当然、私も声が出ているわけじゃない。
だけど、叫んでいる。ずっと叫んでいる。
あり得ないって、ずっと叫んでいる。
ゴハンが食べられない身体なんて、あり得ない!!
だって、こんなに腹ペコなのに、ゴハン食べられない身体ってどうすりゃいいのさっ!?
むしろ、ガイコツっていうかスケルトンって何食って生きていくの!?
ねぇねぇ隣のガイコツさん、教えてよ!!
『何事だ!!』
頭に響く怒声!
この声は……。
隣のガイコツさんの両肩を掴んだまま後ろを振り向くと、そこに居たのは黒ローブを纏って宙に浮く黒ドクロお化けさん。
主任――――!!!
私は隣のガイコツさんを放り投げるように解放し、主任の許へ駆け出す。
『な、なんだ貴様はっ!?』
完全にドン引く主任。
だけど構っていられるか!
一体全体、どういう事なの!?
この私が、ガイコツって、どういう事!
私は主任に飛びつくようにジャンプする、が、フワリと避ける主任。
そのまま私は地面にベチャッ(実際はガチャンて音だけど)とうつ伏せに倒れこんでしまった。
ううう……痛い。
身体に痛みは無いんだけど、心が凄く痛い。
すると、倒れこむ私の頭の先に主任がフワッと降りてきた。
うううう……主任~~。
『貴様……。』
顔をあげる私。
これが人間の私なら、もう両目からボロボロと大粒の涙を垂れ流していることでしょう
だけど、今はガイコツちゃん!
流れる涙なんてありませんよ!!
そんな私を見て、主任は何かプルプル震えている。
大きく開けた口を一旦閉じ、躊躇うかのように声を振り絞った。
『……まさか、進化したのか?』
えっ?
分かるの?
てか、何で分かったの?
私はうつ伏せから起き上がり、女の子座りのまま主任を眺める。
その様子にまた驚いたように口を開き、主任はまた尋ねてきた。
『貴様は……進化したのか。』
脳裏に響く声に、私は頷く。
すると、またまた驚いたように身体をビクッと震わせ、口を大きくあんぐりと開けて私を呆然と眺める。
えー、何なの?
こちとら、それどころじゃないのよ!
『まさか、知能があるのか?』
は?
何言ってるんだ、コイツ?
知能くらいあるわ!
確かに成績は中の下だけど、それでもうちの高校は進学校よ! 食い意地ばかりじゃないのよ、私は!
……食い意地ばかりだけど。
何でガイコツなのよー!
『信じられん。スケルトンが自らの意志で進化を果たすなど聞いたことが無い。それにレイスたる我も自ら進化など……閣下は何かご存知なのだろうか。』
何か、一人でブツブツ呟いている。
あのー、主任。
独り言は良いんですけど、全部私の脳裏に響いてダダ漏れですからね。
ああああー! 私はこれからどうやってゴハン食べればいいのよー!?
『貴様は……。む、そうか。念話は出来ないのだったな。レイスかナイトに進化すれば念話は会得出来るから、それを待つか? いやいや、これは前代未聞であるやもしれぬ。うむう……。』
だーかーらー。
全部ダダ漏れ! 分かる!?
独り言は、聞こえないように言うものよ!
『貴様、我の言葉は分かるな?』
あ?
ええ、分かるわよ!
『我に着いてこい。』
は?
着いてこい?
ええ、いいわよ!
こうなりゃヤケよ!
ふわりと浮いて踝を返す主任に、私は大股でガツガツ歩いて着いて行く。
主任は時々後ろを振り返り、またまた口を開いたりしているけどさぁ。
笑いたければ笑えばいいさっ!
◇
『ここだ。』
主任の後ろを着いて行くこと、大体30分。
通路通ったり階段上ったり。
……めっちゃ歩かされた!
だけど、辿り着いた場所は……。
なんじゃこれー!?
この建物の跳ね橋よりも大きい、巨大観音扉。
しかもデザインが、超悪趣味。
まず、取っ手や扉のあちらこちらが、髑髏や骸骨で出来ている。
しかも扉の縁取り、何の恐竜? ってくらいでっかい骨がガツゴツと組み合わさっているし。
極めつけは、一番てっぺん!
悪魔みたいな、禍々しい巨大彫刻。
こんなん小さい子が見たら100%泣き叫ぶわっ!
贔屓目に言っても、悪趣味。
うーわ。
無いって、これは無いって。
『この中には我らが王、死霊大帝様がいらっしゃる。貴様は知能があるから言うのだが、くれぐれも粗相の無いようにな。』
へーへー。
分かりましたよー。
だいたいしゃべれねーのに、何が粗相だ。
黙って頷くことしか出来ないんだよ、私は!
『閣下。ご報告がございます。どうか謁見の機会をお与えくださいませ。』
悪趣味扉に甲斐甲斐しく頭を下げる主任。
下げながら、何となく私をジロリと見ている。
あ、私も下げろってね。
へーへー。
ペコリと頭を下げる。
で、どうすんの?
『ゴゴゴゴゴゴゴ……』
おおう、悪趣味扉が開いた!
これ、めっちゃ重そうだけど誰か押しているのかな?
それとも自動?
うん、誰も居ないから自動ドアか!
妙にハイテクなのね、悪趣味のくせに!
……あー、ダメだ、私。
やさぐれている。
だってもう、本当絶望よ、絶望。
意味分かんないし。
マジで夢じゃなく現実なら、ガイコツちゃんよ?
ゴハン食べられない絶望で心はズタズタよ。
おうち帰りたい。
ママのごはんが食べたい。
パパやミサキに会いたい。
飼い猫を撫でまわしたい。
何で、私だけ……。
……ん?
あれ、こうなった原因って。
まさか、ネムちゃんの授業中に包まれた、あの黒い箱ってこと?
あの箱は実は不思議パワーがあって、私をこのお化けの世界に飛ばして、ガイコツにしたってこと?
あ、あ、あ、あれかー!?
あの箱が原因か!
なんちゅーことしてくれてたのよ!!
『おい、さっきから五月蠅いぞ。』
怒られた。
私が心でキーキー言いながら身体はガチャガチャ蠢いていたからね。“粗相するなよ” と釘刺されたのにガチャガチャしてりゃ、そりゃ主任も怒るわな。
でも!
私にとっては!
一大事なの!!
『貴様、跪け。』
巨大な悪趣味扉の中は、悪趣味な広間でした。
あちらこちら、骨やら悪魔の彫刻やら、沢山!
完っ全にお化け屋敷だ、ここ。
その奥の祭壇みたいなところの前で、突然ふよふよ浮いていた主任が地面に降り、頭を下げた。
跪け?
つまり私も膝を着いて頭を下げればいいのね!
はいはい、やりゃーいいんでしょ!
『面を上げよ。』
ボワッ、と炎が破裂するような音と同時に、脳内に響く太い声。
あ、この声。
顔を上げる私。
目の前の祭壇には、主任よりも一際大きい紫と金ピカのマントを羽織った、しかも頭も金ピカドクロさんで真っ赤な王冠を乗せた、ドクロお化けさん。
そう、一番最初に壇上でガイコツ軍団に何やら演説をしていた、王様ドクロお化けさんでした。
えーと何だっけ?
確か、ワイトキング?
キングだから王様ね。
間違ってはいなかったか。
『レイスよ。余に何用か?』
よっ!?
余、って言った!
王様って、本当に自分の事を余って言うんだ!
思わず吹き出しそうになるのを堪える私。
逆に、主任はガタガタと身体を震わせている。
王様だからね。
そりゃあ緊張もするでしょうね。
『は。この度、閣下に御報告と御相談があり僭越ながら参じました。』
『何事か?』
『この者です。』
ほえ? あ、そうよね。私よね。
ジロッと私を見る王様。
そういや、主任もそうだけど王様もドクロの中の光球が黄緑色じゃないんだよね。
主任は薄暗い赤、王様に至っては完全な黒。
金ピカドクロに、黒の光って似合っているけど……。
黒の光って何よ?
そんな黒い眼光でジッと私を見る。
うううう、怖い。
『……スカルメイジだな。』
『左様です。』
呟く王様に、震えながら頷く主任。
あ、やっぱり私は進化していたし、進化したってことが分かるのね。
どこで見分けを付けているんだろ?
他のガイコツさんたちと何ら変わらないのに。
『これは……いつ生み出された個体だ?』
『本日です。』
ガチャ、と大きな音を立てる王様。
え、なになに?
『それは誠か!?』
『……はい。』
あ、何か王様も “マジかよコイツ” って顔だ。
ガイコツさんたちと違って、話しかけられるガイコツさんたちは何となく表情が読めて面白いな。
『そんな馬鹿な。それが誠なら今日の進撃でグリード軍勢を相当数こやつが屠ったことになるぞ?』
『私も……信じられなかったのですが、この者が剣を揮った瞬間、50を超える奴等が一瞬にして屍と化したのです。私は、奴等が何かしらの魔導術をしくじったとばかり思っておりましたが。』
『うむ……この者が揮った剣でその数を駆逐したとなれば辻褄が合うな。だがしかし、今日生まれたばかりのスケルトンに、そのような真似が出来るなど、些か信じられん。』
王様と主任が、ブツブツと “信じられない” を連呼していますねー。
そこにただ呆然と座っている私。
グリード軍勢ってG軍団のこと?
私が揮った剣、うん、“みじん切り” の事かな。
確かにGたちが一瞬にして木っ端みじんになったのはグロかったね!
えー、それで私が進化したってか?
あ、確かにこの建物に帰ってきて休んでいたら、謎の声が吸着やら何やら言っていたな。
それって、Gたちのパワーか何か?
なんて言ってたっけ? ハコン?
え、なにそれ?
まさか、Gのあの気持ち悪い汁とかじゃないよね?
ヒィィィッ!
そんなん知らないうちに取り込んでいたとしたら、私もう生きていけないっ!
って、私、ガイコツやないかーいっ!
ブツブツと語り合う主任と王様などお構いなしに、私は歯をガチガチ打ち鳴らしながら震える。
そんな私に王様はギロッと睨んできた!
ひぃっ! ごめんなさいっ!
そうですね、粗相しちゃアカンですよね!
思わず敬礼のポーズをとってしまった。
何やら呆れ顔の王様、そして隣で頭を抱える主任。
『お主の言う通り、確かに知能はありそうだな。ただ少し、いや、かなり頭は悪そうだが。』
溜息を吐く王様よ、あんた、なんちゅー失礼な事を言うの!? そりゃあ勉強は苦手だけどさぁ!
てか、あんた、ガイコツのくせに良く溜息吐けるな! 器用だなおい!
って聞こえないことを良いことに心の中で盛大に悪態をついていたら。
『女王陛下に、伺うしかなかろう。』
王様の爆弾発言!
ふぇ!?
じょーおーへいかって、女王サマ!
たぶん、あの巨大城の主サマですよね!?
てか、王様よ。
あんたが女王サマじゃ無かったのね。
……まあ、女性っぽくい感じはしなかったけど、骨だし、性別なんて分かんないし。
そんな王様の爆弾発言に、ほら見た事か。隣の主任もさっきの私みたいに歯をガッチンガッチン打ち鳴らしながら震えているじゃありませんか!
『か、閣下……それは。』
『すまぬが、覚悟を決めてくれ。余が連れて行っても正しく伝えられるとは限らない。報告者であるお主も同行せよ。』
うーわ。
隣で見ていて可哀想なくらい震えているわ。
何かゴメン、主任。
イメージはアレかな。
大企業の係長クラス(パパをイメージ)が、統括部長さんに恐る恐る相談に言ったら、こりゃ本社の社長に相談せにゃあダメだね、そんじゃ一緒に行こっか。
って連れて行かれる流れなのかな?
うん。
マジでゴメン、主任!
パパがお酒飲みながら愚痴っていたキーワードを結び付けてイメージしたけど、たぶんそういう事よね?
だってパパですら、時折支社に訪れる統括部長さんに直接話すことすら躊躇うって言ってた気がするもん。
まぁ、小心者のパパなら仕方がない。
でも、私なら “ラッキー!” って思うけどね。
だって自分が働く会社のトップオブザトップよ!
会って印象良く覚えて貰えれば出世だって夢じゃなくなるんじゃない?
もし気に入って貰えたら美味しいゴハン屋さんに連れて行ってもらえるかもしれないし!
ほらほら主任、チャンスよ!
あんたも現場監督に早くなりたいでしょ?
たぶんだけど主任の進化先は、監督!
この場合、進化って言うか昇進?
まぁ、どっちでも良いかー♩
この時、私は非常に気軽に考えていた。
“女王”
それが、この世界で一体どういう人物か。
どれほど、とんでも無い人物であるのか。
まったく予想だにしていなかった。
随分後になるが、その存在の事を知ることになる。
“知らぬが仏”
その言葉を、私はこれから何度も何度も何度も何度も何度も何度も、思い知らされることになろうとは、この時は全く知らなかったのであった。