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31 違いを受け入れる

 そして私は熊に連れられ、長老とやらがいる首都へ向かうことになった。

 熊の話によれば、この『どうぶつの国』では長老と呼ばれる長い時を生きた動物が大事を決めているという。

 自然の権化であるが故に果てのない時を生きている妖精には及ばずとも、長老と呼ばれる動物もまた、長すぎる時を刻んできた賢者だとか。


 ただ偉いだけではなく、知識に富んでるのであれば会いに行く価値は確かにある。

 熊も、私は是非長老に会って話をするのがいいと深く念押しをしてきた。


 話によれば、この国の大半のヒトビトはあまり神秘に精通していないとのことだった。

 全くというわけではないようだけれど、神秘を深く理解し自在に扱うことができるのは、その長老をはじめとしたごく一部のヒトだけだとか。

『どうぶつの国』の住人たちにとって神秘とは、飽くまでそこにあるだけで、自ら干渉するものではないらしい。


 それは一体どういう神秘なのかと尋ねてみれば、熊は難しい顔して唸った。

 神秘を自分の意思で扱わない彼らは、どうやらそれを説明するのも難しいようだった。

 感覚では理解しているようだけれど、それを言葉にして伝えることはできないんだと、熊は申し訳なさそうにそう言った。


 熊は見た目の(いかめ)しさや低い声色、大柄な体格からは想像できないほど、大らかなヒトだった。

 私に自ら深入りをしようとはせず、しかし尋ねたことにはしっかりと答えてくれる。

 口数はあまり多くはなく、寡黙で淡々と私を首都へと案内してくれた。

 妖精の時はひたすらにやかましかったから、私にはこれがとても助かった。


 首都へと向かう道中、様々な街を通り過ぎ、様々な動物たちに出会った。

 この国は『ようせいの国』のように種類ごとに明確な区分が分かれているわけでもなく、どこの街にもいろんな種類の動物たちが暮らしていた。

 肉食動物と草食動物、大きい動物に小さい動物。鳥類や爬虫類。好みや生態、価値観やスケール感がてんでんバラバラだというのに、この国はそれを全て混ぜ合わせて運営されている。


 だから巨人の家のようなところから像が出てきたかと思えば、道の隅のおもちゃのような家からリスが出てきたりする。

 地上の道だけを気にしていると、空から鳥が舞い降りてきたり、川からワニが這い上がってきたり。

 それぞれがそれぞれの生態と習慣で暮らし、それが全て受け入れられている。

 通りかかった服屋を少し覗いた時、同じデザインの服のサイズ違いが数え切れないほどあって、さすがに少し可笑しくなってしまった。


 動物の種類が違えば好みも違い、食べる量も違う。

 できることとできないことがあるし、向き不向きもある。

 それは多種多様に過ぎているからこそ顕著であり、言ってしまえば国民全員の共通点など皆無だ。

 でもだからこそ、この国ヒトビトと文化は違いを許容するようにできている。


 全てを共通の視点で見ようとするのではなく、それぞれにあった生活が行えるように、誰しもが違いを受け入れている。

 それが当たり前として根付いているからこそ、この国には数え切れないほどの種類の動物だちが共存している。

 野生の動物たちの世界で考えれば、弱肉強食で強く賢い動物たちが覇権を握ってしまいそうなものだけれど。

 区別はあれど差別はなく、この国は常に平等に巡っているように見えた。


 この国の様子を見ると、理外のことを受け入れられない人間の度量の狭さを痛感させられる。

 彼らは基本的に同じ規格と価値観の集団だから、そこから外れるものが許容できないんだろう。

 きっと彼らがこの国を訪れたら、数分ともたずに参ってしまうに違いない。


 そうやって色々な街を見ていると、確かに熊が言う通り、道ゆくヒトが神秘の力らしいものを使っている様子はなかった。

 けれど熊と同様に感じ取る感覚はあるようで、多くのヒトビトが私に興味深そうな視線を向けてきた。

 しかしそれは人間たちのような奇異の眼差しではなく、妖精たちのような好奇心に近いもの。

 自分たち自身が神秘を扱わずとも、神秘が根付いた生活をしているから、全く理解ができなとういうわけではないのかもしれない。


 寡黙な熊と、黙々と旅をする。

『どうぶつの国』は全体的に、自然と同化したのどかな街並みが多く、穏やかで豊かだ。

 けれど進んでいき少しずつ首都へと近づくと、徐々に街が整っていっているようだった。

 自然を残すのはそのままに、建物や施設の数が増え、またヒトの数も増え、賑わいが窺える。

 けれど建物の様式も素材もバラバラで、集っている動物だちも多岐にわたっているせいで、とてもチグハグな印象ではあった。


 そんな街々を通り抜けて、一日半ほど旅を続け、私はようやく首都へと辿り着いた。

 今まで見た中で一番大きく、そして賑わっているこの街は、至る所に川が通っている水の都だった。

 街の中央を思わせるところにはとんがり帽子のような切り立った岩山のような塔がそびえ立っていて、それを囲むように建物がひしめき合っている。


 蛙たちが船頭をしている船に乗り、水路を流れて中心へ向かう。

 私の掌サイズしかない蛙たちに、熊でも乗れる船を漕げるのかと思ったけれど、基本的に流れに任せての進行だったので、その心配は杞憂だった。


 首都は水路が多く建物が多いからか地上の道は限られていて、建物同士や木と繋ぎ合わせた吊り橋道が至る所に掛けられている。

 自然に同化しているのか、この街に関しては少し怪しいような気がした。

 けれどやろうと思えば木を切り倒し、川を埋め立てることができるだろうと思えば、十分に共存ができているのかもしれない。


 そうやって街を観察しながら船に乗って水路を流れ、私と熊は岩の塔の側で地上に上がった。

 ただの切り立った岩山に見えるそれだけれど、よく見れば所々に窓のような穴が空いている。

 首都は全体的に活気にあふれた賑やかな様子だけれど、この塔の周辺だけは打って変わってしずかで、とても厳かな雰囲気が感じられた。


 熊いわく、この塔に長老がいるらしい。

 私は少しだけ息を飲んでから、熊に連れられて塔に空いている洞窟のような穴に入った。

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