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52 姫君の配下

「魔女狩りを、実質一人で倒してしまうなんてね。予想通りといえば予想通りではあるけれど、でもやっぱり素晴らしいとしか言いようがないね」


 レイくんは、まるで道端でばったりと会ったような気軽さで笑顔を浮かべる。

 そのあまりにも呑気な態度は、今まで緊迫していた私たちにとっては、とても場違いに思えるほどだった。


「レイくん……」

「君はちゃんと僕の見立て通り、その力をものにしつつあるようだね。安心安心」


 こちらの緊張はどこ吹く風。レイくんは相変わらずのマイペースを貫いている。

 けれど私はともかく、善子さんはそれを許しはしなかった。


「レイ! あんたどのツラ下げてこんな所に……!」

「善子ちゃんは相変わらず元気だなぁ。まだ完治してないんだから大人しくしてなさい」


 檄を飛ばす善子さんに対して、レイくんはのらりくらりと流す。

 昨日もそうだったけれど、レイくんの善子さんに対する関心はとても低い。

 その態度が余計善子さんの怒りを買うわけだけれど、きっとレイくんはわざとやっている。


「その口ぶりだと、一部始終を見ていたようだけれど……」

「うん。じっくり拝見させていただいたよ」


 氷室さんが冷静に指摘すると、レイくんは何食わぬ顔で答えた。

 でもそれなら力を貸してくれても良かったのに。ついそう思っってしまったけれど、それがどれだけ身勝手な気持ちかはわかっていた。

 基本的に、魔女は魔法使いに対して不利。魔法使いを目の前にして、自ら飛び出していくなんて普通しないんだ。


「レイくん、今日はどうしたの?」

「どうしたもこうしたも、アリスちゃんに会いに来たんだよ。約束通りね」

「それにしては、随分と図ったようなタイミングだね」

「まぁ図ってきたからね」


 飄々と、事も無げに肯定する。

 私たちの戦いの一部始終を観察していて、このタイミングで姿をあらわす意味。

 それが何なのかはわからなかったけれど、何か魂胆があることだけは明らかだった。


「そんなに疑った目で見なくてもいいじゃなか。僕たちは友達だろう?」

「友達だとは思ってるよ。けど、レイくんが怪しいと思う気持ちはそれはそれ」

「手厳しいなぁ。やっぱりアリスちゃんは一筋縄ではいかないね。わかったよ、白状しよう」


 肩をすくめてやれやれと苦笑いするレイくん。

 そんな素振りさえ、その綺麗な顔立ちでされると様になるのが少し腹立たしかった。


「魔女狩りがこの近辺に来ていることは、昨日の時点から気付いていたんだ。それが君に接触するであろうことももちろんわかっていた。だからそこで、君が何かを見出すだろうと踏んでいたんだ」

「つまり、結局は私の力が目当てってこと?」

「否定はしないけど、誤解はしないでほしいな。僕自身の最優先はアリスちゃん自身で、あってお姫様の力は二の次だ。けれど君がその力を覚醒させくれるのなら、それに越したことはない」

「そうは言うけどさ。私があっさり殺されてたらどうするつもりだったの?」

「もちろんその時は助けに入るつもりだったさ。みすみす君を殺させやしないさ。けど、その必要がないであろうことはわかっていたからね」


 余裕の笑みが、なんだかこちらの不安を掻き立てる。

 レイくんが何を考えているのかさっぱりわからない。


「僕はアリスちゃんを信じていたからさ。アリスちゃんなら、その心なら大事なものに辿り着くってね」

「それはありがと。それで結局、レイくんは何がしたかったの?」


 ただ私が力を使うところを見届けたかっただけではないだろうし。

 そうじゃなきゃ、わざわざこのタイミングで現れるはずがない。

 私が一人になったタイミングにすればいいんだから。


 ここには氷室さんや善子さんもいる。

 特に善子さんはレイくんのことを快く思っていないんだから、噛みつかれるリスクもある。

 今じゃなきゃいけない理由が必ずあるはず。


「アリスちゃんに、いやアリスちゃんたちに宣言をしたくてね」

「宣言?」


 物々しい言い方に思わず首を傾げた。


「そうだよ。君だけに言ってもいいけれど、折角配下の魔女がいるからね」

「配下って……」


 いくら私がお姫様だからといって、友達を配下と言われるのはなんだか気分がよくなかった。

 確かに二人とも私のことを守ろうと戦ってくれたけれど、それは別に私を姫と崇めて遣えているわけじゃないんだから。


「……」


 氷室さんが無言で私の制服の袖を握った。その手にはどこか不安が込められているような気がした。

 けれど氷室さんはいつも通りのポーカーフェイスを貫いている。その手だけが、何かを訴えていた。


「いやいや適切な表現さ。何しろこの僕も、その末席を汚しているからね。姫殿下」

「どういう意味……?」

「お姫様には、それに侍る忠臣が必要なのさ」


 得意げな笑みを浮かべるレイくんの話に、私は全くついていけなかった。

 けれど、私の袖を引く氷室さんの手の力が僅かに強くなったのを感じた。

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