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121 次元が違う存在

 私の攻撃が、脚を止めたジャバウォックをストレートに喰らう。

 レオとアリアの魔法ごと飲み込んだ白い輝きが、目の前を埋め尽くして眩く。しかし────


『ッッ────────!!!』


 その内側から禍々しい力が吹き荒れ、私の斬撃を相殺した。

 そしてすぐさまジャバウォックの長い首が飛び出してきて、私に向けて大口を開ける。

 僅かに、白い極光に晒されたダメージのようなものが見て取れるけれど、ジャバウォックは全くケロリとしている。


「…………!」


 ジャバウォックが私たちに牙を立てる直前、レオとアリアが飛び込んできて、私と氷室さんをガバッと攫った。

 間一髪、私たちはその(あぎと)を逃れ、体勢を立て直すことができた。


「ちょっとやそっと脚を止めるくらいじゃ、ダメだってのかよ!」


 ピンピンしているジャバウォックを見下ろし、レオが毒付く。

 ジャバウォックにとって魔法は簡単に振り払えるものだから、多少のことではあれの行動を制限するものにはなり得ないのかもしれない。


「文句たれてる暇はないよ、レオ! ちょっとでダメなら、完全に止める方法を考えないと!」


 そう強気な声を上げるアリアも、表情には困惑が張り付いていた。

 魔法をすぐに崩壊させる相手に、一瞬以上に足止めをすることなんてできるのかと。


 けれど、あれこれと悩んでいる暇はない。

 こうしている今も、世界の至る所が天変地異のように荒れ、崩壊していっている。

 空間の捩れによる乱流が吹き荒れて、まるで世界自体を竜巻が飲み込まんとしているように、全てが轟いている。


 そして、その原因であり中心であるジャバウォックが、こちらを見つけて咆哮する。

 あれが叫ぶたび、世界が震撼して、込められた怨嗟が私たちの心と体を震えさせる。

 それを気合だけで必死に堪えて、ジャバウォックへと向かい合う。


「姫殿下!」


 再びジャバウォックが飛びかかってこようとした時、急激なブリザードが吹き荒れた。

 直接晒されずとも火傷しそうな冷気を感じさせるその氷結は、ジャバウォックを丸ごと飲みんだ。

 周囲を大きく巻き込んだその攻撃は、ジャバウォックのみならずそれを取り囲むもの全てを凍てつかせる。


 ロード・スクルドが、街の人たちを避難させながら援護をしてくれていた。

 少し離れた場所にいるのに、その強力な魔法は時を停止させるが如く、ジャバウォックを周囲の空間ごと凍結させていた。

 凍りついたジャバウォックだけれど、それでもすぐさま凍結にヒビが入り、行動再開の予兆を見せる。

 けれど、その周りすらも凍結させた魔法は、瓦解させるに少しだけ時間がかかるようだった。


「よくやった!」


 その隙を突くように、向かいの方から夜子さんが現れた。

 ジャバウォックが全ての氷を崩壊させ切る直前、その周りに大きな影を這わせ、黒い箱のようなものを展開して覆い尽くす。

 そして、それに合わせて地面から巨大なイバラがいつくも突き出してきて、夜子さんが作り出した箱に絡みつき、更に押し潰さんと圧縮した。


「アリスちゃん、やって!」


 夜子さんの横に現れたお母さんが、叫ぶ。

 ロード・スクルドの凍結、夜子さんの影の箱、お母さんのイバラが、今までになくジャバウォックを押さえてつけていた。

 それらの魔法も見る見るうちに崩れ去っていくけれど、それでも、今のジャバウォックはとても不自由だ。


「今度こそ……!」


 氷室さんとレオ、アリアも追撃の魔法を放つ。

 そうして生まれた今まで最大の隙に、私は今一度『真理の(つるぎ)』を大きく振るった。

 ────いや、振るおうとした。


『────! ッッッ────────!!!!!』


 まるで私の攻撃を察知したように、入り乱れる魔法の中でジャバウォックが絶叫した。

 何かをしてくるかもしれないけれど、もう遅いと、私が剣を振り抜こうとした、その瞬間。

 ジャバウォックを包む沢山の魔法を巻き込んで、その周囲の空間がぐるぐると渦巻いた。


 捩れるように歪む空間に、その外側にいる私たちに尋常じゃない衝撃が届く。

 それは地面を抉り、建物を薙ぎ倒し、瓦礫を吹き飛ばす。そして私たちも抗うことができずに押し飛ばされた。


 それでもなんとか、すぐに近くにいた四人で手を取り合って、バラけることだけは防ぐ。

 しかし夜子さんとお母さんは別方向に吹き飛ばされて、ロード・スクルドやレイくんの行方もわからない。

 世界が地面から捲れてひっくり返ってしまいそうな激震の中、全てを振り払ったジャバウォックがこちらへと突進してくる。


 そして、世界がぐるりと回った。


 吹き飛ばされていた私たちの体が、ビルの壁へと激突した。

 世界は一変し、また私の街へと移っている。

 けれど場所は駅前から少し外れていて、街外れの方へと差し掛かる辺りだ。


 戸惑っている暇はない。世界は変わっても、ジャバウォックはそのまま私たちへと飛びかかってくる。

 私がみんなを引っ張って緊急回避をしようとした時、目の前で青白い閃光が走り、そして一瞬遅れて轟音が響いた。

 それが白雷の煌めきだとわかった時には、ジャバウォックの軌道はそれて、もぞもぞと蠢いていた。


「消えたと思ったらまた来たわね! もう何が何だか!」


 金色の羽を広げ、千鳥ちゃんが現れた。

 とてもハラハラした様子で、私たちとジャバウォックを交互に見やる。


「千鳥ちゃんありがとう。助かった!」

「あんなのとまだ戦ってて、まだ生きてるのが驚きよ。でもまぁ、無事で安心したわ」


 肩を震わせながらそう言う千鳥ちゃんにお礼を言いながら、私たちは急いでジャバウォックから距離をとった。

 駅前から離れたここは、住宅街が近い。もう少し郊外の方へとずれないと、駅前どころじゃない被害になっちゃうからだ。

 とはいっても、こっちの世界も空間の捩れや地面の隆起で、既に色んな被害が出始めている。


「アリス、生きてたか!」

「やっほー。こっちもなんとか生きてまーす」


 そうしてみんなで移動していると、カノンさんとカルマちゃんが合流してきた。

 二人とも大分ボロボロだけど、身を奮い立たせて私たちの元に駆けつけてくれる。

 そうやってみんなで街の外れの方まで移動して、夜子さんが暮らしていた廃ビルの付近までやってきた。


 そんな時、私たちを追いかけてきたジャバウォックが、一際大きく翼を振り回した。

 すると、そこから空間が断裂し、それが波打つようにこちらへと突き進んできた。

 世界を切り刻むような攻撃に、私たちは慌てて退避して、そしてバラけてしまった。


 ジャバウォックはまるでそれを見計らったかのように咆哮し、降りかかってきた重圧が私たち地面へと叩き落とした。

 すぐに体勢を立て直し、みんなが個々に魔法攻撃を放つ。

 それが通用しないことはもう嫌なくらいわかりきっていて、私は氷室さんと合流する時間を稼ぐことくらいしかできなかった。


 私たちが絶え間なく魔法を放ち続け、ジャバウォックは事も無げにそれを振り払って。

 次元の違いすぎる、まるで無意味のような攻防が続く。

 いや、ジャバウォックにとってこれは、戦いですら何のかもしれない。


 ただ私を殺そうと、邪魔なものを破壊しようと、世界を飲み込もうとしているだけ。

 世界が迎える終焉という現象であるジャバウォックは、ただ自然の摂理を全うしているだけなのかもしれない。

 私たちがしていることは、星の自転を押し留めようとしているような、はなから無理な抵抗なのかもしれない。


 それでも、諦めるわけにはいかない。

 私たちは絶え間なく攻撃を続け、ジャバウォックはその全てを振り払い、そして雄叫びを上げる。


『ッ────────────!!!!!』


 その咆哮は、一際けたたましかった。

 地面が捲れ上がり、空間が破裂し、私たちを凄まじい衝撃が襲う。

 そして刹那、黒が全てを埋め尽くした。


 ジャバウォックを中心に黒い力の波動が広がって、全てを蹂躙していく。

 少し前に出ていたカノンさんとカルマちゃんがそれに飲み込まれ、飛行していた千鳥ちゃんもまた、衝撃で地面に叩きつけられた。


 一番離れていた私と氷室さんの元にも、その波動はすぐにやってきて。

 けれどあまりにも一瞬の攻撃に、目で追うことがやっとだった。


「────────!」


 けれど、その暴力的な衝撃は私たちを襲わなかった。

 気がつくと目の前には分厚い炎が立ち登っていて、それが辛うじて攻撃を押さえんでいる。

 レオとアリアが、私たちの前に立っていた。

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