04 腹ペコガール、撤退する
『カチャッ』
ヒッ!?
ごごごごめんなさい!
……はぁ。
狭いし、暗い。
そんな中わちょっと動いたら隣の人(人?)に腕が当たってしまい、心の中で盛大に謝罪をしながら頭をペコペコと下げる、私。
でも、隣の人(人?)は私をチラリとだけ見て(怖ぇよ!)、何事も無かったかのようにまた正面へと目線を投げて、制止した。
はぁぁぁぁ……。
なんだ、この微妙な時間は。
えー、ただいま最初に居た広い建物の中で、各々好きな場所で休んでいるアヤカさんです。
ガイコツ軍団と一緒に!
G軍団との戦いが終わって元の建物に戻ってきたら、主任たちから『各々、指示があるまで待機』という指示、というか命令を受けて、私たちガイコツ軍団はこうして身体を休めているんですよ。
それにしても、お腹空いたー!
早くこの夢、覚めないかなぁ。
夢だって分かっているんだからとっとと目覚めてくれよ、寝ている私よ。
・・・・
・・・
・・
・
先ほどのG軍団との戦闘。
私が放った “みじん切り” ……なのか?
大量のGが視聴者にはお見せ出来ないモザイク必至のグロテスク映像状態になったのを私と主任がポカーンと見つめていた直後、例の『ブオォ~~』という法螺貝チックな音と共に、脳裏に声が響いたんですよ。
『エンヴィ軍、撤退せよ!』
ふぇっ?
えんびー軍?
塩ビ?
あー、我が家のコースター、塩ビ製だったな。
妹とお買い物という名のデートの時に見つけて、一目惚れして家族分買ってきたやつ。
何故かパパが気に入って、毎日使っている。
かなりガーリーなデザインだけど、いいの、パパ?
まぁ、本人が良ければいいのか。
なんて考えていたら……。
『撤退だ、行くぞ!』
隣でポカンとしていた主任に言われ我に返りました。
ええ、二つの意味で驚きましたとも。
まず、今の今まで何言っているかサッパリだった主任たちの音声が聞き取れるようになりました!
えー、突然どうして?
あ、まぁ、夢の世界だし、今まで聞き取れなかった事の方が変だったってことか。
で、もう一つ。
こちらは惨状に驚いた。
我らがガイコツ軍団だけど、結構な数がGたちにやられていたみたいなんだよね。
草原に散らばる、数々の骨。
Gの死骸もいくつかあったけど、パッと見でバラされた骨の方が多いような気がする!
現に逃げる私たちを、ジジジジジジジ! って勝鬨? を挙げながら剣や杖を高く掲げていたからね。
あれ、勝利側に許されたポーズだよね。
ムキー!
負けんな、私の夢の中のくせに!
ガイコツ化は正直ないわーって感じだけど、勝負事にはちょいとうるさいアヤカさんですよ?
しかも、将来美食家兼料理人を目指す私の宿敵とも言うべきG共に敗北だなんて!
キーッ!
今度会ったらただじゃおかねぇ!
二度と会いたくないけどね。
でかいし怖いし気持ち悪いし。うへぇ。
で、そんなギギギジジジと騒ぐG軍団に見送られて、私達ガイコツ軍団はトボトボと来た道を帰っていったわけさ。
辺りはすでに夜。
枯れ木やボロボロの岩が転がっているから足場は悪く、何体かガイコツさん、転んだんだよねー。
よく見ると、Gにやられたのか腕が無かったり、酷いのは胴の半分が砕けていたりしたのも居た。
あれで動けるって、さすがガイコツ!
お化けみが高い!
ただ、足をやられたのは見かけなかった。
たぶん、息があっても(ガイコツに息があるって言うのも変だけど)足がやられて動けないのは、置いていかれたんだろうな。
ガイコツ……こういうのはスケルトンって言うんだっけ? 私のイメージだとバラバラになっても骨がまたカタカタカタカタとくっ付く不死身なボディなんだけど、この夢の中のガイコツさん達はどうやらそういう作りじゃないみたい。
砕けた箇所はそのままだし、たぶん頭蓋骨の中で輝く黄緑色の光がガイコツさん達の弱点のようで、そこをやられちゃうと行動不能になるっぽい。
何ていうか、脆い?
でもこれ、私の夢の世界ってことは私が勝手にそう作り上げているってことよね?
何かゴメンね、ガイコツさん達。
安らかに眠れ。
で、私。
さすが私!
さっきの戦闘で無傷の帰還です!
やー、さすがに魔法使いGのアレはやばかったし主任が駆け付けてくれなければ分からなかったけど、ノーダメで帰還!
HAHAHA、さすが私の夢だ。
都合が良過ぎる!
だけど……。
私は、Gから奪った右手の剣を見る。
謎の “みじん切り” の所為か、剣は3分の2程が粉々に砕けていて、辛うじて残った刃の部分は、もはや剣とは言い難い残念な感じになっております。
元々渡されていた剣は落としちゃうし、奪った剣もボロボロだ。
“道具は大切に扱う”
料理人を目指す私にとって、道具ってそれなりに思いれが湧いてくるんだよね。特に、こういう刃物が使い物にならなくなるのは心が痛くなる。
だから、壊れていても捨ててこなかった。
夢の世界とは言え、私の命を守ってくれた大切な相棒だ。落としてしまった剣には申し訳ないけど、この子は後でどこかで埋めて供養したいな。
夢だけど。
そんな事を思いながら残った刃物部分を眺める私。
銀色に光る剣は、まるで鏡のよう。
そこに映し出される、私の、顔。
ひぃぃっ!?
わ、分かっていたさ。
……やっぱりガイコツやないかーい!
他のガイコツさんたちとご多分に漏れず、私のドクロ顔の目の窪みから黄緑色の光がぼんやりと浮かび、眼球のようにも見える。
口をパカッと開けると、ああ、見える見える。
黄緑色の光球。
うわあああ、怖い。
これ、目が覚めたら具合悪くなるんじゃないかな。
いくらホラーに強くてもお腹いっぱいだよ。
いや、お腹はペコペコだ!
自分がガイコツだって気付いてからずーっと、この何ともし難い空腹感!
たぶん眠りこけてこんな悪夢を見ている私は今頃お腹をグーグー鳴らしていることでしょう!
ああ、またミサキに色々言われる。
いびきならぬ、腹の音がうるさい!
……と妹に指摘される女子高生ってどうよ?
でも仕方ないじゃない!
生理現象なんだし。
ああ、それにしてもお腹空いた。
さすがにここまで空腹ならそろそろ目も覚めるかな。
さらばガイコツ。
私は美味しい朝食を食うぞ。
……ん?
今、鏡替わりに使っていた折れた剣に何か映ったな。
もう一度、チラリと掲げる。
あ。
私は歩きながらも上を見上げてみる。
すると……。
す、す、すっげーー!
え、何これ、何これ!?
今まで私、これに気付かなかったの?
そこには、空一面の星空。
色とりどりに輝く星は、まるでオーロラのよう。
さらに、私が知るモノよりも3周りは大きいだろう、青紫色に輝くお月さま。
自分の語彙力の無さが憎い!
どう表現すればいいの、この光景……。
都会じゃ、絶対見られない夜空が広がっている。
“息を飲む光景”
それは、こういうのを言うんだろうな。
パパの実家、おじいちゃんの家は長野県の南の方にあるんだけど、そこで見た夜空も感動物だった。
だけど、この夜空はそれ以上だ。
沢山のガイコツやGで悪夢認定待ったなしだったけど、この光景を見れた事で少しは良かったかな?
うん、ガイコツやGの事は忘れて、“素敵な夜空を見た夢” ってことで終えよう。
ほら、起きるなら今のタイミングだぞ、私!
起きろ起きろ起きろ起きろ!
起きろーーー!
……起きねぇし。
腹ペコ状態で、夢の中の私が “夢” だと認識しているのに覚めないって、相当だな、私。
まぁいいや。私が起きるまで、ゆっくりとこの素敵な夜空を堪能しましょう♩
あ! インスピレーション湧いてきたぞ。
某和菓子屋さんが作る星空みたいな可愛い羊羹、いつかああいうの作ってみようかなって思っていたけど、明日試してみようかな。
スピルリナの食用着色があったし、アラザンもこの前買った残りもあるし、粉寒天もあるな。
あとは……。
あ、パパが何か日本酒に乗せて飲むんだーって金箔買っていたけど、確かあれ全然使ってなかったよな?
よし、それを拝借しちゃおう。
『パパ、だーいすき!』
って、抱き着けば100%許してくれる。
ふふふ、チョロイもんよ。
羊羹も粉寒天で作ればゼリーっぽくなるし、茹で小豆だけ買ってくれば出来るな。
手作り羊羹の上に、色の濃さを分けた寒天ゼリーを少しずつ加えてグラデーションにして、そこにアラザンや手を加えた金箔で彩れば、星空羊羹(ゼリー風味)の完成!
よし、イメージは出来た!
起きたら忘れないうちにレシピをメモろう。
後はトライ&エラー。
こういう手の込んだスイーツは1~2回は失敗すると思って臨んだ方が良い。
特にゼリーの味付け。フルーツ缶詰のシロップを使うのが簡単なんだけど、色々と試してみたいな。
まぁ、まずは作ってみて考えよう!
あー、どうせ寒天使うならゼリー寄せテリーヌも挑戦してみようかな。
明日の夕食はオシャレにフランス料理シリーズで攻めてみちゃう!?
サラダ、スープ、テリーヌ、あとはメインにお肉料理作って……。
うふふふ、明日の “レストランテ・アヤカ” はスペシャル営業になりそうだぜ!
って、また意識が料理に!
この癖は治らないだろうなー。あはは。
あはは、はは、……は?
な、な、な。
なんじゃありゃー!?
えー、失礼しました。
でも、でも、だって、でも!
いきなりあんなの見えてきたら誰だって叫ぶよ!?
夜空で完全に心奪われていた私ですが、すっかり現実(夢なのに現実?)に引き戻されました。
まだ遠目だけど、姿を現したのは、巨大な壁。
地平の彼方まで続いているんじゃないかってくらい、ズゴーンと立ち並ぶ壁。
目測でうちの高校より高い。
5階立ての学校より高い壁って、どんだけだよ。
で、その壁の向こう。
何か、すっげぇ大きいお城が見える。
遠目で見ても『デッケー!』って思う壁のさらに奥、まだシルエットしか見えないけど、壁の3倍は高くそびえる超巨大なお城が見える!
形は、モンサンミッシェルっぽい。
だけど高さも横幅も段違い!
いや、本物見たこと無いから分かんないけど、あんな巨大な訳が無い!
だってまだシルエット状態でっせ!?
私達はその壁というかお城に向かって進んでいる。
つまり、最初に私たちが出てきた建物って、あの壁の中、もしかするとあのお城なのかもしれない!?
うっひょー!
テンション上がってまいりました!
無言でガチャガチャ骨音鳴らしながらトボトボ歩くガイコツ兵さんたちや、その周囲にブヨブヨ浮いている主任たちを見れば、何だか静かな百鬼夜行っぽくて地味で怖いけど、その中で私は一人超絶に浮かれていまっせー!
やー、良い夢だ!
うん、いつか本場のフランス料理を堪能しようとコツコツとバイト代の一部を溜めているけど、どうせ行くなら観光も楽しまなくちゃね!
料理はインスパイアも大事って言うから、美術館巡りにお城ツアーなんかも良いかも。
おっ。
いよいよ巨大壁の前に到着。ゾロゾロ続いていたガイコツ行列もそれに合わせて止まりました。
気付かなかったけど、先導はあの銀ピカ鎧のガイコツさんこと、銀ちゃんだったのね。
目立つ格好なのにガイコツさんの大行列で全然見えなかったよー。あっはっは。
目立つのに存在感が薄いのね、銀ちゃん。
あっはっは。
『女王陛下! 我ら誇り高きエンヴィ軍、ただいま帰還しました! どうか開門の御許可を!』
銀ちゃんは大きな剣を抜いて叫んだ。
……女王陛下?
このお城には女王サマがお住まいなの?
見た目フランス城なのに女王って、イギリスみたい。
さすが私の夢、世界観が滅茶苦茶かも。
イギリスも行ってみたいなー。
料理に関しては色々曰くがあるけど、スコーンや紅茶の本場はイギリスだ。
言っておくけど、私、紅茶もうるさいよ?
紅茶も色んなブランドがあるけど、私の一押しはロイヤルな某高級食器ブランドの名を冠する茶葉だな。
友達とかに話をすると『え、そこ紅茶も出しているの!?』って驚かれるんだけど、そうなの、あるのよ紅茶が!
特にアールグレイが最高に美味!
お値段も凄く高いけどね!
……今思ったんだけど、そのロイヤルな高級食器ブランド、デンマークだった。
うん。美味しいよね、紅茶。
あ、私達の集団は “塩ビー軍” だそうだ。
どうやら軍隊。
だけど塩ビって何さ。
塩ビというか、カルシウムじゃね?
骨だらけだし。
『グゴゴゴゴゴゴゴ……』
おお、門が落ちてくるー!
前に並ぶ大量のガイコツ軍団で見えてなかったけど、壁の手前には落ちたら助からないんじゃないの的な崖がある。
そこに掛かる、門。
跳ね橋になっていたんだね。
『ガゴン』
跳ね橋が掛かったところで、またゾロゾロと歩く。
この跳ね橋、でかいな……。
建物の中で見た時は壁が開くようにしか見えなかったんだけど、こういう訳だったのね。
お城の跳ね橋って、みんなこうなのかな?
……そんな訳、無いか。
この跳ね橋、アホみたいにでかい。
さすが、学校より大きい壁だけあるね。
門の中。
そこは一番最初に居た広間だった。
どうやら壁の中自体が建物になっているみたい。
すっげー。
これ建てるってどんだけお金掛かるんだろう?
『整列っ!!』
頭に響く怒鳴り声。
あー、これ銀ちゃんだね。
ぞろぞろと良い子に整列するガイコツ軍団。
うん、私もちゃーんと最後尾に並びましたよ?
何度も何度も、主任には睨まれませんよ?
なのに!
何故に私の後ろにいるのだ、主任!
ああ、問題児扱いは継続中なのね……。
『骸骨死霊共は、残存した骸骨兵士共を数えよ。負傷のある者、無い者、それぞれ分けよ。』
再度響く、銀ちゃんの声。
すると、主任たちが少し高く浮き上がり、私たちを俯瞰するように眺める。
主任たち。
黒ドクロお化けさんは、レイスって言うのかー。
レイス……どこかで聞いたことがあるような?
あと、やっぱり私たちはスケルトンなんだね。
『数え終えた者は、死霊王に報告を。』
リッチ?
銀ちゃんのこと、リッチって言うのかな?
確かにあの銀ピカ鎧にデカデカとした銀の剣はお値段が高そうだ! リッチなガイコツさんじゃなきゃ持てないよね?
……って、違った。
戦場では見かけなかったけど、主任たちよりも一際大きく、赤紫に銀の刺繍の入った豪勢なマントを纏った白ドクロガイコツお化けさんに、主任たちがヒューー、と飛んで行って、ボソボソ何か告げて、またヒューー、と定位置に戻ってきました。
そうか、彼(彼女?)がリッチさんね。
確かにリッチな装いですね!
なんつーか、成金趣味?
どうやら主任を取り仕切る役割っぽいので、彼は現場監督なんだろうね。
成金リッチな現場監督……何か嫌だなぁ。
『どうだ、リッチよ。』
『ジェネラル、3万の我が軍勢や1万5千となってしまった。この中で傷を負っていない者は、わずか5千のみ。これでは……。』
銀ちゃんと監督がボソボソと話している。
あのー、丸聞こえですよ?
『そうか……。認めたくないが、“グリード” の奴等の方が一歩先に進んでいるということか。』
ん? グリード?
何かそういうブランドがあったような。
ミサキが前に話していたワンピのブランドじゃなかったかな? 違ったかな?
『いずれにせよ我は閣下へ報告に上がる。その上で女王陛下へ啓上するが……。』
『落胆されるであろうな。』
監督が肩を落としてふよふよと上へと飛んで行った。
閣下というのは、さっきの王様ガイコツお化けさんかな? もしかしてアレが女王サマとか?
うーん、どのみち上司に報告に行くみたいね。
大事よね、ホウレンソウ。
あ、女子はホウレンソウは食べた方がいい。
ミサキは嫌いだって言うから、仕方なしにフルーツとかと一緒にミキサーにかけて特製ドリンクにして飲ませている。
カロリーは低いけど、カリウムとか鉄分とか多く摂れるからダイエットに最適。
だけど、お姉ちゃん的には気にしないでもっと色々食べて欲しいんだけどなー。
体質は私と変わらないから食べてもそんなに太らないはずなんだけど、あの子、運動苦手で動きたがらないからなー、それが脂肪に?
うん、私も気を付けよう。
沢山食べるから、今まで通り動こう!
『皆の者! ご苦労であった。しばし休息とする。傷付いた者はレイスの指示に従い、隣で魔力供給を受け、傷を癒せ。それ以外の者は指示があるまで、各々休息せよ。以上!』
それだけ言い、銀ちゃんはバッとマントを翻すとガツガツと音を立ててどこかへ行ってしまった。
『傷付いた者、来い!』
同時に、主任たちの叫びが響き渡って、多くのガイコツさん達がゾロゾロと後に着いていった。
そっちは、私が最初に居た広間の方だね。
あの魔法陣で治すのかな?
わぁ、結構な数のガイコツさんが行っちゃったな。
さっきの銀ちゃんと監督の話からすると、3万いたガイコツ軍団が半分になって、その内3分の2が負傷兵ってことでしょ?
うーわ、G軍団にボロ負けじゃん。
そりゃあ撤退するよねー。
どうするんだろうね、これから。
残ったのは、僅かなガイコツさんたち。
僅かと言っても最初に比べると数がだいぶ減ったというだけで、聞けば5千体は居るわけだ。
何やら、それぞれ壁際に行って座ったり、柱にもたれ掛かったりしている。
私もそれに倣って壁際へ……って、さすがに5千体ものガイコツさんが一斉に壁に並ぶと、狭い!
僅かなスペースしかない。ちょっと動くと、隣のガイコツさんに触れてしまう。
あ、ごめんなさい。
……こんな風に。
はぁ。
暗い部屋に、静かな広間。
時折聞こえる、ガイコツさんのガチャ音。
ああ、お腹空いた。
早く目が覚めないかな。
・
・・
・・・
・・・・
あれから何時間経ったのかな?
一向に私は目覚める気配が無い!
“私は目覚める気配が無い” とかマジで意味分かんないけど、この悪夢、全く覚めないし!
……まさか、夢じゃないとか?
あははは! そんな訳ないじゃない! こんな現代社会真っ青なファンタジー&ホラーの世界なんて。
あり得ないわ。
あは、ははは?
まさか、ねぇ。
……。
えっと、マジで?
いやいや、無いって、それは無いって。
仮にあったとしても、ガイコツって何さ。
うん、あり得ない。
あり得ない、よね?
《ポン》
おわっ!?
『ガチッ』
あ! わ! ごめんなさいっ!
またお隣さんに触れちゃった。
しかも今回は結構豪快に。
でも、お隣ガイコツさんはほぼ無関心で、ちょっとこっちに目線を飛ばすだけでまたすぐ真っ直ぐへと視線を戻してくれるから、ありがたい。
てか、今聞こえた音って。
確かGとの戦闘中の……。
《称号『異界勇者』強制抹消完了》
《称号『渇望なる者』定着》
《称号『渇望なる者』発動、撃破した “レッサーローチ” 72体、“メイジローチ” 6体、“ハイメイジビートル” 1体の破塊を吸着。――――吸着完了。以降、自動吸着実行》
《称号『刃の達人』スキル “半月斬り”、“短冊斬り” 使用解除》
《称号『刃の達人』スキル、発動トリガー自動設定中》
は?
なになにっ!?
一気にしゃべらないでよ!
何が削除して、何が定着したって?
あと、ハコンを吸着??
理解したのは、半月切りと短冊切りの二つ。
って、私を馬鹿にしているんか、この声!?
桂むきにつまも余裕で作れるし、へぎ切りだって出来るアヤカさんですよ!?
今更、半月切りとか短冊切りとか!
って、たぶん違うよなー。
あのGどもを一瞬でバラバラにしちゃった “みじん切り” も、私の想像しているものでは無かった。
むしろ、まるで魔法のような?
ってことは、この声の言う “半月切り” も “短冊切り” もあんな魔法のような力なのかな!?
Gを一気にブッパする魔法パワー!
うん、怖いわー。
あっはっはっは。
それにしても、この声。
……いや、正直 “声” という認識が薄い。
耳から聞こえているわけじゃないから、主任たちのように脳内に直接語り掛けてくるような感じだけど、それとも感じ方が何か、違う。
意識出来ないというか、まるで言葉が過ぎていくような感覚。はっきりと意志を持って伝えられる “言葉” とは違う、別種の言葉。
《熟練値最。個体 “骸骨剣士”、固有名称 “アヤカ・シンセイ” 、進化可能。以下、進化先より選択》
はい?
《骸骨戦士》
《骸骨斥候》
《骸骨術士》
……はい??