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102 並び立つ力

「シオンさん、ネネさん……! もう動いて大丈夫なんですか!?」


 お互いに支え合いながら立つ二人に、私は安堵ともに心配の声を上げた。

 だって、二人はどう見たって未だ重症で、呼吸だってものすごく荒い。

 けれど二人はなんでもないかのように笑みを浮かべる。


「恥ずかしながら、満身創痍です。けれど、あなた様を守る為なら、これくらいの無茶はどうってことありません」

「もうとっくに格好悪いけどさ。でも私たちだけ寝てなんていられないしね」


 優しく笑うその顔色はとても悪く、無理していることが明らかで。

 でも、それを隠そうともせず踏ん張っている二人の姿は、決して弱々しくなんてなかった。


「ありがとうございます、二人とも……」

「お礼はいりませんよ。私たちは結局、自分たちの身勝手で動いているだけなんですから」

「────また、私の邪魔を!!!」


 大きく吹き飛ばされたクリアちゃんが、体勢を立て直して怒り狂った叫びを上げた。

 広間内の炎を飲み込んだ津波を受けても消えないその炎をバチバチと荒げ、炎のマントが轟々とはためく。


「アリスちゃんに群がる害虫、アリスちゃんを救うこともできないちっぽけな連中が、私の邪魔をする! あなたたちでは、アリスちゃんを守れないっていうのに!!!」


 未だダメージというダメージを負っていないクリアちゃんは、すぐさま唸りを上げて飛びかかってきた。

 しかし、そんな彼女の元へアリアとレオが傍から飛び込んだ。

 一直線に私の方しか見えていないクリアちゃんを、アリアが隙をついて鎖を幾重に巻き付けて拘束し、怯んだ彼女に向けてレオが力強い剣撃を叩きつける。


 クリアちゃんは咄嗟に炎を周囲に噴出して防ごうときたけれど、それに怯まなかったレオの一撃は、確実に彼女にヒットした。

 炎で鎖が破壊されたことでクリアちゃんは自由を取り戻したけれど、大きくのけぞって押し戻される。


「アリス、無事か!?」

「私は大丈夫。二人こそ、無事でよかった」


 すぐに私の元に駆け寄ってきたレオとアリアは、疲労を見せながらも元気のある顔を見せてくれた。


「やっぱり彼女は、話の通じる相手じゃないよ。少なくとも今は、冷静さを完全に欠いてるし」

「うん。話をするにしても、大人しくさせて、冷静になってもらわないとだね。迷ってたら、こっちがやられる」


 アリアは少し心配そうに私を見てきたけれど、私はもうそこに迷いはなかった。

 元々彼女を倒す覚悟できたし、それに、ここまでの彼女の発言を聞いていれば、今話し合いの余地があるとは思えない。


 自分と私以外、いや私以外のものを何とも思っていないクリアちゃんを、納得させる方法なんてきっとない。

 私の友達を邪魔者だと排除することしか選択肢にないのなら、私だって妥協することなんてできないし。

 クリアちゃんを、叩きのめすしかない。


「みんな、私に力を貸して。クリアちゃんを倒して、世界を、そこで生きるみんなを守るんだ」


『真理の(つるぎ)』を強く握り、みんなを見回す。

 頼もしく頷いてくれるその存在が、私の心を温かく包んでくれる。

 私はやっぱり、こうしてみんなと繋がっているからこそ、奮い立つことができるんだ。


「いい加減にしてよ」


 ────突然、赤が煌めいた。

 視界が赤く、そして白く瞬いて。そして熱い何かが通り過ぎて。

 刹那の出来事に私は完全に反応が遅れた。けれど、シオンさんとネネさんだけが、ほんの僅かに前に乗り出していた。


「私のアリスちゃんと、友達ごっこなんてしないでよ!!!」


 クリアちゃんの叫びが届いた時には、既に事は終わっていた。

 私とレオとアリア、三人の前に辛うじて身を乗り出していた、シオンさんとネネさん。

 二人の体は、鮮烈な爆炎に飲み込まれていた。


「────シオンさん! ネネさん!」


 二人の存在が壁となって、私たちの元へは火の手が及ばない。

 ネネさんが水で防御を張ったのか、それが瞬間的に蒸発して、辺りは白い蒸気に包まれて。

 シオンさんが振動で攻撃を拡散させようとしたのか、重い振動が後から遅れて響いた。


 けれど、それでも瞬きのよう灼熱の攻撃は防ぎれていなくて。

 あらゆる防御を貫通した熱が、二人を炎で包んでいた。


「死ね、死ね死ね死ね死ね!!! 私のアリスちゃんを穢す奴は、全員死になさい!!!」

「……ナメんなッ!!!」


 追い討ちのように無数の熱線を放ったクリアちゃんに、ネネさんが叫んだ。

 立ち込めていた水蒸気が一気に彼女の周囲にぐるぐると集い、細かい粒が飛び交って熱線の威力を弱める。


「アリス様を穢しているのは、あなたよ。それに気付かないから、あなたは……!」


 そして、シオンさんから音波のような衝撃波が放たれて、弱まった熱線を全て見出して掻き消す。

 二人は自らの体が炎に舐められているにも関わらず、膝を折らずにクリアちゃんを睨んだ。


 私は慌てて二人を焼く炎を『掌握』して鎮火させた。

 黒い軍服は大きく焼き切れ、酷い火傷に犯された肌がむき出しになっている二人。

 燻り煤汚れ軋む体で、しかし二人は倒れない。


「あなたは……可哀想な人ね、クリアランス・デフェリア。寂しさを埋めようとして、一つの感情に囚われて……私たちも、あなたのように、醜くなる、ところだった……」

「でも、私たちは一人じゃなかったし、それに、アリス様が信じてくれたし……だから私たちは、この気持ちを託せるんだ」


 動かない体を動かして、二人は手を繋ぐ。

 その瞳は、クリアちゃんを貫いて放さない。


「志を共に、繋がりを信じ、力を合わせることの意味を知りなさい」

「自分ためには出せなくても、人のためになら出せる力があるんだ」

「最後に足掻かせてもらうわ」

「吠え面かけ、ばーか」


 瞬間、二人からとてつもなく大きな魔力が弾けた。

 今まで広間内に撒かれた水、宙に舞う水蒸気、あらゆる水分が細分化して、そして目にも止まらぬ速度で微振動を起こして。

 その針先のように細かい水滴たちが一斉に、一方向に向けて撃ち放たれた。


 空気中の水分が全て一斉に集結するように、水の散弾放火がクリアちゃんを襲って。

 それと同時に、シオンさんとネネさんは、バタリとその場に崩れ落ちた。

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