10 その手はちょぴりひんやりと
結論から言うと、デラックスかき氷は三人でようやく食べきれるかきれないかの瀬戸際だった。
真冬にかき氷というミスマッチもさることながら、元々私と氷室さんは食後ということもあって、単純にお腹に入らなかったというのもある。
それでも、時間が経つれて溶けていってしまうかき氷を前に臆する時間なんてなくて、私たちはただひたすらにかき氷を食べるしかなかった。
夜子さんはといえば、もちろんそれに参加する気なんてなくて、いつの間にか自分の分だけ頼んでいたホットコーヒー片手に楽しそうに私たちの戦いを眺めていた。
いくら温かい室内とはいえやっぱり冬だから、食べきった頃には私たち三人は凍えそうなほど寒くなっていて。温かい飲み物を飲まないとやっていられなかった。
夜子さんと千鳥ちゃんと別れたのは、ホッと一息ついた後。
結局夜子さんが何をしたかったのかはわからなかった。
詳しく話してくれるわけでもなく、だからといってひた隠しにするわけじゃなく。
もしかしたら、私が戸惑ったり困ったりしているところを見たかっただけなんじゃないかと思うくらいだった。
夜子さんとの話の結果は、その時が来ればわかるということがわかっただけだった。
「なんかごめんね」
二人と別れてお店を出て、私は氷室さんに言った。
そんな私を、氷室さんは不思議そうに見つめてくる。
「どうして、花園さんが謝るの……?」
「だってせっかく二人で遊びにきたのに、なんだかすっかり変な感じになっちゃって。結局夜子さんと話し込んじゃったのは私だし」
「必要な話だった思う。花園さんには知る権利がある。聞ける事は、聞いておいた方がいい」
淡々とそう言う氷室さんだったけれど、その言葉にはどこか優しさが感じられた。
氷室さんのそんな気遣いがとても温かく感じられた。
「ありがと。でもさ、せっかくなんだから気を取り直していこうか。難しいこと考えるのはひとまず後にして、今日は氷室さんと楽しく過ごしたいな」
笑顔を作ると、氷室さんはこくりと頷いてくれた。
考えなきゃいけないことは沢山あるけれど、でも今の私では考えても答えは出せない。
だから今は、楽しめるうちに穏やかな日常を過ごしていたいと思う。
難しい話ばかりじゃなくて、何でもない普通の女子高生みたいな会話ややり取りを氷室さんとしたい。
だって私は、まだまだ氷室さんのことを何にも知らないんだから。
「じゃあどこ行こっか! 取り敢えずそこのショッピングモールでも行ってみる?」
駅前のショッピングモールなら色んなお店が入っているから、取り敢えずそこに行けばなんとかなる。
大きめの本屋さんもあるから、一緒に本選びをするのも楽しいかもしれない。
そう思って促してみると、氷室さんは抵抗なく頷いた。
基本的に自己主張は控えめだから、こっちから積極的に誘っていった方がいいかもしれない。
じゃあ行こうかと私が一歩前に出た時だった。
ちょっぴりひんやりとした指が、ちょこんと私の指先を摘んだ。
突然のことに飛び上がりそうになったのを必死で押さえ込んで、でも驚いたことは隠せなくて私はすぐに氷室さんに振り向いた。
だって氷室さんから手を握られるなんて思ってもみなかったから。
「えっと……氷室、さん?」
「…………?」
不思議そうに私を見つめてくる氷室さん。
これは無意識なの? それともただの何気ない行為なの?
何というか、氷室さんと手を握り合うのは別に初めてのことじゃないんだけれど、何だか今のはとてもドキリとしてしまった。
今まではある意味勢いで手を取り合っていたけれど、今は特別そういう状況じゃなくて、ただ単純なスキンシップ。
まさか氷室さんの方から手を繋いでくるなんて、夢にも思わなかった。
別に女の子同士で手を繋ぐことには何の抵抗もない。他の子とだってすることはあるし、別に普通のこと。
でもこのクールで自己主張の少ない氷室さんが、この二人で遊びに行くという状況で自分から手を繋ごうとしてくるというのは、何というかとてもときめくものがあった。
この子、本当に可愛いなぁ。
「ううん、なんでもない。行こっか」
動揺と緊張を笑顔で誤魔化して、控えめに摘んでくるその手をしっかりと握り返した。
ひんやりしっとりした小さな手が、私の手に馴染んで何とも心地好かった。
今度は氷室さんの方が少し戸惑ったように私を見た。けれど嫌そうではなくて、むしろどこか嬉しそうにも見えた。
どうせマフラーの中では口元をほんのり緩ませてるんだろうな、なんて想像しながら、私は氷室さんの手を引いて歩き出す。
私は隠すことなく、というか隠すことができなくてニヤニヤしてしまっていることが自分でもよくわかった。
ここ数日で色んなことがあって、魔法の世界に関わることで辛いことや悲しことがあった。
だけどこうして氷室さんと仲良くなれたことは、心の底から良かったと思う。
だから私は自分の運命を否定したりなんかしない。
だって嫌なことばかりじゃない。嫌なことと同じくらい良いことだってあるんだから。