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53 魔女と共に

「いずれにしろ、まず私たちがしなければならないことは大まかに二つ。姫殿下を城へお連れすることと、クリアの捜索ですね」


 ロード・スクルドは悩ましい顔しながらも、一旦まとめる言葉を口にした。

 クリアちゃんがどう動くかわからない以上、ひとまずしなければならないこととしては妥当だ。


「やっぱりそうなりますよね」

「はい、特にあなた様の帰還は重要です。今のこの場では、姫殿下の意思に則り魔女狩りを動かしますが、あなた様が帰還されれば国家として総出でことに当たれます。相手が魔女とはいえ、今は魔女狩り以外の力も必要となる」


 結局、私がお姫様としてこの国を守ろうとするのならば、正式な形で帰還して、実権を得る必要がある。

 とりあえず魔女狩りの手を借りられている今、帰還の目的は和解のためではなく、現状の危機に対応するため。

 この国の魔法使いの総力を持ってすれば、対応のしようは格段に増えるはずだ。


 それに、クリアちゃんが城を襲うという予想が当たっているのなら、城そのものの防備を強化する必要がある。

 そのためにもやはり、私がお城に入ることは欠かせないことだ。


「私は元々、今日は城に入ろうと思っていたんです。そこで、魔法使いの皆さんとちゃんと話し合おうと思っていました。ただ、色々と不測の事態にあって、まだそれができていませんが……。私を無事城に送り届けて頂けるのなら、私は自らの責務を果たします」

「お任せを。我々は本来、あなた様を城へとお連れする前に、そのお力を魔女の掃討に活用しようとしていました。しかしもちろん、今はそんなことを言ってる場合でもなければ、余裕もない。私が責任を持って、姫殿下のご帰還のお供を致しましょう」


 ハキハキとそう頷いたロード・スクルドの言葉に、両脇から安堵の溜息が聞こえてきた。

 私が城に戻る、つまりこの国に戻ってくるのだと、レオとアリアはホッとしているようだ。

 それに関して私はまだ答えを出せていないから、何だか申し訳ない気持ちになったけれど、今はそんなことを言っている場合じゃない。


「並行して、魔女狩りでクリアの捜索をします。しらみ潰しになってしまいますが、総動員すればなんとかなると、そう信じる他ありません。倒れられたデュークスさんや、行動を起こしているホーリーさんは仕方なくとも、ケインさんだけでもいて頂けたらよかったのですが……」


 そう言いつつもロード・スクルドは、ロード・ケインにはあまり期待できないという風に肩を竦めた。

 本来四人で統率するべき魔女狩りの組織を、この緊急事態に一人で取り仕切らなけれならない現状は、かなりの重責のはずだ。


 ロード・ケインといえば、さっき『魔女の森』に現れたと思ったら私を外へと吹き飛ばして、ロード・デュークスの元に誘導した張本人だ。

 あれはロード・デュークスの手助けだったはずだし、どうして所在がわからなくなってしまったのかよくわからない。

 彼はとてもハッキリしない人だけれど、それでも魔法使いとして、魔女狩りとして動いているはずだから。


「ロード・ケインのことは、私たちにお任せください。クリアの捜索と並行して、そちらにも気を配りましょう。この状況では、一人でも力を増やしたいところですし、やはり君主(ロード)の存在は大きいので」


 シオンさんがそう声を上げると、ロード・スクルドは大きく頷いた。


「そうだな。正直放っておきたい気持ちもあるが、彼は彼で優秀であることに変わりはない。何を考えているのかわからないが、見つけたら多少強引にでも引っ張ってきて欲しい」

「承知致しました」


 ポロリとこぼれでた本音に、シオンさんは目を丸くし、ネネさんは小さく吹き出した。

 けれどロード・スクルドがそれに気付かないうちに、シオンさんはネネさんの頭をポカリと叩いて、とても真面目な声で返事をした。

 でも、頰が少しだけヒクついている。


 魔女狩りたちが一枚岩ではなく、それは各君主(ロード)たちの思惑の違いによるものだとはわかっていたけれど。

 どうやらそれぞれの君主(ロード)たちの関係性も、色々と複雑みたいだ。

 それにロード・スクルドは四人の中で一番若いのだろうし、だからこそ思うところもあるのかもしれない。


「あの、私提案があるんですけど」


 ほんの少しだけ緩んだ空気の中、私はここぞと口を開いた。


「クリアちゃんの捜索、それに場合によっては防備に、魔女の力を借りるのはダメでしょうか?」

「魔女の? それは…………その是非はともかく、姫殿下は複数の魔女を統率できるあてがおありなのですか?」

「はい。ワルプルギスに協力を仰ごうかと」


 わかっていたけれど、案の定渋い顔をしたロード・スクルドに、私は迷わずはっきりと言った。

 ワルプルギスの単語が出た瞬間、一気に空気がピリつく。

 でも、それもわかりきっていた反応だ。


「安心してください、ワルプルギスは既にレジスタンスとしての機能を失っています。リーダーであるホワイトはもういませんし、彼女たちを叛逆に掻き立てるものはないんです。もちろん、そもそも過激な思想を持っている人もいるでしょうが……そういう人はこの件に協力はしないでしょうし」

「ワルプルギスを無力化したと。姫殿下は、そのワルプルギスの残党を従えられるのですか?」

「従えるというか、協力をお願いする、ですけど。彼女たちはそもそも私のことを慕ってくれていますし、手を貸してくれると言ってくれていますから」


 昨日のことを事細かく説明している暇はないけれど、私の今の言葉でみんなは、昨日どうして魔女たちが引いていったのかを理解したようだった。

 さすが姫様は侮れない、みたいな尊敬を含んだ雰囲気がとてつもなく伝わってくる。

 けれど同時に、魔女と行動を共にしようということへの反感が、ロード・スクルドから滲んできていた。


「正直私は、まだ魔女に対する気持ちを整理できていません。それに、多くの魔法使いは当然のように敵視するでしょう。余計なトラブルが起きる危険性を考えると、得策とは言い難いのでは……」

「それは、わかってるつもりです。でも、今は少しでも人手が必要ですし、同じ魔女だからこそわかることもあるかもしれない。だからロード・スクルド、あなたからみんなを言い含めて欲しいんです。いえ、必要なら、私がみんなの前に立ってもいい」


 迷いを見せるロード・スクルドに、私は強気な態度で言った。

 そんな私を受けて、彼は眉を寄せて唸った。


「別に、今すぐ魔女に対する認識を変えろとは言いません。とりあえず今だけでもいいんです。この国を、世界を守るために、手を取り合わずとも、せめて敵対しないようにできないでしょうか」

「………………難しいでしょう。しかし、それがこの国の未来のために必要なのであれば、これは乗り越えなければならない困難だ」


 ロード・スクルドは額を手で覆いながら、振り絞るようにしてそう言った。

 魔女狩りを統べる君主(ロード)だからこそ、部下たちに対して、「魔女を敵視するな」とは言いにくいんだ。

 でもそれを押して、彼は渋々と頷いた。


「私が皆に指示を出します。国のため、世界のため、そして姫殿下のために、今は目を瞑るようにと。皆あなた様がここにいらっしゃることは心得ていますから、姫殿下の意向だと、そう言い聞かせます」

「ありがとうございます。これは、あなたにしかお願いできないことだから。よろしくお願いします。でも、私の言葉が直接必要なら、言ってくださいね」


 一番実直で、けれど柔軟なロード・スクルドだからこそ、その指示は一番みんなに伝わりやすいはずだ。

 魔法使いの魔女に対する感情は根深いものだとわかっているけれど、今この時に関しては、そんなことを言っていたら手遅れになってしまうかもしれない。

 相手は魔法使いすらも翻弄するクリアちゃんなのだから、あらゆる手を尽くして対処しないと、あっという間にしてやられてしまう。


 ロード・スクルドは難しい顔をしているけれど、でもその目は観念し、覚悟を決めているようだった。

 正直一蹴されてもおかしくない提案なのに、渋々ながらも頷いてくれた彼は、本当にこの国のことを思っているんだろう。

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