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7 お姫様であるということ

「私が知っている中で答えるなのならば、どっちも正しいと言える」


 夜子さんは平然と話題を戻した。

 きっと夜子さんにとって、千鳥ちゃんとのこんなやりとりは日常茶飯事に違いない。


「魔法使いにとって君は、悪政を敷いていた女王を打ち倒した救国の姫君だ。そして魔女、ワルプルギスにとっては、希望の象徴とも言える魔女の姫君。それだけのことさ。結局は同じことだよ。ただ見方が違うだけさ」

「私が今魔女であることとは関係はないってことですか?」

「そうなるね。結局は、姫君が持つ力があってこそのことだからね」


 その力も結局のところ全容はわからない。

 私にわかるのは、あの魔法を打ち消す『真理の(つるぎ)』と、レイくんが言っていた『庇護と奉仕』の力だけ。

 どちらもすごい力だとは思うけれど、その力だけで魔女や魔法使いを殲滅できるとは思えないし、まだまだ私にはわからない力があるはずなんだ。


「でも、なんで私なんでしょう」

「それは不思議な疑問だね。君は自分が花園 アリスであることに疑問を持ったりするかい?」

「え……?」


 唐突な質問に私はぽかんとしてしまった。


「自分は自分でしかない。君は君だから君なんだよ。誰しも生まれた時からずっと自分だ。そこに疑問を挟む余地なんてないだろう? それと同じだよ」

「えっと……」

「君は花園 アリスであってそれ以外の何者でもない。それは君自身が何よりわかっていることだろう? だからね、アリスちゃん。君がアリスちゃんであることに理由なんてないのと同じように、君がお姫様であることに理由なんてない。君が生まれた時からアリスちゃんだったのと同じように、君は生まれた時からお姫様だったんだ。理由なんてない。あるのはただ、そうであるという事実だけだ」


 別に誰に選ばれたわけでもない。私自身が選んだわけでも、他の誰かに選ばれたわけじゃない。

 それはきっと運命なんて大それたものでもなくて、ただそうであるという純然たる事実。

 私がたまたま花園 アリスとして生まれたのと同じように、たまたまおその力を持って生まれて、そしてお姫様と呼ばれただけ。

 何だかその言葉はしっくりくるものがあった。


「選ばし者、みたいなのは中学生で卒業しておきなさい。特別な人間というのは生まれつき特別か、あるいは特別になる資格を持っている者かのどちからだ。はじめから何もない者に後から与えられるものなんてない。アリスちゃんはただ、たまたま前者だったというだけさ」


 私は何故だか氷室さんを見てしまった。相変わらずのポーカーフェイスで私を真っ直ぐに見ている。

 氷室さんは私がお姫様だということなんて関係なく、ただ友達だからと助けてくれる。

 特別かどうかなんて関係なく、私自身を見てくれている。きっと選ばれし者みたいなものだったら、こうはいかなかったのかもしれない。

 お姫様であっても私はあくまで私だから、氷室さんは私を一人の友達として見てくれているんだ。


「なんとなく、わかった気がします」

「ならよかった。長く生きていた甲斐があってもんだね」


 夜子さんはニンマリと笑う。この人は本当によくわからない人だけど、悪い人ではない。

 諭すように語ってくれるその言葉は、確かに私が気づかないことを教えてくれる。

 滅茶苦茶で傍若無人な時も確かにあるけれど。


「夜子さんは結構色んなことに詳しそうすけど、私のその、お姫様の時のことを知っているんですか?」

「さぁ、どうだろうね」


 夜子さんは明らかに何か知っていそうな態度で、わざとらしく誤魔化した。というか誤魔化すつもりもなさそうだった。

 その態度に今さっきまで上がっていた夜子さんの株が急降下した。

 そうだ、この人はこういう人だ。基本何でも他人事でのらりくらりと自分勝手なんだ。こっちの気持ちはお構い無しで。


「何でも他人に教えてもらおうとしないことだ。自分のことなんだから自分で見つけ出しなさい。これは君自身が見出さなければいけない問題だよ」

「でも、さっきまで色々教えてくれてたじゃないですか」

「必要があれば話せる限りのことは話すよ。つまり、今は私から話して聞かせる必要性がないってことさ」

「私結構困ってるつもりなんですけど」

「だからといって必要とは限らないさ。物事には手順というものがある。君自身の真相は自分の手で探り当てるべきものだよ」


 なんというか、わざと意味深な物言いをしているみたいだった。

 夜子さんが何を知っているのかはわからないけれど、でも何か重要なことを知っていそうなのは確かだった。

 でも彼女がそう言うのなら、今焦って聞き出すようなことじゃないのかもしれない。

 いや、私としては自分自身のことだから、わかるのなら今すぐ全てを知りたいけれど。でもここで駄々をこねても仕方ない。


 私は自分自身の過去に向き合わないといけない。私が知らない過去に。私が覚えていない過去に。

 一体どこからどこまでが本当で、どこからどこまでが嘘だったのか。

 それも全て自分自身で見つけ出して、受け入れていかなきゃいけないものなんだ。

 私は今を大切にするためにも、私自身が歩んできた過去を受け入れないといけない。

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