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30 『どうぶつの国』

 オウムが言った通り、『どうぶつの国』へはそれから十分と歩くことなく辿り着いた。

 密林が開けたと思ったその先はなだらかな傾斜となっており、五メートル程降下した先に国が広がっていた。


 密林の中にぽっかりと空いた穴の中に収まっているような、そんな国。

 その全容はもちろんこの場からは窺えない。しかし、国と呼べるものが全て収まっているのであれば、密林自体もとても広大なものなんだろう。


 街並みは、とても自然に寄り添ったものだった。

 ホーリーとイヴニングの町も林に併設された、木々になじんだものだったけれど、ここはそれ以上。

 密林の中に街を興し、完全に自然の営みと一体化し、共存しているようだった。それはある意味、野生の動物たちと同じよう。


 丸太造りの家が建っていたり、巨木をくり抜いてその中に住っていたり、木の上に家を乗せていたり。

 洞窟を改造したような家や、木の枝や藁葺を積み上げたものなど。

 どことなく動物の巣を思わせるようで、しかしヒトの営みを感じさせる文化の兆しもある。

 多種多様な街並みは統一感がなく、しかしそれが絶妙なバランスを保っていた。


 そしてそんな街並みの中を行き来しているのは、もちろん動物たち。

 しかし普通の動物ではなく、みんな一様にこのオウムのように衣服を身につけている。

 どんな種類の動物たちも一様に服を着たり装飾を身につけたりと、その身を着飾っている。

 そしてそのほとんどが、二足歩行をして行き交っていた。


 見た目は普通の動物と変わらないのに、当然のように二つの足で直立して歩いている。

 このオウムのように鳥類のヒトは飛んでいる様子もあるけれど。

 その姿、立ち振る舞いは、確かにヒトと呼べるものだと思わされた。


「さ、ここが『どうぶつの国』。これからどこに行くのか決まっているのかな……?」

「ええと……」


 低空飛行で先行していたオウムは、着地して羽を畳むと気軽に尋ねてきた。

 しかし私は、この『どうぶつの国』の様子に呆気にとられてすぐにはまともな返事ができなかった。


 知識ではわかっていたことだけれど、実際に目にするとやはり驚愕が浮かんでしまう。

 妖精たちや、彼らが住う『ようせいの国』も、私がベースにしている人間の生活とはかけ離れたものではあったけれど。

 普段から辺りを駆け回っている動物たちが、ヒトの生活を送っているという光景は、全く未知のものを見るのとはまた違う驚きと戸惑いがあった。


 しかしいつまでもそうしているわけにもいかず、私は大きく息を吸うことで気持ちを切り替えた。


「特に目的地があるわけではないの。だから、この国のことや、この国の神秘について知ることができるところがあるのなら、教えてほしい」

「ほ〜、難しいことを知りたがるんだねぇ。うーん」


 私が尋ねると、オウムは気の抜けた声を上げた。

 あまり深く考えていない様子で、しかし目一杯首を傾げる。


「取り敢えずここは田舎だからねぇ。首都に行った方がいいとは思うけどさ。まぁそこで君が知りたいことが知れるかどうかは……私はわっかんないなぁ」

「そう……」


 軽い調子で答えるオウムに、私は特に落胆することなく頷いた。

 このオウムは出会った時からこの様子だし、妖精たちのように誰しもが神秘に深く精通しているわけではないのかもしれない。

 彼らは私を一目見て、星の妖精の元に連れて行くべきだと判断したけれど、きっとこの国のヒトビトは誰しもがそういった見識や感性を持っているわけではないんだろう。


 取り敢えず、これ以上オウムから得られることはないように思えた。

 他を当たるか、或いは彼の言う通り首都に向かってみた方がいいかもしれない。

 そう、今後の方針を考えて、周りが少し騒ついていることに気がついた。


 街を行き交う動物たちの多くが、私のことをしげしげと眺めている。

 妖精たちが私に向けたのに近い、疑問と興味を併せ持った視線だった。

 そしてしばらくすると、一人の熊がノソノソと歩み寄ってきて、穏やかな様子で私に声をかけてきた。


「こんにちはお嬢さん。君は人間かな? なんだか不思議な神秘を感じるが」


 壮年の男性を感じさせる、落ち着きのある低い声。

 見上げるほどに大きな体躯に似合わず、熊は柔らかに尋ねてきた。


「いいえ、私は人間ではないわ。妖精曰く、私は第七の神秘を持っているとのことだけれど」

「なるほど。最後の神秘というやつか……。それで、人間のようで人間ではない君は、ここへは何の用で?」

「私は、私を知る為の旅をしているの」

「……なら、長老たちに会うのがいい。俺が案内をしよう」


 熊はフムフムと頷くと、少し考えてからそう言った。

 彼自身が私の知りたいことを知っているようではなかったけれど、オウムよりは私の意図が通じたようだった。

 行くべきを先を示してくれるのならと頷くと、熊はオウムに向かってジトッとした視線を向けた。


「この子は見るからに特別な子だ。よくわからずとも、長老たちに目通りをさせるべきだということくらいはわかるだろうに」

「あぁ、そうかぁ〜。悪いねぇ、鳥頭なもんで」


 特に気にした素振りを見せず、カカカと笑うオウム。

 そんな彼に、熊は深い溜息をついた。

 どうやら私を見て何も感じなかったのは、単純にオウムが鈍かっただけのようだった。


「人間の姿を持ちつつ人間ではなく、そして最後の神秘を持つ者。まさか君のような子がこの街に訪れるとは。しかしこうして出会った以上、君を然るべきところまで送り届けよう。君が求めるものは、到底俺たちでは答えられそうにもないからな」


 オウムから視線を外した熊は、肩を竦めてそう言った。

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