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104 不屈の心

 消耗なんて本当にしていたのかと疑わしく思えるほどに、クリアちゃんから発せられた魔力は凄まじかった。

 でも、そのおどろおどろしく燃える炎を見れば、彼女の歪んだ感情が燃料になっていることは明らかだった。

 良くも悪くも、彼女の心に溢れかえっている情念が、彼女に力を漲らせている。


 でも事実、彼女はかなり力を消費し、消耗している状態のはずだ。

 ジャバウォック顕現の儀式に回した魔力は多いだろうし、いくら彼女が強力だとはいえ、魔女狩りたちとの攻防は確実に彼女を削っている。

 アリアが言っていたように、今のクリアちゃんはその全力を発揮できていない。


 ただ、そんな状態でも気迫を損なわないところに、彼女の強い意志を感じる。


「私にはわからないわ。私はあなたを一番に想ってる。何よりもアリスちゃんを優先してる。あなたを守るために、全力を尽くしているだけなの! わかってないのは、あなたよアリスちゃん!」


 獣のように吠えて、クリアちゃんは勢いよく飛びかかってきた。

 燃え上がる炎が尾を引いて、灼熱の帯のように赤く。


「私が一番、あなたを確実に救える。私にしか、あなたを救うことなんてできないのよ。だって、私が一番あなたのことを見てきたんだから……!」

「っ…………!」


 私を屈服せんと手を伸ばしくてくるクリアちゃんを、私は障壁を張って防いだ。

 そしてすぐに横方向へと回避して、『真理の(つるぎ)』を大きく振りかぶる。

 一直線に飛び込んできた彼女を牽制しようと、真横から剣を振るうと、クリアちゃんは大きく身を翻して器用にそれをかわした。


「私と一緒に来てよ。私に全部委ねてよ。私が、何に変えてもあなたを守るから!!!」

「それはできないよ! だってクリアちゃんは、私の気持ちを考えてくれないじゃない!」


 素早く体勢を立て直したクリアちゃんが、拡散状の炎を放ってくる。

 私はそれを『掌握』して奪い取り、大きな火の玉にしてお返しした。


「クリアちゃんは、私を救うとか守るとか言ってくれるけど、私がどう思うかを考えてくれない。あなたがすることを、私がどう思うか全然考えてくれない!」

「考えてるわよ! 私は、アリスちゃんにずって笑顔でいてほしい。私があなたを守れば、あなたは喜んでくれるでしょう? そう信じて、私はずっと頑張ってきたんだから……!」


 炎を鞭のようにしならせて、クリアちゃんは火の玉を切り裂く。

 そのままその鞭を私に伸ばして、捕らえんと振るってくる。

 それを『真理の(つるぎ)』打ち払って、私は首を振った。


「違う、違うよクリアちゃん。それは考えてくれてなんかいない。それはただの、あなたの願望だよ!」

「どうしてそんなこと言うの!? 私たちは友達でしょ!? 私は、あなたに救われて嬉しかった。あなたといられることが幸せだった。それは、あなただって同じでしょう!? だから私は、あなたに私と同じ気持ちになって欲しかっただけなのに! なってくれるって、信じてたのに……!!!」


 クリアちゃんがそう叫んだ瞬間、彼女の周囲からイバラを象ったような炎が無数に現れた。

 彼女を形成する炎は更に赤く煌めいていて、それはさながら赤い薔薇の花のよう。

 薔薇から伸びる灼熱のイバラは、ほんの少しだけ女王様を思わせた。


 炎のイバラは一斉に私に向かっての伸びてくる。

 まるでクリアちゃんの手足のように、それらは自由自在に蠢いて、ちょっとやそっとかわしたくらいじゃ逃れられなかった。

 それに数がとても多く、向かってくるイバラを『真理の(つるぎ)』で切り払っても、また新しいものが襲いかかってくる。

 魔法を『掌握』してもそれは同じで、次から次に新しいイバラが現れてキリがない。


「ねぇ、どうして!? どうしてわかってくれないの!? 私はこんなに、アリスちゃんのこと大好きなのに! 私はただ、あなたを守りたいだけなのに! 私たち、友達でしょう!? どうして私を受け入れてくれないの!? 昔はあんなに、私と仲良くしてくれたのに!!!」


 クリアちゃんの叫びに呼応するように、炎のイバラは次々と私に飛びかかってくる。

 その全てを振り払って打ち消して、そうやって防いで逃げ回っているうちに、広間内はどんどんと赤いイバラで埋め尽くされていく。


「私だって、クリアちゃんのことは友達だと思ってる。でもね、友達だからって全てを肯定できるわけじゃないんだよ。クリアちゃん、あなたは友達というものを履き違えてる!」


 これでは本当にキリがないと、私は『真理の(つるぎ)』に魔力を溜めて、大きな波動を周囲に振るった。

 白光の魔力が煌めいて、炎のイバラの多くを飲み込み搔き消す。

 そうして開けた道を、私はクリアちゃんに向けて突き進んだ。


「クリアちゃんは、私が自分の全てだって、そう言ってくれたけど。でもね、世界は広いんだ。私たちはたくさんの人たちと繋がって生きてる。だから、自分のためだけとか、誰かだけのためとか、一つだけ見ていれば良いわけじゃないんだよ! もっと、周りを見なきゃいけないんだ!」


 降りかかるイバラを斬り伏せて、クリアちゃんへと剣を向ける。

 クリアちゃんは慌てて飛び退きながら、ふるふると駄々をこねるように首を振った。


「私は、他のものなんてどうでもいい! だって、あなた以外の人たちは、私に見向きもしなかった。必要としてくれなかった。いなくなればいいと思ってた。だから私は本当にいなくなって、でもそんな私を、アリスちゃんだけが見つけてくれたの! 私にはあなたしかいない。あなただけがいればいい。私にとっての世界は、アリスちゃんなのよ!」

「それは違う。違うよクリアちゃん! 確かに魔女になっちゃったクリアちゃんは、たくさんの拒絶を味わってきんだろうけど。でもあなたの孤独は、あなたが自分で作っているものだよ! あなたが人の目を避けたから、誰もクリアちゃんを見つけられなくなったんだ!」

「────知らない、知らない! でも、それでもアリスちゃんは見つけてくれた。私にはそれで十分だなの! 私はあなたさえいてくれればいい。だから、あなたを救うためなら、この国も世界も、なんだって犠牲にするのよ!!!」


 クリアちゃんの悲壮的な叫びと共に炎がうねり、大きな鳥の形を模した。

 人の大きさをゆうに超える巨大な火の鳥は、まるで不死鳥のように流麗でしなやかで、そして力強い。

 長くひらひらと揺らめく尾を垂れ流し、天井を覆い尽くすような大きな羽を広げ、鳥はクリアちゃんの頭上で羽ばたく。


 そこに込められた魔力量は凄まじく、そうして存在しているだけでとても威圧的だった。

 小規模な太陽がそこにあるように、凝縮した熱エネルギーが蠢いていて、決して触れてはいけないとわかる。


「アリスちゃん、このまま頑張ったってあなたは苦しいままよ。今までずっと、たくさん苦しんできたんだもの。あなたはもう救われていい、救われるべきなのよ。あなたをずっと見てきた私が、あなたを今度こそ、確実に救ってあげるから。だから、お願い。他の全てを捨てて、私と一緒に幸せになりましょう!!!」


 不死鳥が大きく羽ばたいて、私に向けて飛び込んできた。

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