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70 魔法使いの襲撃

 みんなと示し合わせて、私は周囲に張っていた障壁を解除した。

 障壁に使っていた魔力を、そのまま衝撃波のように外側へと拡散させて、私たちを取り囲む魔法使いたちを押し除ける。

 そうして生まれた僅かな隙間の時間で、魔女たちは一斉に散開し、この場からの離脱を試みた。


 裏路地にいるせいで周囲は建物に囲われていて、この場にいてはどうしても状況が不利だ。

 まずはみんな開けた場所へ出ることに専念してもらって、更に敵の狙いを分散させる必要がある。


 私が吹き飛ばしたことで多くの魔法使いは体勢を崩していて、その脇をすり抜けるように、魔女たちは散り散りに分かれていく。

 みんな、途中途中でわざと魔法使いに対して攻撃を仕掛けて、彼らの意識を引き付けて場を引っ掻き回してくれている。


「じゃあ、手筈通りに。ここは僕が受け持つから、アリスちゃんは自分がすることを」


 転臨の力を解放し、白い髪と兎の耳を揺らめかせているレイくんは、魔女たちが散り散りになって行く様子を見てからそう言った。

 こちらに向けてくる表情は引き締まっていて、特に私の傍にいるレオとアリアに対しては、「しっかり守れ」と言い聞かせているようだった。


「うん。後のことはよろしくね」


 私が頷くとレイくんはにこりと微笑んで、それからすぐに地面を勢いよく蹴った。

 爆発的な跳躍力で跳ね上がったレイくんは、空中で幻惑の分身を大量に作り出して、周囲の魔法使いに向けて一斉に飛びかかった。

 散開した魔女たちと、そしてレイくんの分身たちによって、私たちを取り囲んでいた魔法使いたちは見事に翻弄されていて、私に対する視線はだいぶ少なくなっていた。


 けれどそれでも、全ての目を掻い潜ることはできなくて。

 入り乱れる戦局の中でも、幾人かの魔法使いたちは的確に私の方へと突撃してきた。

 それは主に、黒スーツに身を包んだロード・ケインの部下の魔女狩りだ。


「────転移してる余裕はないかも。飛ぼう!」


 向かってくる魔女狩りたちをいなしながら、同じく私を守るべく敵に対処しているレオとアリアに叫ぶ。

 次々と敵が攻撃してくる最中で、二人を連れて空間を跳躍する隙はなかなかない。

 私はアリアと視線を交わして二人で先に空へと舞い上がり、レオが殿を務めて一拍遅れて続いた。

 すぐさま追いかけてこようとしてきた魔女狩りに、レオが強烈な炎を放って、その隙に私たちはぐんぐんと高く昇った。


 空中も魔法使いと魔女が入り乱れていて、更には攻撃魔法も飛び交っている。

 その間をすり抜けながら、時には魔女を助けて魔法使いを退けながら、私たちは取り囲まれていた空き地付近から離脱をした。

 けれど、敵となっている魔法使いたちはここ以外にもいるようで、高くあがった空の上からは、こちらに向けて迫ってきている敵の姿が窺えた。


 追い縋ってくる敵に、そして外部から増えてくる新たな敵。

 今の王都の状況は全くわからないけれど、とにかくここには敵が沢山みたいだ。

 後方からは止めどなく色んな魔法攻撃が飛んできていて、一瞬たりとも気が抜けない。

 いくら私に魔法を打ち消せる手段があったとしても、飽くまでそれは私が対応できればの話だから。

 不覚をとれば、それが私たち全員の危険につながってしまうかもしれない。


 息をつく暇もなく迫ってくる敵を、時にかわして、時には反撃して。

 高速で魔女狩りの本拠地に向けて飛びながらでも、次々と湧いてくる敵に、その追跡を振り切ることがなかなかできない。

 その場その場で向かってくる敵を無力化させても、すぐに別の人が飛び込んできて埒が明かない。

 軍勢でまとまって向かってくるのなら、その全員を倒せばこと足りるかもしれないけれど、王都の至る所から色んな魔法使いが飛び込んできているから、そうシンプルにもいかない。


「ロード・ケインのとこの奴ら、総出でアリスを狙ってきてやがる。クソッ、面倒だぞこれ!」


 迫ってくる魔女狩りたちを退けながら、レオは怒鳴るように唸った。

 しつこく食らいついてくる黒スーツの中には、上位の魔女狩りがいるらしい。

 ということはつまり、シオンさんやネネさんのようなトップクラスの実力者ということだ。

 襲いかかってくる魔法使いの中でも、黒スーツたちは他の魔女よりも的確に私へ狙いを定めている人たちが多い。

 振り切るというのはかなり難しい状況かもしれない。


 逃避を続けている中で聞こえてくるのは、私を裏切り者だと謗る言葉だった。

 どうやら魔法使いの中では、私は魔女に加担して国を裏切ったことになっているらしい。

 魔法使いから向けられる視線は非難に溢れていて、私へと襲いかかってくる大義名分があることを物語っていた。

 私は今、この国にとって敵の扱いを受けているということだ。


 周りの全てから否定されているような感覚が全身に突き刺さってきて、とても息苦しくなる。

 沢山の魔法使いの襲撃は、国そのものが私を拒絶しているかのようだった。

 かつての日々、みんなが快く私を慕ってくれていた日々を思うと、絶望的な気持ちになっていく。

 私をお姫様だと仰いでいた人たちが、今は私を逆賊だと言って襲いかかってくるんだから。


 そんな状況下で敵を切り抜けていく中で、しかし全てが敵というわけでもなかった。

 空き地付近を離脱して少しすると、騒ぎを聞きつけたのか、他の魔女狩りたちが駆けつけてくれた。

 ロード・ケインの部下の黒スーツ以外の、ロード・スクルドが指揮している人たちだ。

 その人たちはやっぱり私に敵対していないようで、私や魔女を狙う魔法使いたちに応戦し、守ってくれた。


 私だけではなく、魔女を守るために他の魔法使いと戦っている構図は、普通ではとても考えられない。

 けれどそれこそが、国と世界を守るための行動をしてくれている現れで、ロード・スクルドがみんなにちゃんと話を通してくれている証拠だった。

 だっていうのにどうしてこんな状況になっているのかは、やっぱり誰かに話を聞かないとどうにもならない。


 味方の魔女狩りの助力があっても、やっぱり簡単に敵を振り切ることはできなかった。

 多分敵はこの王都にいる多くの魔法使い全体で、魔女狩りの多くがこちら側だとしても、勢力的には相手の方が多い。

 戦闘特化の人ばかりではないといっても、やっぱり数が多いというのは厄介だ。

 それに依然として、一部の黒スーツたちがしつこく食らいついてくる。


「このままじゃ埒があかないよ! 一旦ちゃんと応戦して、敵の主力を潰した方がいいかもしれない!」


 迫り来る敵の攻撃をかわしながら、アリアが叫ぶ。

 確かに、防戦一方で逃げに徹していては、いつまでも強い人に付け狙われてしまう。


「けどよ、まともにやり合ってたら時間食われるぞ! 向こうはこっちに集中してきてんだ」

「でも、このまま消耗戦みたいにその場凌ぎを続けてる方が、結果的に危険だと思う! 集中してきているとはいえ、敵は個々が多いから、メインを叩けば逃げ切る隙も作れるはずだし」


 確かに、黒スーツ以外は統率が取れているわけではなさそうではある。

 魔法使いとして私が敵認定されたから、それぞれ私を捉えようとしている感じだ。

 ならアリアが言う通り、厄介そうな黒スーツの主力を一回倒してしまった方がいい気もする。


 ただレオが言うように、一回立ち止まってしまったら敵を引き寄せてしまうリスクもある。

 主力を叩けたとしても、もう一度大勢にとり囲まれるという状況は危険だ。

 そうなった時、いくら私の力があってもうまく切り抜けられるかどうかはわからない。


 そうやきもきしている間にも、周囲の魔法使いは次々に私たちを狙ってくる。

 まともに意見をかわしている余裕もなくて、私たちはズルズルと攻撃を凌ぎ続けるしかなかった。

 そんな時────


「おいおい。大事な姫様だぜ、ちゃんと守れよな」


 どこからかそんな声が聞こえたかと思うと、地上から大量の人影が飛び上がってきた。

 突発的な集団強襲かと思ったけれど、その人影たちは全員、私たちを追いかけてくる魔法使いに向かって飛び込んでいた。

 そしてそれらが押さえ込むように魔法使いたちに接触した瞬間、その全てが一斉に爆発した。


 突如として王都の空は爆発に埋め尽くされ、それによって私たちは敵から隔絶された。

 しかし同時多発的に炸裂した爆炎は私たちにも迫ってきていて。

 それを防がなきゃと思った時、私たちのところにも一つの人影が飛び込んできた。


 それは、煌びやかなドレスと長い髪をはためかせた、女性のような姿をしていた。

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