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09 腹ペコガール、守られる?

『全軍、前進!』


私の隣に立つ銀ちゃんが叫ぶと同時に大きな銀の剣を抜いた勢いのまま後ろへと振りかぶると、建物の壁のように見える跳ね橋がゴゴゴと降りてきて外の景色が露わに!


おおおおー。

前回はガイコツ軍団の一番後ろで眺めていたから、あ、壁が開くー、スゲー、匠の技スゲーくらいな感じだったけど、こうも間近で見ると圧巻よね。


って、え、もう夕方?


私、このガイコツボディになってから丸一日経ったってことなの!?


うーわ。ちょっと待った。


イリスさんのところに向かう途中、外の景色は真夜中だったでしょ? イリスさんと会って、帰りも真夜中だったでしょ? その後……その後は、また例の登山道よろしく長~~い行程を歩いて、王様のお化け部屋行って、武器庫行って、色々漁って……。


それでこんなに時間経つの?


ガイコツボディはよく分からない。



ま、それはさておき夕方です。

このお城の女王サマことイリスさんに気に入られたのか丁重に扱われることになりましたアヤカさんです。


昨日生まれたばかりの私は、彼女たちから見たらオモシロガイコツだったらしく、まずは進化させよー、とにかく死守せよー、とのご命令で、このガイコツ軍団の大将っぽい銀ピカ鎧ガイコツ騎士さんこと銀ちゃんに守ってもらえることになりました。


えへへ、ちょっと嬉しいかも。

守られるのは女子的に嬉しいですよ。

しかもガチな騎士様にですよ! これ、隣国のお姫様とかだったら甘~いラブな展開が待った無しなんでしょうねー。


まぁ、隣国のお姫様や素敵な騎士様ではなく、どちらも骨々しいガイコツ。しかも銀ちゃん超デカイし。

あと主任もいるし。



しかし、私、出世したなー。

昨日はガイコツ軍団の最後尾+武器配布の雑用係。

今日はガイコツ軍団の最前線で偉そう・強そうなガイコツ騎士さん達や派手なガイコツ魔法使いさん達に囲まれているのです。


……ですが。



『ジェネラル様。コレ(・・)は一体なんですか?』


はい。

いきなりコレ扱いっすよ。


青銅色の鎧を着た、銀ちゃんよりちょっと小さいガイコツ騎士さんが私を指さして尋ねてきましたよ。

あ、何か周りの同じ青銅色鎧のガイコツ騎士さん達も軽く頷いているし! やっぱり、気になるよねー?


私の恰好を、見よ!

紫色の三角帽子!

真紫の魔法使い的なローブ!

オマケに超特大筋引き包丁!


引くわ。

こんなん実際に見かけたら引くわ。

同じ骨にも引かれるレベルの骨だよ。


『こやつは、女王陛下に見染められた特殊個体だ。陛下より、命を賭しても死守せよと勅命を賜った。貴様らもそのつもりで励め。』


おおぅ、説明乙。

それよか、その命令は王様→銀ちゃんだけじゃなかったのね。

まぁ、それもそうか。

銀ちゃんはどうもこのガイコツ軍団の将軍様だし、本来兵たちは将軍様をお守りする側だからねー。


銀ちゃんが守る私を、銀ちゃんを守る騎士さんたちが守る! いやー、我ながら良い御身分になったと思いますよ。


どうしてこうなった。



『ハハッ!』


騎士さん、一瞬戸惑ったけどしっかりと敬礼。


敬礼は、右手を拳にして左肩に握りしめた親指と人差し指をポスッと叩くようなポーズでした。これがガイコツ式の敬礼なのかな?

一応、覚えておこう。





『全軍、陣形を展開。』


銀ちゃんは剣を抜き取って指示を飛ばす。


昨日と同じ、サバンナのような草原。

よく見ると枯れ木やら岩もところどころに転がっているんだよね。この時点でサバンナじゃない? 知らんけど。


ただ、身を隠したりするには心もとない。

逃げるのは、イリスさんの超巨大お城のある方向、森の方角だ。


危なくなったらサッサととんずらさせていただきます。だって私、現代日本の女子高生ですからね!


そんな事を考えていたら、ガイコツ軍団は横にズラーッと広がる。


凄い、統制感が半端ない。

等間隔で動いて、等間隔で並んでいる姿は亡霊というよりも人形兵みたいだ。


昨日は特に意識せず広がりに着いて行っただけの私だけど、傍から見たら一人だけこの統制の取れた陣形をブチ破る行動を取っていたんだろうなー。


だって適当に動いただけだったし。


もしそれを銀ちゃんに目撃されていたら、怒られたかもしれない! セーフ、セーフだよね!?


それにしても、数万のガイコツ軍団が一斉に広がる姿は圧巻だわー。

扇形のように広がるガイコツ軍団の中心に、銀ちゃん率いる青銅色のガイコツ騎士さん達、その後方に、私みたいな魔法使い系のガイコツさんやらお化けドクロさんやらが広がって待機しています。


今、気付いたんだけど、魔法使い姿のガイコツさんも結構な数が居るのよね。


私のような三角帽子は今のところ見かけないけど、それぞれ紫や紺の魔法使いチックなローブを纏って、手には木の杖や先端宝石付きのスティックを握りしめています。


って、おおいっ!

君たち、その杖やスティックを軽々しく持っているけど、どういうことなの? それ、見た目可愛い子ぶっているけど、アホみたいな比重のダンベルよ!?


材質は鉛か……金!? 金なら欲しい。

でも、私は持ち上げるので精一杯だったからなー。たぶん金より重い。可愛らしい宝石を付けた見た目は幼女仕様だけど、ゴリラ専用の鈍器でっせ?


つまりアレか! 君たち全員ゴリラか!

そんな魔法使いみたいな恰好しているけど騙されないぞ。ていうか魔法なんて使うな! 殴れ!


……またまた余計な事を考えていたら。



『ギシギシギシギシギシ!!』



うーーわーー! 来ましたー!


この腹の底から煮えくり返る不快な羽音。

日が沈みつつある夕暮れを闇に染める黒ボディ。


G軍団、見参!


相変わらずのGボディに、不自然な腕。

それでどうやって剣って振り回せるんだろうか。


人間工学に基づいた武器である剣でしょ? 明らかにガイコツさんたちの方が有利に見えるんだけど?


でも昨日の戦い、ガイコツ軍団が負けたんだよね。


そうなると、剣と剣のぶつかり合いだけじゃない要因が働いているのかな。


例えば、魔法とか?


よぉし、今日は魔法使いことスカルメイジになったアヤカさんにお任せください! 私の魔法でぱぱっとG共を追い払ってみようじゃないか!



『グリードの虫けら共を、蹴散らせぇ!』



響く銀ちゃんの声。

同時に一斉に掛けだすガイコツさん達。


うーわ。この光景!

昨日も見た、現代日本人の女子高生たる私には今まで全く無縁だった、戦国時代よろしく大合戦。

戦うは謎のガイコツ軍団と謎の巨大G軍団。

うん、どっちも気持ち悪いよね。


私は銀ちゃんや青銅色のガイコツ騎士さん達に囲まれて守られています。


気分はお姫様★

キャー、怖い! 私を守って、騎士様たちぃ!


なーんて、可愛らしい女の子が叫べば男子たちがこぞって守ってくれるのかもしれんけど、こちとら食欲旺盛の腹ペコガールだから、男子に守って貰えるイメージが皆無!


そりゃあ我が校の最大のアイドルたる自慢の可愛い妹のミサキなら、叫ぶ前に山ほどの群がった男子が守ってくれるでしょうけど!?


特にウチのクラス在住の青渚学園二大イケメン、市川や橘はその筆頭候補でしょ。


あいつ等、二人してミサキの事が好きっぽい。

その割には親友同士の二人。


天才スポーツ万能イケメン紳士の市川と、短気だけど硬派を貫くオレ様系ヤンキーの橘が親友同士って、どういう過程があったのやら。


そもそも市川と橘はミサキを奪い合うライバルじゃなかったの?

アレか。夕日の見える河原で殴り合いの末に二人で横たわって『へへっ、やるなお前……』『お前こそ、な……』とかそういう数世代前の青春ゴッコを繰り広げたとか? 知らんけど。


でも、同じ子を好きになって友達同士で居られるってスゲェな。女子だったら良くてギクシャク、最悪はお互いに派閥作っての足の引っ張り合いに発展することもあるのに。

男の子はマジで分からない。


まぁ、ミサキの件はお姉ちゃんの目が黒い内は許さないけどね! お義姉さん、とか言われた日にゃ全力でビンタ出来る自信がある。私の可愛いミサキを奪おうというなら、まずはこの私を倒すんだな!


え、暴力? やだー、暴力反対―。

勝負は『大食い』と『料理』だ。優しい私はどっちでも構わない。選ばしてやるから挑んできなさい!

ただし手は抜かんぞ!


可愛い妹を守る双子のお姉ちゃんな私ですが、腹ペコガール+陰キャというアレな生き物なのでピンチでも男子が守ってくれるわけがない。


ほら、今も!

さっきまで私を守るぞー! 的な雰囲気があった青銅鎧のガイコツ騎士さんたちは一目散にG軍団に突撃していきましたよ。その様子をポカンと口を開けて見守るアヤカさんですよ。

すでにボッチですよ、ボッチ。


え、あれ? 守るって何だっけ?


銀ちゃんー! ちょっとー?

部下たち、命令違反ですよー。


……って、銀ちゃんー!?


気付いたら、銀ちゃんもG軍団へ突っ込んで行って巨大な大剣を振り回してGをバッサバッサ切り倒しています。


表情はガイコツだからよく分かんないけど、もしアテレコ付けるなら『ヒャッハー!』だ。

いやもう言い逃れ出来ないくらい嬉々としてGたち倒しまくっていますわー。


えーっと、イリスさんは何て言っていた?


『娘を死守せよ』

『熟練を底上げすることに終始せよ』


……だったよね? つまり私を守りながら、進化? 出来るようにGたちを倒させろ、って意味だよね? さすがのアヤカさんでもそのくらい分かりますよー?


それがどういう訳か!


放置プレイ!


銀ちゃんも騎士さん達も『ひゃっほぉ! たまんねぇ!』とか言いながらGの群れに突撃していきましたよ。いや言っていないけど、恐らくそういう気分で突っ込んで行っている。


えー、どうすりゃいいのさ?



って、呆然としていたら!



『ギシギィッ!』



おわっ!? ひぃ! Gが一匹こちらに突っ込んできました!

キショッ! 相変わらずのキショさですね。


そして、相変わらずの鈍さですね。

君は、君たちは、本当にGなのかい?


大きく振りかぶった銀色の剣。

それを、ブオン、と振り降ろします。


私、サッと避ける。

すると、


『ズゴッ』


はい、地面に剣が突き刺さりました。

結構、めり込んでいます。


Gさん、抜こうと腕に力を籠めますが、腕の下にある4本の節足? がワチャワチャ動いています。

何これ?


えっと、斬っていいんだよね?

斬っちゃうよ? だってGだし!


えーっと、胴っ!!



『シュッ』



は?


私は、武器庫で見つけた超巨大筋引き包丁をワチャるGさんの胴体向けて横薙ぎに振ったんですよ。

剣道で言うところの、胴です。


昨日は、さすが剣というべきかGの昆虫ボディを中ほどまで貫いてしまったんですよ。


……今思い出しても、凄く気持ち悪い。

うへぇ。


だ、だ、だけど!?

今、今ですよ!


超巨大筋引き包丁、ほぼ何の感触も無しに空を切ったんです。Gボディが、まるでそこに無かったかのように、シュッって!


空、というか風を切る音しかしませんでしたよ!?


……まさかの空振り。


くぅ! かっこ悪い!

ソフトボールの助っ人でも空振りなんて滅多にしないのに。


良かった、銀ちゃんや騎士さん達が傍に居なくて。


Gはまだ地面から剣を抜けていないな。

よぉし、気を取り直してもう一度……。



『ギ……ギィ。』



ふぇっ!?


『ドシャッ』


ひ、ひいいいっ!?

ま、ま、真っ二つ! Gが、真っ二つに千切れた!


え、え、どういう事!?


『ギシイイイイイッ!!』


うわー! 考える間もなく2匹のGさんが突っ込んできたー! うわー! うわー!


『シュシュッ』


余りの突然のことでガムシャラに筋引き包丁を振りまくったんだけど、やはりと言うか、空振りするように何の感触も無かった。


だけど。


『ドシャシャッ』


私に突っ込んできたGたちは、そのまま私を素通りして……。私の真後ろでバラバラに千切れて倒れた。


えっ? どゆこと?

……まさか。


『ギッシィィィィっ!』


わー! 今度は魔法使いG!

杖の先のスマホアプリDL中のような魔法陣が、4分の3くらい出来上がっております!

さ、さ、させるかー!


面っ!!


『ビュッ』


『ギシャッ』


綺麗に、魔法使いGが頭の先から二つに別れました。

うううう、気持ち悪い。



……でも、分かった。


理解した。



この超巨大な筋引き包丁。

切れ味が半端ない。



自宅にあるアヤカ専用包丁セット “だまちゃんシリーズ” の3号も筋引きなんだけど、いくら何でもここまで切れ味が鋭くない。


あ、包丁を “だまちゃん” って呼んでいるのは、包丁の刃が波模様で、ダマなんとかって言う鋼を再現したもの、というのが理由です。


全部で7本もあるから1~7号って分けているけど、どれも私の大切な相棒だ!

私にとってママとパパとミサキと飼い猫(まめきち)の次に大切な包丁セットなんですよ。


……私が料理に夢中で将来は料理人を目指しているからって、高校進級時にパパがプレゼントしてくれた。


何か、めっちゃくちゃ高くて良い物だったらしく、パパはしばらくママに睨まれていたのは今でも忘れない。


そんなだまちゃんも、切れ味は半端ない。

だけど、“切った感触が無い” という事はない!


この特大包丁、どういう原理なの!?


それに。

うーわ。


斬られて無残な姿になったGが、黒ボディから燃え尽きた灰のように濁った白色に変色しています。


何これ、ナニコレ!?

これも筋引き包丁の仕業なのか。


怖い。

さすが魔王の持ち物だ。


……返却しようかな、とも思ったけど、やっぱり包丁の形状が良いのかとても手に馴染むし、しっくりするんだよねー。


重さも普通の包丁と変わらないくらい。

こんなのデカイくせに。


この世界の物理ってどうなっているのやら?


マジカル幼女スティックが、ゴリラ仕様の激重鈍器。

方や、立ち上がった私の肩くらいまでのサイズがある巨大包丁は実際の包丁レベルの重量。


もしや、中身はスポンジかなー? とか思っていて切れ味とか全然期待していなかったんだけど、そんな事は無かった。


恐ろしい程に、切れます。


現に、こんな余計な事を考えている私ですが、絶えず襲い掛かってくるGたちをスパスパと切り裂いています。


無心、とにかく無心。

だって、怖いし気持ち悪いんだもん!


もうやめてー! って叫びたいけど、声出ないし!

銀ちゃんも騎士さん達もこっち見ないし!


って、あ。



『ぬ!? 娘、無事か!』



ぬ!?、じゃねぇし。

無事じゃねぇし。


今の今まで私の事を忘れていただろ!?

イリスさんにチクってやる!


『これは、貴様がやったのか。』


へーへー。

ワザとらしい質問っすね!

そうっすよ、私がやりました。

犯人はアヤカさんですよ。


切り裂かれ、真っ白な灰になるGたちを見て、あれ、何か震えている。


『何だ、これは?』


は?


『これは斬魔刀・崩天の力なのか?』


知らんがな。

ていうか、確かザンマ刀って言っていたけど、正式名称ってザンマ刀・ホウテンって言うのね。


ホウテン丸……違うなぁ。

ザンマ君、ホウちゃん、テン助……。

テン助!


決めた、君は今日からテン助だ!

よろしくね、テン助。


いやー、いつまでも愛用品を超巨大筋引き包丁とか何とかと無機質な名前で呼ぶのはアヤカさん的にNGでしたからねー。

良い名前を付けられて良かった。


とりあえず、何かを切ったなら “切ったよ” 的な感触をプリーズですよ、テン助。


《ポン》


おわっ!?


《オーダー:固有名称 “斬魔刀・崩天”、称号『刃の達人』最適化実行》


《最適化完了》


ちょっと、ちょっと謎ボイスちゃん!?

あなた、いつも唐突なんですけど。

きちんと説明してくれないと何が何だか分からないんですけど!


『ぬっ! 娘、後ろだ!!』


って、銀ちゃんの叫びにビックリ!

後ろ? ……ぎゃあああっ! Gが5匹、めっちゃ怒り心頭って顔で襲い掛かってきたー!


ええいっ! だが遅い!

私にはテン助がある!


『ズバッ』


おわっ!

今度は昨日の剣のような、肉を切り裂いたような感触と振動が手を伝わってきました!

それでもテン助の切れ味はバツグンで、Gたちは綺麗に両断され、体液をまき散らせながら倒れていきます。


……もしかして、謎ボイスちゃんが “切ったよ” 的な感触を生み出してくれた、とか?


えええ、何それ!?


てか、やっぱり無理!

このGを切り裂いた感触は慣れない!

ごめん、やっぱり戻してもらっていいかな!?


《ポン》


お!!


《オーダー:固有名称 “斬魔刀・崩天”、称号『刃の達人』最適化実行》


《最適化完了》


……初めてじゃない?

謎ボイスちゃんが私の言葉に反応したのは。


ね、ねぇ! 最適化って何!?

『ヤイバノタツジン』って、『刃の達人』?

そして称号って何ですか!?


……シーン、ですよ。


これだから現代っ子は!

自分の都合だけで動きよる!

謎ボイスちゃんが現代っ子かどうかは知らんけど。


『凄まじい威力だな……。』


あのー、感心しているところ申し訳なんですけど、銀ちゃん。貴方、私を守るっていう女王サマの御命令をブッチしてG達に斬りかかっていきましたよね?

“守る” って意味、辞書で調べた方がいいんじゃないの? ねぇねぇ。


『それにこの虫共の死骸は……。いくら妖刀だとしても魂だけでなく存在の(・・・・・・・・・)全てを奪うような(・・・・・・・・)力があるなど、聞いた覚えが無い。女王陛下は何かご存知なのだろうか?』


あー、はい。

完全に私の事を無視ですよ。


灰のように真っ白に朽ちたGの慣れ果てを眺めながら一人でブツクサ言っていますよ。

これだから現代っ子は! 知らんけど。


よぉし、こいつ等と会話できるようになったら真っ先にイリスさんに有ること無いこと全部ブチまけてやるんですから!


お腹が空いてイライラしているアヤカさんだからねー、止まらないよ? すっごく美味しいゴハンを食べさせてくれなきゃ収まりませんよ?


あ、美味しいゴハンが食べられたら全部許せる。


だから美味しいゴハンをプリーズ。



『うむ。娘よ。その刀を揮って無事なだけですでに我らの常識の檻の外に居る存在であると得心した。しかも貴様はスカルメイジ。何故、刀を揮うが魔術は発しないのか。』


そう、それですよ。


私、スカルメイジのくせに刃物をブルンブルン振り回しているアレな子なんですよ。


スカルメイジ、イコール、魔法使い。


憧れた魔法使いになったくせに、特大包丁を振り回すアヤカさんです!


いや、私だから包丁を揮うのは別に変じゃないというか日常なんだけど、せっかく魔法使いになれたんだから魔法の一つや二つ、使ってみなければならないじゃないですか。



しかし、問題がある。


魔法って、どうやって使うの?



魔法使っているガイコツさんもGも、マジカルなスティックや杖の先端に、スマホアプリDL中マークのような魔法陣をジワジワと作り出して、たぶん、それが完成したら発動す?というのは理解した。


つまり、あの魔法陣が出せれば魔法が出せるはずだ!

だがしかし、それにも一つ問題が。



私の武器、特大包丁のテン助です。


包丁って、魔法出せるん?



何か、ウロ覚えなんだけど、ミサキが見ていたアニメのシーンに、騎士みたいな主人公くんが剣の先端から魔法を放っていたのがあったんだけど、ああいうのはアリなのかな?


アリだと考えよう!

とりあえず、イメージだ!


私は真っ直ぐテン助を構え、その切っ先に例の魔法陣が浮き出るように力んで、念じてみた。




『……娘よ、何をしているのだ?』



はいっ、何も起こりません!

予想はしていたけど何も起きねぇ!


擬音付けるなら『ヒュ~~』ですよ。

冷たい風が静かに横切る感じですよ。


実際はあちらこちらからガシャガシャギシギシ、ギンギンボコドーン、って轟音が鳴り響いていますがね!



えー? やっぱり魔法ってあの糞重たいスティックとか持てないと使えないの?


魔法使いってか弱いイメージがあったんだけど、この世界の魔法使いはマッスルなゴリラさんにしか使えない脳筋仕様なの?


脳筋なら、ある意味アヤカさんもそうですよ?


自分で言っていて悲しくなるけど!

ミサキやハナちゃん、それに同じ脳筋キャラのヒナちゃんにまでにそう言ってバカにされるし。

ムッキー!



……逆に考えよう。


幼女と大きなお友達が大好きな日曜日の朝アニメ、プリティな女子たちが変身して悪者と戦ってキュアしていくアレも、基本は肉弾戦だ。


魔法的な技は、いつもラストに特殊演出+エコーボイスで発動して敵キャラを浄化している。


そう考えれば、現状、肉弾戦100%のアヤカさんもラストのラストには、魔法的な技が使えるようになってボス的な奴をブッパ出来るはずだ! 知らんけど。


よし、それに期待しよう!

どうすれば魔法が使えるかという根本的な問題は何一つ解決していないけどね!


こういう時に出番なのよ。

分かっているの!?


謎ボイスちゃあああんっ!!



『ぬぐわっ!?』


『ギャインッ!!』



うわわわわ、何!?


驚くほど豪快な剣戟音と同時に、あの巨体な銀ちゃんが吹き飛んだ!


え、え、えっ!?


『ジェネラル様!』

『貴様、よくもぉ!』


銀ちゃんが吹き飛んだ事に激怒した青銅騎士ガイコツさんが、わぁお、10人くらいで一斉に駆け付けてきた!


えー!? さっきGに襲われた私の時には振り向きもしなかったくせに!

守れってどういう命令か、君たちには後ほど小一時間くらい問い詰めてやる!

もちろん正座でだよ、正座!


何て、ちょっとイラッとしたアヤカさん。

だけど、次の瞬間には全身が凍りついた。



『ドギャアッ!!』



今までに聞いたことの無い、乾いた轟音。


そして、一瞬にしてバラバラに砕かれて吹き飛ぶ、数人のガイコツ騎士さん。



「ぎゃははははは! 温い、温いぞ。屍共がぁ!」



それは、老人のようなしゃがれた声だった。


思わず立ち止まる騎士ガイコツさん達が、バキン、ゴキン、と鈍い音を立てながら吹き飛ばされていく。



えっ、何、何が起きているの!?



驚き立ち尽くす私の、10m程手前。


いよいよ、その元凶の姿がはっきりと見て取れた。


金の縁取りがされた黒々と輝く鎧。

そこから伸びる首と顔。

肩からムキムキの腕が左右二本ずつ、計四本の腕。

その全ての腕に握られているのは、テン助レベルの巨大な剣。



銀ちゃんよりも大きい身体の、その相手。



カ、カ、カ……。



カマキリだーーーー!



四本腕に四刀流のカマキリさん現る!


うわあああっ! 無理っ! キモッ!




突如現れた巨大カマキリ。

守られるはずの私は、誕生2日目にして絶体絶命のピンチとなるのでした。

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