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冒険のお供に道化師はいかが?  作者: 何歳
序章 ただの大学生が道化師になれると思いますか?
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異世界への招待状は土砂降りと共に

 夏のある晴れた日のこと……いや、すっごい土砂降りだったわ。


 大学生のオレは、クーラーによる冷たい風でキンキンに冷えた教室にいた。そこで行なわれている教師のありがたい講義を聞き流しながら、窓の外を眺めていた。

 話の内容は、演技の役についてのことだ。オレが受けているのは、舞台劇が芸術とどのような関係にあるのか、どんな役があるのかについて学ぶ講義だから、オレが大好きな『道化師』についての話ももちろん出てくる。


 道化師……『ピエロ』とも『クラウン』とも呼ばれている。よくサーカスに出てくる白い顔に模様を描いた者や、派手な衣装を着て様々な大道芸をする者が、それに当てはまる。

 欧州の歴史上には、宮廷道化師という役職があり、偉い人に無礼なことや皮肉を言っていたらしい。が、刑に処されることはなかったようだ。


 講義の中では、「王様が皮肉を言われても怒らないのは、言っているのが道化師だから」と言っていた。


「道化師か……」


 ポツリ、と呟いた。


 その言葉が聞こえたのか、隣でメモを取っていた友人がオレの方をチラッと見た。

 その目には、「静かにしろ」という言葉が書いてあるように見えた。


 おいおい、オレは小さな声で呟いただけじゃないか。そんな呟きを注意している暇があるのなら、後ろでゲームしてる奴を注意しろよ。


 なんて優しく言うオレではない。

 できるのは、不満の意を込めた愛想笑いをするだけだ。


 友人はオレの愛想笑いを謝罪として受け取ったのか、ため息を一つだけ吐き、メモを取ろうと再び視線を前に戻した。


 にしても寒いな。長袖を着てきて良かったぜ。


 夏なのに長袖?とか思ったやつ、オレが着ているのは、紫外線カットのカーディガンだ。通気性抜群だし、この教室内だと少し寒いくらいだが、とても優秀なんだぜ。もちろん、ウニクロで買ったものだ。



     +×+×+×+×+×+



 真っ白なスクリーンに、最近撮影されたような舞台劇が映し出された。

 オレはそれをボーッと観る。白い平面では、洋風のドレスやスーツらしき服を着たプロの役者が、マイクを使わずによく通る声をあげ、それぞれの役を演じていた。


 しかし、道化師は出てこなかった。実際に道化師を見たのは、子供の頃に親に連れて行ってもらった、都会で開かれたサーカスの時だけだ。それ以来、本物の道化師は見たことなかったし、歳を重ねていくにつれて親からの期待が大きくなっていった結果、オレ自身が道化みたいなモノになってしまったしな。


 他人の顔色を見て育つと、自然とこうなってしまうんだ。

 自分の心をさらけ出すと、否定されるから……否定されないようになるには、騙し続けて、愚か者の振りをしているしかない。


 ま、それは本当かどうかはわからんがな。オレは何も知らないし覚えていない。この文章を読んだお前さんも、何も見ていないし聞いてもいない。


 メタい?


 知らんな。



     +×+×+×+×+×+



 講義も終わり、傘を自動車の中に忘れてしまったために、多少びしょ濡れになる覚悟を決めて、走って向かおうと外に飛び出した時だった。


 なんということでしょう。突然、足元が(まばゆ)く光り出したではないでしょうか。


 それを見て立ち止まったオレが馬鹿だった。


ドザァーーーーーー!!


 空からすごい勢いで降る雨に当たったオレは、あっという間にびしょ濡れに。


 リュックの中にノートパソコンがあることを知っているオレは、すぐさま走り出そうとしたが、あら不思議。足どころか体が一ミリも動きません。ふざけんな。


「魔法陣だスゲー!」

「マジで!?見に行こうぜ!」


 何やら興奮しているような、男子約二名の声が聞こえる。が、おかしいな。地面からの光が眩しすぎて、向かってくる人間の背丈がオレより低く見えるぜ。もしかして高校生かな?


 そういえば、ウチの大学の図書館は一般公開してるんだったわ。ナンテコッタイ。


 そんなふざけた思考をしている間に、雨水は容赦なくリュックの中に入り込む。


 やめろやめろ!リュックの中にあるパソコンのライフはもうゼロだ!多分!

 というかレポート!レポートが全部消えるんだけど!?ってか修理費高いんだが!バイト代だけじゃ足りねぇよ!


 そこまでオレの思考が叫んだ瞬間、辺り一面が白い光に包まれ、オレは目を瞑った。

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