物語は天使も交えて
「めめめ、女神さまぁ!?この人、召喚された人の一人ですよぉ!?」
「え、そうなの!?そんなこと、一言も言ってなかったじゃないの!」
我に返った天使が、オレの方を指差して女神に訴える。おいおい、他人に指を差しちゃいけないってことを学ばなかったのかい?女神さんよ、自分の部下にどんな教育をしているんだい。
訴えられた女神は、オレの肩をガシッと掴み、ガクガクと揺らしてくる。
お〜お〜、頭が揺れる揺れる。
揺れながらだが、オレは真顔で彼女に一つ質問をした。こればかりは聞かなけりゃならないからだ。
「じゃあお聞きしますが、先ほどの警戒MAXの状態でそんなこと言ってたら、何をしてました?」
女神の揺さぶる腕がピタリと止まり、その衝撃でオレの頭はガクッと後ろに倒れて止まった。危うく首が折れるところだったが、その痛みで顔をしかめることはしなかった。そんなことをしたら嘗められると思ったからだ。
真顔で女神を見つめるオレと、真顔で泳ぎまくっている目を必死にオレの顔に固定しようと試行錯誤している女神。側から見れば勘違いされそうな構図だが、近くで見ると気味の悪い構図だな。
女神はゆっくりと肩から手を離すと、ゆっくりと腕を組み直し、全く膨らんでもいない胸を寄せ上げようとして失敗し、顔をしかめた。
なんかここまでくると、胸がない人って大変だな。
なぜか天使がオレを睨んでいる。別に何もおかしなことは言っていないはずなのに、視線で虫を殺せるくらいの鋭さで睨んでいる。おかしいな、何でだろうな。
「べっ……」
顔をしかめてはいるものの、目が泳ぎまくっているため、何を考えているか読み取ることはできないが、それでも言葉を絞り出そうと必死になっている女神は、やっとの事で口を開いた。
「別にここで私を見たという記憶を消去して、不法侵入した罰としてそのまま地上に転送してたかもしれない、なーんて思っても考えてもないデスヨ」
「それは良かったです。女神様はお優しいですね」
語るに落ちたことはさておき、会話って大事だよな。
会話に冗談を交えずに、正直にありのまま起こったことを話していたら、オレは異世界で何の能力を持たないまま死ぬことになっていたんだ。
うんうん。人の顔色を伺って生きてきたこの経験が、まさか女神相手に役立つとは思わなんだ。
ま、能力をくれるかどうかは、今からの行動にかかっているから、まだ何とも言えないんだけどねぇ。
なぜか天使が胸を張っている。オレの褒め言葉に関して、「わたしの上司ですから」という風に自慢しているのだろうか。だとしたら、まあ何というか、可愛らしく上司思いな部下だと思う。女神より背は高いけど。
オレは女神の目をまっすぐ見て、そして一礼した。
「では、少し冗談を交えて、白い光に飲み込まれてからこの場所に辿り着くまでのことを、面白おかしくお話ししましょう」
先ほどのように、大事な部分を隠さずに、戯けた様子でヘラリと笑う。
それを見た女神は、何を思ったのか指を一回、パチンと鳴らした。
するとどうだろうか。部屋の中央に、大理石でできているような丸い机と丸い椅子が現れた。どちらも足はついておらず、宙に浮いている。
女神はそこに座り、天使は書類を机に置くとおずおずと女神の向かい側に座った。
それを確認したオレは、話を始めようと口を開く。
「では、どうか楽な格好でお聞きください。とは言っても、オレは普通の話し方はできませんので、どうか泥舟ならぬ、砂船に乗った気分でお聞きください。なぁに、簡単には沈みませんよ」
胸に手を当て、逸る鼓動を落ち着かせるように撫でる。
そしてオレは、戯けた口調で話し始めた。