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13 本気と覚悟

 アリアは本気だ。脅しでもハッタリでもなく、彼女は私を叩きのめしてでも連れ帰ろうとしてる。

 けれどそれは、私のことを助けるための行為。それこそが彼女の考え。

 私の意思とは違うけれど、それは確かに私を思ってのこと。


 だから決して、アリアが私の敵になってしまったわけではないけれど。

 でも敵ではないからこそ、どうしても戦う気にはなれなかった。

 大切な親友と、アリアと刃を交えるなんて、そんなことしたくない。


「待って……待ってよアリア! 私、アリアとなんて戦いたくないよ。アリアだってそうでしょう!?」

「それは、もちろん。でも、そうしないとアリスを連れ帰れないなら、私は……」


 アリアはぎゅっと唇を結んで、苦しそうに目を細めた。

 以前レオとアリアが迎えに来た時、そしてレオが私を殺そうとした時、アリアはいつだって私と戦うことを止めていた。

 気持ちがすれ違って衝突してしまうことがあっても、戦ってはいけないと、そう言っていたのに。

 でもそんな彼女が戦うと言うのだから、そこにあるのは相当の覚悟だ。


 けれどやっぱり、私は納得できなかった。


「ねぇ、アリア。レオは何て言ってるの? レオも、私を連れ帰ろうって、戦ってもそうしようって言ってるの……?」

「レオは……」

「もしかして、今度はレオが人質にされてるとか? レオはまだロード・デュークスに捕まったままで、レオを助けるためにアリアはこんなことをさせられてるの?」


 レオの名前を聞いて眉をひそめたアリアに、私はここぞと問いかける。

 しかしアリアは、静かに首を横に振った。


「確かに私たちは一度捕らえられたけれど、レオも解放されているよ。だから一応無事。それにレオはね、私の話をわかってくれたの。アリスを救うためにはこうするしかないって」

「そんな……じゃあ……」

「私は誰にも無理強いなんてされてない。これは私の意思なんだよ、アリス。あなたが何と言おうと、私はあなたが最も救われる道を進む」


 淡々とそう言うと、アリアはそっとこちらに向けて手を伸ばした。

 それと同時に彼女の魔力が高まって、臨戦態勢であることが伝わってくる。

 私がどんなに否定しても、アリアは自らの意思で、本気で私の前に立ちはだかっている。


 けれど、でもそれならば、どうして彼女の隣にレオはいないのか。

 レオが無事で、そして彼女の意見に賛同しているというのなら、二人揃って私を迎えに来てもいいだろうに。

 でもレオはここにはいない。アリアの隣にはいない。

 その事実は、レオがこの状況をよく思っていないからなんじゃないかと、何となくそう思った。


 ただ、いくら私がそう思ったとしても、だからといって状況が変わるわけではない。

 大勢の魔女狩りに囲まれ、そしてアリアが立ちはだかっている以上、戦いは避けられない。


「アリスちゃん、大丈夫?」


 背中を合わせて私の背後に意識を向けつつ、氷室さんが静かに尋ねてきた。

 氷室さんは私とアリアのことはわかっているし、状況をちゃんと把握してくれているはずだ。

 冷静なトーンの問いかけの中には、私を案じている気持ちがこもっていた。


「……大、丈夫。大丈夫じゃないけど、でも大丈夫。へこたれてなんて、いられないから」


 アリアとなんて戦いたくない。けれどだからといって、彼女の言う通りついて行ったら、自由を奪われるかもしれない。

『ジャバウォック計画』の実行を許してしまえば、もう取り返しのつかないことになってしまう。

 そんなことは決してさせられないと私は思うのだから、戦いたくないなんて言っていられない。

 大切な親友だからこそ、目を逸らしていちゃいけないんだ。


「…………わかったよ、アリア」


 私は深呼吸してから、しっかりとアリアを見据えて言った。

『真理の(つるぎ)』を固く握りなおす。


「アリアがそう言うなら、私は戦う。目一杯抵抗して、アリアに私の気持ちをわかってもらう。それしか、もうないんでしょ? なら、私も覚悟を決めるよ」


 自分の道を進むというとことは、誰かの意思を踏み倒して、気持ちを踏みにじることだ。

 私はもうそれを知ってしまったのだから、いつまでもわがままは言っていられない。

 それが私のことを思う気持ちなら尚の事、私は自らの気持ちで、責任と覚悟を持って相手の意思を打ち倒さなければならない。

 目を逸らすことも、逃げ出すことも、泣き言を言うことも許されない。

 だって私は、もうここまできてしまったのだから。いろんな人の思いを砕いて、ここまできたのだから。


 相手が大切な親友だからこそ、私はその気持ちを正面から受け止めて、自分の気持ちを貫き通す。


「喧嘩をしよう、アリア」


 覚悟を決めて、剣を構える。

 それに対してアリアは、泣きそうな顔で表情を陰らせた。

 けれど、そこからくる明確な戦意に変わりはない。

 アリアは少しの間目を細めてから、小さく口の端を吊り上げた。


「無理だよ、アリス。私とあなたでは戦いにならない。だってあなたは、優しすぎるんだもん。でもね、私はあなたみたいに優しくないから。ごめんね、アリス」

「それは、どういう……」


 アリアの言葉はとても静かで、優しげに聞こえてどこか怖い。

 それはどこか達観したような、気持ちを振り切ったような、そんな静けさで。

 なんだか、とても嫌な予感がした。


「私はアリスのこと、よく知ってるから。他の魔法使いと戦うのと、一緒にしないほうがいいよってこと」

「…………?」


 言いたいことがよくわからない。けれど、気を抜いてはいけないのは確かだ。

 アリアはレオみたいに直接戦闘に向くタイプではないけれど、でも魔法の実力は高い。

 子供ながらに私の旅に同行して培った経験があり、そしてロード・デュークスの配下の中で四番目の階級であるD4(ディーフォー)が、それを裏付けている。


「そこの魔女狩りたちは、ロード・ケインが勝手に気を回して用意した人員だから、別に気にしなくてもいいよ。手出しはさせない。でもアリスは、私一人にだって勝てない」


 アリアは淡々とそう言って、自らの魔力を弾けさせた。

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