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01 腹ペコガール、転生する

『*△@◆※**〇□▼!』



はい?



頭に響く甲高い音。

ていうか、声??

その声に気付き、私は目を開け、る?


ん? あれ? あれれ?

目を開けようとしたけど、感覚が無い。


目を開けているのか、開けていないのか。

それすら分からないまま、私は暗闇の中にいる。


それに、何だか身体も変。

暑いとか、寒いとか、丁度良いとか、感覚が無い。

服を着ている、という感覚すら無い!


う、うええええっ!?

どゆこと!?


ちょっと待て。落ち着け、私。

こういう時は左ポケットに忍ばせたグミを食うべし。


何となくだけど、左腕は動かせる気がする。


うん、動かせる。



『ガチッ』



ふぇっ?

ガチッ、て何よ。ガチッて。


音が聞こえたわけじゃないんだけど、感覚的に。


左手が触れたのはお菓子を忍ばせたブレザーの左ポケットの、あのふっくらとした感触じゃないのよ。


何か、堅い物に触れたみたいな?


“触れたみたいな” って言うのは、何か、触ったという感覚とはまた別物。あえて言うなら、当たった?

堅い物が堅い物に触れた時の感じとか、音がしたとかそういう不思議な感覚しかない。


ん?


『*△@◆※**〇□▼!』


またあの声だ。

何だろう、頭に響くというか、耳から聞こえてくる声じゃないのよね。

心無しか、さっきよりキツイ口調にも感じる。


えーっと、何なの?


てか、何も見えないし。

真っ暗だし。

よくよく考えると音も聞こえない。


暗闇に無音。

ブッツリと、世界から取り残された感じ。


――って、おいっ!

何を悠長に考えてるんだ私はっ!


見えない、聞こえない、ついでに声も出せない。


もしや、何かに閉じ込められている?

まさか、私、誘拐されたとか!?


ヤベーッって! ヤベーッてば!


てか私を誘拐?

何のメリットあるの?

うち、お金無いよ?

普通のご家庭っすよ?


ママはパート、パパは草臥れたサラリーマン。

あとは双子の妹のミサキと、猫のまめきち。


まめきちは雑種で大食らいのオデブちゃん。

うん、飼い主()に似たんだな。


ってちょっと待て! 待ってくれ!

私は決して太っていない。むしろ痩せている!


確かに他の女子よりはちょっと食べる量が多い。

親友(ハナちゃん)曰く『ちょっと? 私の3日分程を1日で食うのを、ちょっとって言うの?』)


これでも体型は痩せ型で、所謂、美容体重をわずかに下回るくらいだ!(親友(ハナちゃん)曰く『アヤカの体質と体型は、全ての女子を敵に回している。もちろん私を含めてね。おんどりゃああああ!』)



――あぁ、あの時のハナちゃんは怖かった。



それは良いとして!

私を誘拐するメリットって何がある?


あれか、妹のミサキと間違ったのか!?


そりゃあ、(ミサキ)はお姉ちゃんの私が言うのも何だけど、めちゃんこ美少女よ?


街を歩けば男が振り向き、受けたナンパの数は年齢×100回でも足りないかも!


カットモデル、読者モデルにならないかと必ずと言っていいほど毎回キャッチを受け、ミサキが映ったイン〇タはどこぞのタレントさん?レベルの「いいね!」がつく。


まさに! 姉の私が言うのもアレだけどっ!

ミサキは “超” 美少女なの!

私みたいな食い意地全振り女とは違うのっ!


……言っていて悲しくなるけど、ミサキはいつも『そんなお姉ぇが大好き』『お姉ぇが作るゴハン美味しいし』っていつも言ってくれる。


……ゴハン目当て? うん、考えない。



まぁ、あれだ。

もし誘拐となれば “ミサキと間違えちった!テヘッ★” が正解に近いな。

双子だから取り間違えたってか?


……って、間違えるか普通!?

私と超絶美少女ミサキちゃんを間違えるとか、あり得ないわ。

顔は双子だから多少は似てはいるけど、他は全然違うから、間違えるなんて絶対あり得ない!


ミサキは今時ぃ! って感じでヘアスタイルもファッションもガンガン盛っているけど、私はぶっちゃけオシャレには興味ないし。すっぴんだし。見た目は陰キャだし。


そんな事(オシャレ)にお金を掛けるなら飯を食う!

盛るのはホイップクリームで十分!


……あぁ、駅前カフェの鬼盛りホイップを更にマシマシにしたパンケーキ食べたくなってきたな。

あれねー、クリームだけじゃなくて甘酸っぱいベリーアイスも乗せているから意外とさっぱりしていて美味しいんだよね。

シナモンたっぷりのロイヤルミルクティとの相性も抜群! 唯一の難点は、女子高生のお財布事情では少々リッチ価格ってところよねー。


って、いけない。また脱線した。

ミサキにもハナちゃん達にも、『アヤカは美味しい物の事を考えるとすぐ意識が飛ぶ』って散々注意されているのになー。あっはっは。


いや、ふざけている場合じゃなくね?


私、よく考えろ?

土日の献立を考えるレベルで考えろ?


えっと、確か……。

ネムちゃん(根本先生:世界史教諭。授業を受けると皆眠くなるから、ネムちゃんの愛称で親しまれている)の授業中、教科書ブロックをしながらママのお弁当を食べていた時だ。


ママの生姜焼きは絶品なんですよ。


上品な味付けに、丁寧な焼き加減。

あの複雑な味わいを丁寧にまとめる謎技術。

冷めても美味しく、何故か固くならずにふわりと柔らかな舌触り。

一枚のお肉でゴハンがお替り出来るほど食欲を掻き立てるほどの絶品だ。


ママは本当に料理の天才!

そのおかげで、私は見事にゴハン大好き腹ペコガールに育ったわけなんですよ。


料理は私も頑張っているんだけど、主婦歴20年のママにはまだまだ敵わないところが多い。

ただ、何となくはあの生姜焼きの味や焼き具合諸々は近づけている気がする。

今度また作ってみようかな。



って! また脱線してるし!


思い出せ。

あの時確か、早弁していた時だ。

隣の席の市川が、あろうかとか私のお弁当のおかずを奪おうとしてきたんだった!


市川っていうのはクラスメイトの男子なんだけど、うちの学校一のモテ男らしいんだ。知らんけど。


で、こいつはミサキの事が好きっぽいらしく、休日は何しているの? とか、好きな食べ物は何? とか事あるごとにアレコレと私に聞いてくる。


正直うざい。

直接ミサキに聞けよ、ヘタレめ。


てか、アレコレ話しかけられる私の身にもなってみてよ!? 私は全く興味無いとはいえ、相手は学校一のモテ男だぞ!

市川が話しかけてくる度に私へ向けられる女子や男子の嫉妬や殺意の嵐。マジで生きた心地がしない!


……って、何で男子まで?

あいつ、男子にもモテるのか。半端ねぇな。


確かに市川は、もう一人のクラスのイケメン、インテリヤンキーこと橘と仲良いし、ソッチ関係が大好物のお嬢様たちに組んず解れつの絡みを妄想されてはウケている、らしい。


まぁカップリングがどうかとか、リバがどうかとかで戦争になるから、ミサキ曰く『タブー』らしい。

知らんけど。


まぁ、そんなモテ男クンが、私の大切なお弁当のおかずを奪いに来たというのだよ。


貴様、さてはあの黒猫だな?

ミサキに無理矢理やらされたゲームで、私が上手に焼き上げたお肉を奪っていった、あのネコチャンだな?

ゲームだろうと何だろうと、奪われた食べ物の恨みは永遠に残るんだよ!


お弁当を死守しようと睨みを利かせた時だった。


……あ、そうだよ。

あれ(・・)は一体、何だった?



『*△@◆※**〇□▼!!!』



あー、うるさいっ!

今、大事なことを思い出している最中だから!

黙っていて!


えっと、そうよ。

市川にママの生姜焼きを奪われそうになった時、私は見た。



天井から、教室全体を覆うくらいの大きな白い箱。



うん、箱だよね?

それが天井から、ガバッ! と開いて教室を覆った。


で、悲鳴を上げる私。

だって、市川が突然私に抱き着いてきやがったから!


たぶん、他の女子なら『トクン』とか『キュン』とか擬音付きでトキメキするんだろうけど、こちとら早弁中の腹ペコガールよ?


『弁当奪う気が、この×××野郎!』


左手は添えるだけ。

左手でお弁当をサッと守って、右手でグーパン作ったのよ。


狙うは奴の顎下。

何だっけな? ミサキが集めていた筋肉隆々の格闘漫画で、顎下の薄皮一枚を掠るように殴ると、脳みそがシェイクして意識を失うってやつ。

ソレね、ソレをしようと思ったのよ。


そんな私の目に移ったのは、今度は小さな黒い箱。

天井でバックリと口を開けた白い箱より、遥かに小さい黒い箱。



あ、そうだ。

私、その黒い箱に包まれたんだった。



で、気付いたら今の状況ってわけよ。

あれが誘拐犯の手口ぃ??

そんなファンタジックな!


市川や他のクラスメイトたちはどうなったかな?

ミサキは隣のクラスだから分からないな。

……ミサキは、大丈夫かなぁ。


まぁ、皆の無事を確認するには、まず自分が何とかならないとだよね。


えーっと、視界は塞がれ、音も聞こえず声も出ない。

うん、誘拐されたって考えるのが近いよね。


……って、私、さっき腕を動かしたじゃん。


腕が動くってことは、縛られていない?

何となくだけど、縛られている気がしない。


腕を動かしてみる。

うん、両腕動く。


脚。

うん、動く動く。


あ、激しく動くと誘拐犯(?)に気付かれるかな?

でも、ここは真っ暗だし。相手も見えていない?


って、私が単に目を閉じているだけ?

うーん、目を開こうにも何故か感覚が無い。


さて困ったぞ?

音も聞こえないって事は、この場所には私一人だけってことかな?


何か手掛かりは無いかな。

とりあえず身体の様子を確認だ。


『ガチッ、ガチチッ』


音は、聞こえない。

だけど感触は、さっきポケットからグミを取り出そうとした時に感じた堅い何かに触れた時のようなものだった。


触ったのは、胸のあたり。


何だこれ? あばら?

あれ? 胸が、無い?


恐る恐る、お腹の方へ手を下げる。


ガ、ガ、と堅い何かを触れながら、ちょうど鳩尾のあたりでスカッと空を切った。

そのまま手を中へ入れると、中心のゴツゴツした太めの棒に、触れ、た……?


棒、なのかな、これ?


それよか、位置的には私のお腹だよね?


そりゃあ私は食べても食べてもいつもお腹を空かせている腹ペコガールだけど、流石にお腹が空洞なわけないでしょー!?


『アヤカのお腹は底なし』

『ブラックホール胃袋』

とか言われるけどさ、あくまでもそれは例えよ!

てか、底なしとかブラックホールとか酷くない!?


食べればちゃんとお腹は膨れるし、お腹が膨れれば幸せだし、食後のデザート何食べようかなって考えるの最高だし!


……うん、食後のデザートってところで友達にドン引かれたり、キレられたりしていたなー。

でも、デザートは別腹よ。



ああ、いけないいけない。また脱線だ。


えっと、まず私の手が触れたゴツゴツの棒。

私のお腹が謎の空洞で、それを突き抜けて触れた。


あと、その棒が置かれているのは、たぶん床。

その床っぽいのをなぞると、ゴツッと何かに当たる。

今度は位置的に……私の、胸の下あたり。


てか、胸のあたりも、空洞……?


隙間のある、堅い感触の何か。

まるで私の身体の中に出来たとしか思えない、奇妙な空洞。


触れたのは、背中に当たりに位置する、謎の棒。



……これ、背骨?



って、ええ、ええええええっ!?



『ブンッ』



突如、私の頭に響く電子音っぽい音。

と、同時にさっきまで真っ暗だった視界が晴れて音も聞こえるようになった!



え、ここ何処?



真っ暗、とまでは言わないけど、薄暗くて何だか気味悪い空間だ。

天井は異常に高くて、暗闇と同化しているからよく分からない。


辛うじて見える壁の先にある柱は、何だろう、パルテノン神殿? みたいな円柱の柱。


視線を床へ向ける。

そう、私が寝そべっている床だ。


感じとしては大きな石畳。

で、何やら黄緑色に光る模様。


よくよく見ると、巨大な円形を形作っていて、見慣れぬ文字やら記号やらがビッシリと描かれている。


ミサキが持っている漫画やゲームで見るあれだね、魔法陣とかそういうのっぽい!


何かの儀式?


って、うぇぇっ! 怖っ!?


思わず身が引けてしまった。

だって、仕方ないじゃない!


私の目に映った、モノ。

それは。



腕の、人骨。



こぇーってば!

私のすぐ横に、腕の骨が転がっているんだよ!?


いくら私が心霊番組とかホラー物が平気だからって、さすがに人骨と添い寝をするのは初体験だよ!

嫌な初体験だな!

出来れば経験したくなかった。



よし、逃げよう。


ゆっくりと立ち上がろうと、身体を起こしてみる。


『ガチャ、ガチャ』


音が鮮明に聞こえるようになったからだけどさ、さっきから遠くでガチャガチャ音がしているのも気になったけど、何なの、このガチャ音は? 今、すぐ私の近くで音がしたよ、……ね?



ひっ!


ひ、ひぎゃあああああああっ!?



声が出ないけど、そりゃあ盛大に叫ぶさ!

女子高生にあるまじき事なのかもしれないけど!?

ひぎゃあ! って叫ぶよ、これは!



骨が、私と一緒に動いた。



ううん、そうじゃない。


私が立ち上がろうと、床と身体を支えるように踏ん張った、私の腕。



それは、さっきまで添い寝していた人骨だった。



そう、添い寝していた訳じゃない。

その人骨こそ、私の、腕。


震える私は、右腕を目の前に掲げ、指を折り曲げては開いたり、閉じたりしてみた。


指は高性能なCGでも見ているんじゃないかってくらいスムーズに、それでいて『カタカタカタ』と軽快な音を打ち鳴らしながら動く。


目線を下に下げる。

未だ床に座り込む私の、膝、腰、そして胸が順に目に映る。


骨。


骨、骨。


ホ、ホネェェェェェェッ!?


慌てて今度は左腕を見る!

うん、骨!

肩、脇、横っ腹! うん、骨だよ骨ぇ!


勢いよく立ち上がる。

腰も太腿も、ぜーんぶ、骨っ!


いやああああああっ!

私、ガイコツになっちゃったの!?

無理だよ、無理っ!


だって、ガイコツって消化器官ある? 無いでしょ!

視覚と聴覚はあるけど、嗅覚と味覚はどうなの!? あっても意味無いでしょう!?


だってガイコツよ!?



ゴハン、食べられないじゃないーーー!



うん。夢だね★


あはは。何て悪夢だよ、全く。

この自他共に認める腹ペコガールが、ゴハンを食べられなくなる夢を悪夢と言わず、何ていうのさ。


さぁ、寝るか。

こういうの明晰夢っていうのかな?

やけにリアル。


だけど夢に違いない。

あー、夢で良かった。


夢から覚めたら、ママの美味しい朝ごはんを堪能しよう。


あれ? 明日は土曜日?

じゃあ、ママより先に起きて私が朝ごはんを作ろう。

冷蔵庫チェックを忘れちゃったけど、何とかなるか。



『ガチャガチャガチャ』


ったく、何よ!

人が夢から覚めようと、寝ようとしているのに!


……我ながら意味の分からないことを言っているとは思うけど、さっさとこの悪夢から目覚めるのが、私の使命、なの、よ!?



『*△@◆※**〇□▼!!!』



先ほどから聞こえる、頭に響く怒声。

視界が晴れた私の目の前にいたのは、二体の骸骨。


そして、その骸骨の中心。


黒い布、というかローブ? を纏い、頭には黒い王冠のような物を乗せ、そこから覗く顔は、黒いドクロ。

特徴的なのは、足が無いこと。

不自然に、ぶわりと、宙を浮いている。



『*△@◆※**〇□▼!!!』



ひぎゃあああああああああっ!!!

お化けぇぇぇぇええええええ!!!



――――



私の名前は、森盛(シンセイ) 彩佳(アヤカ)

皆には、アヤカとかアヤちゃんとか呼ばれています。


都内の高校に通う、今をときめく女子高生。

座右の銘は、“三度の飯よりゴハンが好き”


……これ、自己紹介で言ったら失笑されたな。

ガチなのに。


おっと危ない。また脱線するところだった。


大分、いや、かなり後になって知る事なんだけど、どうやら私は、“異世界転生” をしたみたいなのです。


聞けば、転生先は貴族や王子、王女とか、もしくは平民でも凄いチートな能力を持っての勝ち組ハッピー人生を謳歌するのがセオリー、だとか。


ふーん。

へー。

ほー。


こちとら、人間でもなんでもないですよ!?

この際、普通の魔物でもなんでもよかったよ!?


贅沢は言わない。

美味しい物を食べる事が出来るのなら!


それなのに、私の転生先!

最弱級の死霊魔物、“骸骨兵士(スケルトン)

能力! “食べる必要無し”

以上!



腹ペコガール、ガイコツに転生。



うわああああああっ!

ありえねぇぇぇぇぇええええ!



お願い!

誰か、夢だと言って!?

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