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Side.A02 平凡男子、平均になる

「こちらでございます、勇者様たち。」


僕たちは講堂で聖女さんの説明を聞いた後、聖王軍総大将のバルバロッサさんの案内で別室に案内された。


「わぁ……綺麗。」


数人の女子たちが、部屋を見回して感動している。


無理もない。

その部屋は白と青を基調とした円形の聖堂で、たまに芸能人とかが撮影で使うような美しいチャペルのような部屋だったからだ。


中心の台座には人の頭ほどの大きさのある青い輝きを放つ水晶のような球体。

しかも、浮いている!


その台座の周囲には、細い水路が張り巡らされており、四隅に配置されている小さな台から溢れる水がチロチロと流れている。


現代では見られない、独特の雰囲気。

美しくも不思議な空間に、僕も息を飲みこんだ。


改めて、僕たちはファンタジーな世界へ召還されたんだなと、実感した。



「あの中心の宝玉が、鑑定石でございます。」



きたーーー!

異世界お馴染みの鑑定!


言語理解、アイテムボックス、そして鑑定。


僕はこれを “異世界三種の神器” と呼んでいる。


まぁ、言語理解が神器と言えるかどうか分からないけど、この3つこそ異世界に移った主人公たちが良く手にする基本的かつチートなスキルである。


僕たちは、すでに言語理解手にしているようだ。


聖女さんやバルバロッサさん達の言葉をすでに理解できている時点でそれが証拠となっている。

それに、目に付いた文字も見るからに異世界言語だったが何故か読める。


……読めるというか、頭に浮き上がるように日本語が表示された。


うん、凄い。ご都合主義満載だ。


恐らくだが、言語理解は “異界勇者” と呼ばれる称号に付随しているスキルなのかもしれない。

後は、アイテムボックスと鑑定が備わっていれば完璧なんだけどな。



「この宝玉で、貴方たちの魂・身体・精神に宿った称号を見ることが出来るのです。一部ですが、称号に宿ったスキルも見ることが出来ます。」


後ろから着いてきた聖女ティータさんが笑みを浮かべて説明してくれた。


召喚された部屋や、さっきまでいた講堂では良く分からなかったけど、意外とティータさんは背が低い。


細いながらも豊満な胸部から海外モデルさんのような高身長をイメージしてしまったけど、身長150cmを下回る池田さんと同じくらいの背丈だ。


そんな、意外とちっちゃくて可愛らしさもあり、スタイル抜群なティータさんを数人の男子が身体をもじもじさせながら、チラチラと見ている。

うん、バレバレだよ。君たち。


って、ボクもティータさんに時々目が行ってしまう。

正直、こんなに綺麗で可愛い人を見た事が無い。


だけど、ボクには心に決めた人が居る!

ボクが好きなのは、池田さんなのだから。



「どうしたの、杉本くん?」


「ふぇっ!? あ、いや。綺麗な部屋だなって。」



と、突然、池田さんが声を掛けてきた!

おおおお、落ち着け自分!


で、でも何で、突然!?


「ふふ。杉本くん。聡明だってね。」


「あ、いや!」


「凄いよね。こんな夢じゃないかって現象が起きたのに、どっしりと構えて冷静に見られるなんて。……私には出来ないな。」


半ば自嘲気味に笑う池田さん。

そんな表情の池田さんも可愛いけどっ!?


「そ、そんな事ないよ! 僕だってさっきから夢じゃないかって、何度も頬っぺたを抓っているんだから。全然、冷静じゃないよ!」


むしろ、今の方が冷静じゃない。

クラスメイトだけど余り交流が無く遠目から眺めることしか出来なかった池田さんと、こんなに近くでお話しが出来ているのだから。


ああ、神様。

異世界に来られただけではなく、池田さんから話し掛けて来てくれたことに感謝します!


「ふふ。私とおんなじだね。」


「ふぇ?」


「……私も、こっそりと何度も、頬を抓ったから。」


はにかみながら告げる池田さん。

その表情にもうボクの心臓は限界です!


心音が隣の池田さんに聞こえているんじゃないかってくらい、爆音が鳴り響いています!


「夢じゃ、無い。……本当に、私達は魔物とか魔王とか言うのと、戦わなくちゃいけないのかな。」


またも表情が暗くなる。

分かる、池田さんは凄く不安なんだ。


頭が良く、周りに気遣いも出来る優しい池田さんだからこそだ。

他の女子たちもこの綺麗な空間に目を奪われているけど、内心は恐怖や不安で塗り潰されているはずだ。


そんな女子たちの雰囲気を察して、池田さんは余計に気持ちが落ちているのだろう。


烏滸がましいのかもしれないけれど。

そんな池田さんの負担を少しでも軽くしたい。


「池田さん。ぼ、僕たち男子もこんなに居るんだ。ま、任せてよ!」


可愛い池田さんの戦う姿も見てみたい気はする。

だけど、それで彼女が怪我をしたり、最悪は……。


やめよう、この考えは。


兎に角、池田さんが傷つくのは耐えられない。



それなら、僕が!



「あはは。頼もしいね、杉本くん。じゃあ聡明で頼もしい貴方に頼っちゃおうかな。」


「う、うん。」


ダメだって!

その笑顔は反則だってば!


多分、僕の顔は真っ赤に染まっているだろう。

真っ直ぐ、池田さんを見ることが出来ない。

やばい、これじゃ僕の気持ちがバレてしまう!



「……ねぇ。アヤカが居ないのは何でかな?」



前言撤回。

僕はハッとして池田さんの目を見る。


彼女は、悲しそうに少し涙ぐんでいた。


「アヤカ。これに巻き込まれなかったのかな?」


池田さんの幼馴染にして親友の、森盛彩佳さん。


召還された28人のうち、僕たち2ーCは全部で23人だった。

本来のクラス人数は25人、つまりこの場に2人居ないのだ。


その2人。

森盛さんと本庄くん。


その代わりなのか、隣のクラスのうち5人が一緒に転移している。


理由は良く分からないが、きっとティータさんの召喚術が僕らの教室中心で発動して、その余波みたいなものが両隣のクラスにも影響を及ぼしたのだろう。


ミサキさんの双子の姉、アヤカさんの姿は無い。

だけど、ミサキさんは召喚に巻き込まれた。


「巻き込まれていなかったなら、いいね。」


思わず出た言葉が、それだ。

もしかすると言葉のチョイスを間違えたのかもしれないけど……。


どうやら、正しかった。


池田さんは、また優しい笑顔を見せてくれた。


「うん。アヤカは食いしん坊に加えて激運の持ち主だからね。今頃、本庄くんと2人で “皆はどこー!” とか “お腹空いたー!” とか騒いでいるかもね。」


前者は想像できるが、後者は……。


うん、簡単に想像できる。


アヤカさんは、あんなに美人で華奢でスタイル抜群(田辺調べでFカップ? マジかよ)なくせに、男子の僕らよりも食べる量が半端ない。


早弁は当たり前、お昼もモリモリ食べるし、登下校の買い食いも日課みたいなのだ。


とにかく良く食べる。

そして食べる量も半端ない。

それが、アヤカさんだ。


ちなみに、アヤカさんは学校の最寄り駅から2駅先にある “ベーカリーハマグチ” でバイトをしている。


理由は間違いなく、自分が食べたいからだ。

多分、いや、間違いなく売れ残ったパンを大量に貰っては喜んで食べているんだろうな。


ちなみに、彼女がベーカリーハマグチでバイトをするようになってから、我が校の男子たちは足繫く通うようになったのは有名な話だ。


そりゃそうだ。あれだけの美人さんが白いエプロンと三角巾を被って笑顔で迎えてくれるんだ。


我が校最大派閥である “ミサキ派” の男子でもその姿はファビラスらしく、その時ばかりはミサキ派に次いで大きい派閥である “アヤカ派” の男子に平伏す勢いでパン屋へ向かうのだった。


なお、田辺はアヤカ派で、篠原はミサキ派だ。

二人はどっちが魅力的か、どっちが女性として素敵なのかと良く口論している。

間に挟まれる僕はたまったもんじゃない。


そんな二人も、パン屋でバイト中のアヤカさんは最高だと堅い握手を交わすから面白い。

うん、まぁそれは僕も同意するけどね。


ちなみに、言う間でもなく僕は “ハナエ派” だ。

そんな派閥は無い! と言われるが、誰が何と言おうと、僕は池田さん一筋なのだ。


――いつか池田さんと手を繋ぎながらベーカリーハマグチに行って、アヤカさんお勧めの激うまパンを二人で買いながら、アヤカさんに『熱いなぁ!』とか揶揄われたい。

それが、密かな夢だったりする。



「ふふ。杉本くん、笑うのは失礼だよ。」



そんな妄想をしていた僕は、あろうことか笑みを浮かべてしまっていた。

僕を覗き込むように笑顔を見せる池田さん。


ちょ、ちょっと!? 近いっ!


「アヤカはいつもお腹空いているから。あの子、いつも食べることばかりで可笑しいよねー。」


いえ、僕が含み笑いだったのは、アヤカさんの事ではなく、貴女の事を妄想していたからです。


――なんて、言えるわけ無いでしょ!?




「準備が整いました。では、勇者様。この宝玉に向けて手をかざしてください。」



鑑定石を操作していたバルバロッサさんが告げる。

いよいよ、異世界転移で僕たちの運命を決める、鑑定儀式が始まる。


だけど。


誰も名乗り出ない!


そりゃそうだよね。

意味分かんないし、むしろ意味を知っていても怖いだろうからね!



「じゃあ、あたしからやるわ。」



そんな空気の中、手を挙げた女性。

学校一アイドルでアヤカさんの妹の、ミサキさん。


凄い、何て度胸があるんだ。

さすがギャルだ。

怖いもの知らずというか、何というか。


「ミ、ミサキ!? 大丈夫なの!?」


クラスは別だけど、ミサキさんといつも一緒に居るギャルの野崎さん(僕調べで、隠れオタク)が大声で尋ねた。


だが、ミサキさんは野崎さんに格好よくサムズアップをして、笑顔を向けた!


「マコっち、大丈夫ほら、異世界あるあるでしょ? チートなスキル、じゃなかった、称号が出るかもしれないし。鑑定受けられるなんて最高じゃない!?」


眩しいくらいの笑顔。

普段は姉とは違いクールなミサキさんだけど、笑顔が物凄く可愛い。それこそ、ティータさんに負けず劣らずの美貌の持ち主だって分かる程だ。


ああ、男子たちよ。

聞こえるぞ?


『やっぱオレはミサキ派だ』

『いやアヤカさんの笑顔も負けてない』

『聖女さんも可愛いけどミサキさん最高』


女子だけじゃなく、ミサキさんに惚れ込んでいるヤンキー橘君に聞こえるぞ?


……あ。

その橘君もミサキさんの笑顔で完全に心を鷲掴みにされています! って顔をしている。


うんうん、分かるよー。その気持ち。

ボクもさっきまで、池田さんに心を鷲掴みに……。



って、今、ミサキさん何て言った!?



異世界あるある?

チートなスキル?


それって……。

“分かっている” って事だよね?


まさか、ギャル野崎さんと同じで隠れ……



まさかねぇ?



「では、ミサキ様。どうぞ前へ。」


「はいはーい。」


宝玉の前に立つミサキさん。

青白い光に当てられ、その姿は幻想的だ。


「では、手をかざしてください。」


言われるがままにミサキさんは宝玉の前へ手をかざした。

……本当に、勇気があるなぁ。



『ブウウウウウウンッ』



野太い羽音のような音が響く。

すると、ミサキさんの周囲に青白い文字がジワッと現れた。


おおお、こうやって表示されるのか!


「魂の称号『異界勇者』、スキル “言語理解”、“千里眼”、“探知”。」


ティータさんが告げた言葉を、バルバロッサさんが紙に書きしたためている。

やはりというか、言語理解は異界勇者のスキルの一つだったのか。


あとは千里眼と、探知。

何となく意味が分かるのは隠れオタクの習性故か。



「身体の称号『半身の相関』、スキル……無し。」


ん? ハンシンのソウカン?

彼女は関西プロ野球チームのファンだったのか?


それよりも、称号はあるのにスキル無しって……。

そういう事もあるんだな。


あ、何となくガッカリしている感じだ、ミサキさん。



「精神の称号『深淵魔導』……ええっ!?」



読み上げたティータさん、明らかな動揺。

もしは、本当にチート称号か!?


「せ、聖女様、まさか!!」


「はい! 先代勇者の一人、大賢者カールスーヌ様が持ち得た称号です!」


本当にチート称号のようだ!

しかも、大賢者!?



「きたーー!」



ミサキさんも大喜び。



これって、たぶん、気の所為じゃないよな?




ミサキさんも、隠れオタク???




「スキル、“下級魔導”、“高速展開”、“魔導無効” ……凄まじいです!」


震えるティータさん。

うん、今の言葉だけで凄まじいことは分かった。


ただ、そのスキルの詳しい効果が分からない。

どこかで説明してくれるのかな?



「ミサキ様は、大賢者様の再来ですな。」


鑑定終了のミサキさんを絶賛するバルバロッサさん。

加えて、部屋の外周に立っているシスター風の女性たちや騎士さんたちも、羨望の眼差しをミサキさんに向けている。


「へへへ。大賢者かー。」


満更でも無いミサキさん。

本当に笑顔が眩しいな。


「さぁ、続けてどなたが受けますか?」


「「「「はいっ!!!」」」」


ミサキさんに続け!

と、言わんばかりに男子たちが手を挙げました。

田辺も篠原も、凄い形相だ。


おいおい、ティータさん困っているじゃないか。

むしろ、引いている。

引き顔のティータさんも可愛い。


「杉本くんは手を挙げないの?」


隣の池田さんが首を傾げて尋ねてきた。

ドキリとしながらも……確かに。


僕以外の男子の殆どが、手を挙げているからだ。



「うん。もう少し様子を見ようかと思って。」


「ふふ。聡明な杉本くんは冷静なんだね。」



何か、さっきからやけに “聡明” を強調するな?

そんなにティータさんやバルバロッサさんに評価された事が気になるのか。


……もしや、嫉妬!?


この場合、“ティータさんに褒められてデレデレして何よ! 杉本くんの馬鹿っ!” とかいう嫉妬ではなく、クラスで一番の秀才である池田さんを差し置いて聡明なんて言われた事に対する、嫉妬なんだろうな。


言っていて悲しくなるが、池田さんが僕の事を好きなわけがない。


どこへ行っても絶賛片思い中の僕です。


な、何とかもっとお近づきにならねば!



さて、鑑定の順番だけど、荒れる男子たちが最終的にジャンケン大会で公平に順番が決定となりました。


その様子に女子たちから壮大な顰蹙を買ってしまったことは言うまでも無い。




「では次、シュンタ様。」

「おう。」


ジャンケン大会を制したのは、ヤンキー橘君。

ガツガツと宝玉前まで大股で歩き、手をかざす。



「魂の称号『異界勇者』、スキル “言語理解”、“威圧”、“限界突破”」



何となく予想はしていたが……。

同じ “異界勇者” という称号だとしても、得られるスキルには違いがあるみたいだ。


単に発現する差異があるだけなのか?

それとも、違う理由があるのか?


検証は後々として、“威圧” かー。

橘君らしいスキルだな。


恐らく敵対者を怯ませる効果があるとかだろう。


ただ、もう一つのスキル。


“限界突破” ?


ヤンキー特有の火事場の馬鹿力みたいなものかな。



「身体の称号『破壊』……す、凄い!!」


続いて身体の称号。

物騒な称号だけど、目を輝かせるティータさん。

それって凄いの?


「まさか、“壊” 系の称号持ちが勇者様から誕生するとは。これは、期待できますな。」


“壊” ()

称号にも系統があるという事か?


で、“破壊” って凄いの?


「“壊” 系は、武道を極めんとする者にとって垂涎の称号ですぞ。特に、“破壊” とまでなると、ミスリル製の防具も素手で壊すことが出来るかもしれません。」


バルバロッサさんが解説してくれた。


って、ミスリル!?


出た、ファンタジーの定番素材!


ミスリルあるんだなー。

現物を見るのが楽しみだな。


だけど、それすら素手で壊すだって?

さすがは硬派ヤンキーの橘君だ。


男は黙って素手で勝負!

とか良く言っているからね。

でも、暴力反対だよ!



「スキル、“武器破壊”、“防具破壊”、“魔導破壊”……。どれも常時発動ですね。凄いですわ、シュンタ様!」


目を輝かせるティータさんに、顔を真っ赤にして頭を掻く橘君。


分かりやすいけど、女子たちの目線が怖いよ。


ミサキさんは……。

あ、へー、と呟いている。


あれは橘君自身にではなく、橘君の称号やスキルに関心しているだけっぽい。


ここで嫉妬心でも見えれば、少しは橘君に芽があったのかもしれないけど。


うん、頑張ろう。橘君。



「精神の称号……無し。」



うわー! あからさまにガッカリしたよ、橘君!

最初に聞いていたけど、発現していない称号って本当にあったんだね。


「落ち込まないでください。ここで過ごす事で、いつかは必ず発現するものです。」


ティータさんにそっと手を握られて慰められる。

わー! 顔、真っ赤だよ橘君!!


気付いて! 女子たちの目線に!

やばいくらい、怖いから!


……池田さんは?


あ、別に橘君自身に興味を示していない様子。

ミサキさん同様に、称号が無かったことに「そういう事もあるのね……」と呟いている。


ちょっと安心。

だけど、まだ安心できない。



次の、番。

彼だ。



「では、次は……ユイト様。」


橘君の時とは打って変わって、表情を柔らかく崩すティータさん。頬も赤らめ、うっとりと眺めるその相手は、学校一のイケメン市川君だ。


もうすでに、予感がする。

彼こそ、真の勇者ポジションだ。


お約束(テンプレート)なら、凄い称号が宿っている。


「よろしくお願いします。」


律儀に、ティータさんとバルバロッサさんに頭を下げる。ああいった姿勢や態度も、市川君のイケメン度を高める要素だ。

本当に格好いい。



手をかざす市川君。

再び、浮き上がる文字。


だけど、ミサキさんや橘君の時よりも……。

文字、多くないか!?



「魂の称号『異界勇者』、スキル “言語理解”、“鑑定眼”……か、鑑定眼を発現するなんて!」



再び叫ぶティータさん。


僕もビックリだ。

だって、定番の鑑定眼が出たんだから!


「そ、それに “異次元収納術”、て、“天命” !?」


「天命ですとっ!?」


うおっ!?

野太い声のバルバロッサさんが大声を上げると、さすがに僕らも身が縮こまる。


まず、異次元収納術。

もうこれはアレだよね。定番中の定番。

所謂、アイテムボックスだ!


うわー、羨ましい!


ただもう一つ。


天命?



「ユイト様!!」



ええっ!?

今度はどうしたのティータさん!


突然、跪くティータさん。

それにバルバロッサさんに、周囲の騎士さんやシスターさんたちも一斉に跪いた。


「な、なんですか!? 頭を上げてください!」


もちろん、市川君も驚きを隠せない。

善人を顕現させたような市川君にとって、自分が跪かれるなんて耐えられないんだろう。


「ユイト……様。」


えええええっ!?

ティータさん、めっちゃ号泣している!

本当にどうしたの!?


「失礼しました……。『異界勇者』スキル、天命。

遥か太古、最後まで生き残った “覇王” こと、“傲慢の魔王” ルクフェルを討ち取った勇者様が宿していた、絶大なスキルです。それに宿るは、浄化の波動。」


「貴方様を、我々はお待ちしておりました。」


……やはり、市川君だな。

予想通り、完全な勇者ポジションだった。


ただ、そんな市川君はずっと恐縮するばかり。


恰好良くてスポーツ万能、頭も良いのに謙虚で低姿勢な市川君。


本当に敵わない。


ああ、女子たちも目を輝かせて市川君を眺めている。



池田さんも「凄い……」と呟いている。



うん、何となく理解していた。



池田さんは、市川君の事が好きなんだろうな。



ずっと見ていた僕だから、何となく分かる。


アヤカさんと一緒に居る時に話しかけてくる市川君に、すっごい笑顔を向けているから。


さらに、市川君と池田さんは、時々、二人で仲良く話し込んでいることもある。


たまに、二人で帰ることもある……。

市川君が、池田さんのことを “ハナ” って愛称で呼んでいるし、池田さんも市川君のことを “ユイト” と呼び捨てで呼んでいる。


そう、この二人は凄く仲が良いのだ。


分かっていた。

だけど、認めたくなかった。


――でも。もはや認めざるを得ない。



異世界に来ても、市川君は市川君だ。


本当の勇者は、彼なんだ。



そして、池田さんが好きな人は、市川君だ。



一人で気分を沈ます僕だが、鑑定は淡々と進む。


「身体の称号『刃使い』……スキルはまだありませんが、凄まじい称号です。」


「天命に、刃使いとは。これはかつての最強の勇者様を超える逸材かもしれませんな。」



バルバロッサさんの話では、“刃使い” も相当なチート称号らしい。


“刃”、つまり刃の付いている武器を持つことで、訓練や修行を積んでいなくても剣術が自然と身に着いた状態となり、そこから放たれるスキルは、相手の武器や防具ごと切り裂くことも可能だそうだ。


『異界勇者』の天命。

刃使いとを合わせることで、それだけで魔王すら屠れるだろうというのがバルバロッサさんの評価だ。



――もう、市川君だけ居ればいいんじゃないかな?



恐らく、何人かはそう思っただろう。


しかし。


「皆様。いくらユイト様がとてつもない称号とスキルを有していたとしても、お一人では魔王と魔王率いる軍勢に立ち向かう事が出来ません。異界勇者は、皆様は、チームなのです。皆様で立ち向かっていただけなければ、我ら人類に未来はありません。」


「それは我等も同じであります。もちろん貴方様たちだけを死地に向かわせることは決して致しません。聖王軍だけでなく各国軍勢も共に戦います。皆様は、決してお一人ではありません。」



その空気を払拭するように、ティータさんとバルバロッサさんがフォローする。


それは心強いし、ありがたい。


正直、諦めのような自虐のような想いが拭えないのも事実だ。


それだけ、市川君の評価は僕らが太刀打ち出来るものではないからだ。



しかし、予想外の事が起きた。



「精神の称号……無しです。」



完璧人間の市川君でも、精神の称号はまだ発現していなかった。


ただ、市川君自身は少しホッとしているみたいだ。


自分があまりに凄まじい称号とスキルを得たことで、他のメンバーに何かしらの劣等感を植え付けてしまったのかもしれないと戦々恐々したのだろう。


だが、精神の称号は発現していなかった。

何故か、安堵する市川君。



「ボクもシュンと一緒だ。一緒に頑張ろう。」


お道化ながら、自分をなるべく等身大に見せようとする健気な市川君だ。

驕る事も見下す事もない。


……市川君は、本当に凄いよな。



少し落ち込む橘君に笑顔で肩を組む市川君。

「うぜぇよ、ユイト!」と悪態つきながらも笑顔で同じように肩を組む、橘君。


教室でも見れた親友同士のやり取り。

あの二人は正反対に見えても、本当に仲が良い。


ただちょっと気になることが。

そんな二人を顔を赤らめて見守る女子だが、中には明らかに別の意味での目線を飛ばす女子も居る。


うーん、所謂アレかなー?


って、あれ?

ミサキさんと、野崎さん?


笑って、いない?


じゃれ合う市川君と橘君を、少し遠目で睨むように見る二人。


その目を見て、思わず背筋が凍る。


どういう、事?

何か怖いな……。





それからも鑑定は続いた。

男子たちは僕以外全員終わり、続いて女子の番。


僕は手を挙げなかったからか、そして池田さんの隣に居たこともあったからなのか、順番は池田さんの後となった。


僕は池田さんの傍に居たかっただけなんだけどね。


ちなみに、今のところ魂、身体、精神の3つのうち、全てにら称号が発現してたのは6人だけだった。


殆どが、精神の称号がまだ発現していなかった。


中には、身体と精神には称号が発現してなく、魂の称号である『異界勇者』だけの人もいた。


ちなみに、田辺も異界勇者だけで相当凹んでいる。


まぁ、頑張れ。



「ではお次、アキラ様、どうぞ。」



そしていよいよ、僕の出番だ。


平凡なモブである僕も、異界勇者だけしか発現していない予感しか無い。


田辺よ、お前一人にはさせないぞ!



「頑張ってね、杉本君。」


隣の池田さんが、良い笑顔で送ってくれる。


それだけで凄い称号やスキルが発現してそうだ!


うわー! カッコ悪いところは見せたくないぞ。

せめて、身体の称号は発現していて欲しい。



「あ、ありがとう!」



色んな考えが過ったが、お礼は忘れない。

池田さんに精一杯の笑顔を向けたあと、僕ほ真っ直ぐ宝玉へと向かった。

笑顔は向けたけど、池田さんの目を見ることは無理でした!

頑張って、って言葉だけで心臓が限界っすから!


台座の上。

宝玉は、遠目では分からなかったけど、薄い膜みたいなのが張られているように、中がウニョウニョと青白い斑模様が蠢いている。


見れば見るほど、不思議な道具だ。


「では、どうぞ。」


ティータさんの声に合わせ僕は手をかざす。

心臓は、池田さんを隣にした時くらいにバクバクしている。


正直、怖い。

本当に、価値が無いと判定されたら、どうしよう。



「魂の称号『異界勇者』、スキル “言語理解”……だけですね。」



うわ、マジか!


今まで、『異界勇者』の称号から発現したスキルが、基本スキルとも言うべき言語理解のみだったのは誰も居ない。


最低でも2つ、市川君みたいに多い人で4つ発現していた。



血の気が引く。


本当に、僕は役立たずなのかもしれない。



これで、身体と精神に称号が無かったら、終わりだ。


“いつか発現する” のかもしれないけど、この時点で僕は召喚メンバーの最底辺となる。


……何が、守るだ。


このままじゃ、池田さんを守れない。



頼む。


お願いだ。



発現、していてくれ。




「身体の称号、無し。」



なんてことだ。


終わった。



平凡に生きる僕に役立たずのレッテルが貼られた瞬間でもあった。


これからどうしよう。


ティータさんの言葉通りなら、放逐されることは無い、と信じたい。


だけど、やはり、どうなるかは分からない。



不安で頭がおかしくなりそうな僕であったが、意外な言葉をティータさんが告げた。




「精神の称号、『平均なる者』。」




何と、精神の称号は発現してくれていた。


これって、今までに無かったケースじゃないか?


大抵、身体の称号が発現していなかった人は、精神の称号も発現していなかったからだ。


そういう意味でも、僕以外では6人しか精神の称号持ちが居なかった。


これは異常なことなのかもしれない。

ただ、魂の称号だけじゃなくて心底安心した。



……それでも、その称号の名称。



『平均なる者』



もう、笑っちゃうよね。



自他共に認める、平凡男子。



顔も、運動も、勉強も。

ほぼ、平均点。


まさに平均に位置する、平凡なモブ。


それが僕だ。



さすが称号。

見事に、僕を体現しているね。



「まさ、か……勇者様に。」


「聖女様……。」



ん? 何やらティータさんとバルバロッサさんが震えているな。


そんなに震える程、面白い称号だったんですか?


笑いたきゃ、笑っていいんですよ。

大丈夫、怒りはしませんよ。



むしろ。

この称号の通りです。


平凡で、平均な男。


それが、僕です。




「「アキラ様っ!!!!」」




って、ええええ!?

なんで、なんでなの!?


それは、市川君の時と同じ状況だった。


ティータさんとバルバロッサさんは叫ぶと同時に跪いた。更には周囲の騎士さんやシスターさんも跪く。



え、何で!?


何でなのっ!?



何がなんだか分からない、僕。


思わず、“助けてっ!” って目線を、池田さんに飛ばしちゃった。


その先には、困惑した表情の池田さん。


そりゃそうだよね!

意味分かんないよね!?


でも、安心して?


僕が一番、意味が分かっていないから!!





後々に知ることとなるのだが。


僕に発現した、『平均なる者』という称号。


まさか。

本当に、まさか! だった。




ぶっ壊れ(チート)称号”




それがまさか、魔王が所持するレベルのぶっ壊れ称号だったなんて、分かるわけないでしょう!?

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