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41 苦しみを分かち合う

 五人で屋敷に訪れると、意外にもロード・スクルドはスムーズに受け入れてくれた。

 今回の事態に顔を出さなかったことから、もしかしたら関わることを渋るかなとも思ったけれど。

 そんな素振りは全くなく、彼は快く私たちを迎えれてくれた。


 クリアちゃんの対処に自らが出陣しなかっただけで、彼は決して魔女狩りの責務を放棄していたわけではないようだ。

 彼の屋敷内では多くの魔女狩りたちが走り回っていて、事態の対処に奔走している様が窺えた。


 私たちが現状のあらましを説明すると、ロード・スクルドはすぐに協力を約束してくれた。

 しかし、今はまず休息を取るべきだと強く勧められ、私はレオとアリアと共に用意された客室に押し込まれた。


 気持ちとしては今すぐに対処にあたりたい所だけれど、クリアちゃんの行方は現状わからないし、私の繋がりを探ってもやはりどうにもならない。

 がむしゃらに動いても意味がないし、そもそも多くの人の力を借りたいからこそ、魔女狩りに協力を求めたわけだし。

 魔女狩りサイドにも都合や準備があるだろうし、今はそれに従って、言葉に甘えて休むことが最善だと、その好意を受けることにした。


「とんでもないことになっちゃって……ごめんね、私があんなことしなかったら、もしかしたら……」


 用意された客室の、テーブルの端っこに腰掛けたアリアが、しょんぼりと俯いてそう言った。

 シオンさんとネネさんは、君主(ロード)の代わりに仲間の統制を取ると言って一旦ここから出て行って、今はレオとアリアと三人。

 先程ロード・デュークスのところで案内された応接室より更に一回り大きな客室は、私たち三人では持て余してしまうくらいに大きい。

 豪華絢爛ながらもガランとした室内の中で、アリアの弱々しい声は静かに響いた。


「別に、アリアが悪いわけじゃないよ。誰が悪いわけじゃない。アリアは私の為を思ってくれたわけだし、それにああしなかったら、またロード・デュークスに殺されちゃうところだったんでしょ?」

「けど、私がアリスを連れて来なければ、こんなことには……」


 アリアの隣に腰掛けて、その肩に手を回して声を掛ける。

 あの部屋の中で起こった色々なことがショックだったようで、いつもの凛々しさは全くない。


「ウジウジすんなよ、アリア。アリスの言う通り、お前は悪くねぇ。俺たち三人で決めて、ここに来たんじゃねぇか。そうするしかなかったし、それが一番だと思った。だから、仕方なかったんだ。自分を責めんな」


 項垂れるアリアに、レオは背後から頭をぐしゃりと撫でた。

 その乱暴な手つきは、撫でているというよりは頭を振り回しているようだ。

 立っている彼は普段よりも一層大きく見えて、いつもアリアからお小言を言われている立場から逆転しているような雰囲気だった。


「痛いよ、バカ」


 そんな手を振り払って、アリアは頭を上げてむくれた。

 仰反るように上を見上げて、見下ろしている赤髪の頭を睨む。

 けれどすぐにその表情は緩んで、アリアは気を抜いたように息を吐いた。


「でも、そうだよね。ありがと。すぐウジウジしちゃうの、私の悪い癖だ」

「ホントだっつーの。普段はギャンギャンうるせーし、かと思えば急に突っ走るし、それなのにすぐ落ち込むし。こっちはお守りで大変だぜ」

「うっさい! アンタだって十分おバカでしょーが」


 わざとらしくやれやれと肩を竦めたレオに、アリアはそのお腹目掛けて後頭部を打ち付けた。

 完全に気を抜いていたレオは、鳩尾に突き刺さった一撃に鈍い呻き声を上げてよろめく。

 そんな様子を見て、私とアリアは顔を見合わせて笑って、レオもすぐにケロッとして笑みを浮かべた。


「────それでアリス、色々と確認しておかないといけないことが……」


 ひとしきり三人で笑った後、アリアは真剣な面持ちになってそう口を開いた。

 レオもそれに頷いて、手近な椅子に腰掛けてこちらに顔を向ける。


「正直私たちは、あの場で起きたことについていけなかった。ロード・デュークスがどうしてあそこまで世界を滅ぼすことを望んでいたのか、ナイトウォーカーさんとロード・ホーリーは、何をしようとしているのか。私たちは、ただあそこにいることしかできなくて……」

「私も、似たようなものだったよ。わからないことは沢山あって、未だに振り回されっぱなし。でも……うん、私にわかる範囲のことは話すよ。二人には、わかっていて欲しい」


 自らの非力さを嘆くように、アリアは手を組み合わせて俯く。

 私はそんな彼女の手を取ってから、全てを語る覚悟を決めた。


 現状を説明するためには、『魔女ウィルス』の真実と、魔法使いの実態を話さなければいけない。

 魔法使いである二人にそれを知らせるのは、とても酷なことだも思うけれど。

 でも二人には、全てを知る権利があるし、それに、それを踏まえた上でことに当たって欲しいから。


 ロード・デュークスは、それを他の人たちに語るつもりはなかったようだけれど。

 彼の部下であり、彼の手を離れてしまったジャバウォックに対処する必要が迫られている以上、知る必要がある。

 ジャバウォックがドルミーレに反する存在であるのなら、それは魔法を扱う魔法使いにとってもひと事ではないことだから。


『魔女ウィルス』の真実と、そこから推測できるロード・デュークスの思想、そしてそれに対するジャバウォックの影響力。

 それと、想像するしかないけれど、夜子さんとロード・ホーリーの立ち位置と、その立ち振る舞い。

 更には、自分でも消化し切れていないけれど、ロード・ホーリーが私のお母さんであること。

 そして、私とクリアちゃんの関係性。それ以外にも、今の私の、色々なこと。


 その全てを、今私に話せることを、全部二人に話して聞かせた。

 情報量の多さに、レオもアリアも終始ポカンとしていて、心の整理には大分時間を要するようだった。

 それでも二人は決して感情を爆発させることなく、粛々と私の言葉を聞き入れて、全てに頷いてくれた。


 魔法使いの在り方、その事実だけで、二人には耐えがたいことだろうに。

 それも全部飲み込んで、今私に降りかかっている現状、向かい合わなきゃいけない問題を、ちゃんと受け入れてくれた。


 理解できないと、聞きたくないと、耳を塞がれてもおかしくないことだと覚悟したけれど。

 二人は全てを聞き入れて、受け入れてくれたんだ。


 二人とも歯を食いしばって、拳を握り締めて、必死に激情を堪えているようだったけれど。

 でも、あらかたを話し終えた後で私に向けられたのは、優しい笑顔だった。


「話してくれてありがとう。辛かったね、アリス」


 少し掠れた声で、けれどとても優しい声でアリアはそう言って。

 レオは無言で、私たちの手に大きな手を重ね、包んでくれた。


 辛いのは、自分たちだって同じはずなのに。

 私は、涙が止まらなかった。

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