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56 それぞれの役割を

「私たちが後を追います……!」


 状況に飲み込まれてしまいそうになる中、シオンさんがすぐに声をあげた。

 私たちの前へと躍り出ると、先程までロード・ケインたちがいたところを凝視する。


「しかし、ケインさんは空間転移で消えた。彼ならば痕跡は残さないだろう。追いようがあるか?」

「確かに痕跡はありません。けれど私も空間に関する魔法には、一家言あります。ない痕跡を引き摺り出して、必ず追ってみせます」


 ロード・スクルドの苦しげな言葉に、シオンさんは強気に答えた。

 今魔女狩りの四分の一を失うのはあまりにも損失が大きいし、君主(ロード)の離反は問題外だ。

 何がなんでもという気概が、その言葉からは感じられる。


「では、ケインさんとその一派の行方は二人に任せる。ただ、無茶はするな。彼がこちらに敵対するとなれば、正攻法では痛手を負う恐れがある」

「わかりました────ネネ、行くよ」


 シオンさんは私とロード・スクルドに一礼すると、ネネさんを引き連れて広場の中心地にか駆けて行った。

 ロード・ケインが空間を歪め、どこへ消えていったのか、その行先を読み解こうとしているんだろう。

 今は問題を増やしたくない時だというのに、シオンさんとネネさんという強力な人員が削れてしまうのは痛い。

 もしかしたら彼は、ある程度そうなることを予測して、あえて目につく形で離反をしたのかもしれない。


「さて、姫殿下。私たちは予定通りの動きを続けましょう。ケインさんがああなったのは、同じ魔女狩りとして申し訳ない限りですが、今はやはり、クリアを止めることが先決です。彼にばかり翻弄されているわけにもいきません」

「そ、そうですね。人手が少なくなってしまいましたし、余計に魔女の手を借りないと……」


 私に向き直ったロード・スクルドは、苦い顔をしながらも前向きな姿勢をとっている。

 とうとう魔女狩りの中で唯一の君主(ロード)と言っていい状態になった彼は、最早泣き言を言っていられる立場ではなくなってしまったんだろう。

 事態の解決を図るため、この国や世界を守るために最善のことをすることこそが、自らの役割だとそう言い聞かせているようだった。


「それでロード・スクルド。こんな時に何なんですが、実は氷室さんの行方がちょっとわからなくて……。確証はないんですけど、彼女の身に何かあったのかもしれません。なので、その捜索の意味も含めて、私は一旦『魔女の森』に行こうかと」

「ヘイルが……? そう、ですか。確かに、現状もう魔女の助力を渋ってはいられませんし、人手の補充は最優先ですね。わかりました。ではその間、私は皆への説明と、クリアの捜索を開始しておきます」


 氷室さんの異常事態に、ロード・スクルドは僅かに顔色を変えた。

 まずはお城に入るべきだと言われるかと思ったけれど、さっきとは事態が一変しているから、あっさりと私の提案を受け入れてくれた。


「ありがとうございます。レオとアリアには、こちらに同行してもらおうと思うんですが、いいでしょうか」

「もちろん、いえ、当たり前です。あなた様をお一人でなど行動させられません。あなた様は姫殿下なのですから、御身はこの国の何よりも守られていなければならない」

「わ、わかりました……」


 腕を組んでこれからのことに思考をめぐらせ始めたロード・スクルドは、私の問いかけに食い気味で答えた。

 その言葉はとても勢いが良く、私は少し驚いてしまったけれど。でも思えば、私は一国のお姫様なんだ。

 そうでなかった時間が長すぎて、この国での自分の立場というものを忘れていたけれど。でも、みんな私をそう扱う。

 私も、それに相応しい行動をしなきゃいけないんだ。


 ロード・スクルドはレオとアリアに、キッと強い視線を向けた。

 何がなんでもお守りしろと、何かあったら許さないと、そう言い聞かせているような目だ。

 しかし、二人の言われるまでもないという表情に、彼は口を開きはしなかった。


『魔女の森』に、それも魔女の人たちのところに魔法使いを伴って行くのは、少し良くないかなとも思うけれど。

 でも魔女に協力をお願いして、しかも魔法使いは敵視しないということを示すには、魔法使いの態度を直接見せることは悪くないことだと思うから。

 多くの魔女狩りの態度はロード・スクルドの手腕にかかっているけれど、レオとアリアならばもうわかってくれているし。

 一緒にいて欲しい、助け合いたいというのもあるけれど、そうした意味合いでも二人の存在は必要だ。


 よろしくねと二人に顔を向けると、レオとアリアは力強く頷いてくれた。

 ついさっきまでは色々とすれ違いもあったけれど、やっぱりこうして並び立つのはしっくりくる。

 かつてこの国中を旅して回ったのが、まるで昨日のことのように思えた。


「姫殿下、くれぐれもお気をつけを。クリアは何を考えているかわからない魔女です。こちらの立てた予測とはまるで違う動きをする可能性は大いにあります。独自に動き出したあなたを、強襲するかもしれない。抜かりなきように」

「はい。向こうから来てくれたら、それは願ったり叶ったりですけど、わかりました。ロード・スクルドも気をつけてください。あなたまで倒れてしまっては、魔女狩りが瓦解してしまいますから」

「お任せを……姫殿下にご心配頂ける日が来るとは」


 お互いを鼓舞し合う中で、ロード・スクルドはクスリと微笑んだ。

 先日の諍いについて、彼なりに私への負い目があるのかもしれない。

 彼は私に対する思惑はないようだし、私たちが戦ったのは氷室さんに対する思いの違いからだったから。

 お姫様である私と敵対したことに、後ろめたさがあったんだろう。


 私はやはり、彼の氷室さんに対する態度や行いは、未だに許しせはしないけれど。

 でもこうして言葉を交わし合い、そして手を取り合ってみれば、彼が誠実な人であることはわかったから。

 頼りになる協力者として、私はロード・スクルドを信頼している。


 私はそれを、笑顔を返す事で示して。

 挨拶の後、レオとアリアを伴って『魔女の森』に向けて空間転移をした。

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