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40 甘い

 私を痛めつけ、屈服させるつもりでいるホワイト。

 私が戦う意志を持ち立ち向かっても、ドルミーレの力が溢れかえっていても、その意気を弱めはしなかった。


 そんな彼女の、瞳が突然煌めく。

 それを私の視覚が認識したのと同時に、眩い光の柱がそこから放たれた。

 その獰猛な瞳から放たれた光は、レーザービームのように閃光の速さで飛び込んでくる。


 光の速度なんて、とてもじゃないけど普通なら対応できない。

 けれど、『始まりの力』が漲って強化された身体能力ならば、それを斬り払うことは造作もなかった。

 一直線に放たれるレーザービームは、『真理の(つるぎ)』の一振りで即座に弾けた。


「甘く見られては困ります」


 目の前の攻撃に気を取られている隙に、私の足元には光り輝く魔法陣が展開していた。

 私を中心に大きく展開するそれは、陣の縁から次々と見上げるほどの光の柱を立て、私を囲い込んだ。

 そして、まるで蓋をするように上部にも同じような魔法陣が広がり、私は光の檻に閉じ込められた。


 その全ての展開が光速で、強化された動体視力でも認識できるのがやっとの速度。


 光の檻が完成してすぐ、折の外側の柱の隙間全てに、光の剣が(つが)えられた。

 隙間を埋め尽くす大量の剣。そして上下の魔法陣の紋様の隙間にも、同様に隈なく光の剣が(つが)えられる。

 三百六十度、全方位。見渡す限り、数百の剣の鋒が全て私を向く。


 そして、その全てが一斉に私に向けて射出された。

 逃げ場なんて、ない。


「私だって、甘く見られちゃ困ります!」


 けれど、そんなこと関係ない。

 夜空に浮かぶ星々が一斉に自分に迫ってくるような光景。

 でも私には怯む必要すらなかった。


『幻想の掌握』。私の前に、あらゆる魔法は支配下に落ちる。

 迫りくる魔法全てに意識を向け、その幻想(まほう)を私の幻想(イメージ)で塗り替える。


 力が封印されている時は、この力も限定的なものだったけれど。

 かつての力を取り戻した今、全ての幻想は私の思うままだ。


 飛来してくる光の剣を全て制御下に置き、押し留める。

 同時に私を囲む檻の制御も奪い取って、輝きと共に霧散させた。

 私目掛けて飛び込んできた全ての剣の鋒をホワイトの方向へと転換させ、私はそれらを一斉に掃射した。


「…………!」


 流星群のような光の連射に、ホワイトは蛇の尾で上半身を覆い、防御の構えをとった。

 白く艶やかなその鱗は、とても強靭だ。

 一息の隙間もない連続攻撃がその尾を撃ち続けても、びくともしなかった。


 ホワイトが防御に徹しているうちに、私もまた光をまとって瞬時にその背後に回った。

 光の剣の乱撃が収まり、ホワイトが尾による防御を解いた瞬間に、『真理の(つるぎ)』に込めた魔力を斬撃に込めて力任せに叩き込む。


 白く輝く力の奔流が、極光となって放たれる。

 ホワイトはすぐに気付いて振り返り、防御の為の障壁を張った。

 けれど、『真理の(つるぎ)』による攻撃に魔法の防御は通用しない。

 白い極光の斬撃は、瞬時に障壁を掻き消して突き進み、その純白の姿に直撃した。


 白い力の波動と、直撃による衝撃で一瞬視界が白む。

 しかし、今の攻撃は確実に届き、その身に打ち付けられたのわかった。

 そう思って気を抜きかけた時、白く濁った視界の中から純白の蛇の尾が飛び込んできた。


「しまっ────」


 咄嗟のことに反応が遅れ、私の体に蛇の尾が巻きついた。

 粘り気を持つ硬い鱗と、筋肉質で激しく伸縮する肉が、私を即座に締め上げる。


「姫殿下は、甘うございます」


 私を捕らえたホワイトが、したり顔でその体を近づけてくる。

 私の攻撃によってその純白の着物は破れ燻んでいたけれど、彼女自身にあまり大きなダメージは見て取れなかった。

 転臨に至った魔女は、驚異的な回復力を持つ強靭な肉体になる。

 あっという間に、傷を再生してしまったのかもしれない。


 一つの傷もない美しい貌で、ホワイトは微笑む。


「力を取り戻した貴女様は確かにお強い。しかし、敵を打ち滅ぼすお覚悟がおありではない。それでは、わたくしを下すことはできませんよ」

「っ…………!」


 ギチギチと締め付けられて、身体中が悲鳴を上げる。

 まるでセメントで固められたように押し込められて、体をピクリとも動かせなかった。

 物理的な締め付けでは、『真理の(つるぎ)』でも『幻想の掌握』でも対処できない。

 だからといって魔法で対抗しようとしても、凄まじい圧迫感ではなかなか意識が向けられなかった。


「敵対するものは、完膚無きまで叩きのめすものです。そうしなければ、悪しきものは蔓延り続ける。自身が正しいと思うのならば、迷いなく振るわなければ」

「私は、私たちの正しさを、信じてる……でも、迷うに決まってる。だって、その正しさを、人に押し付けようとは、思わないから……!」


 自分が正しいと思っても、自分とは違う正しさがあることを私はもう知ってる。

 それが受け入れられないからぶつかり合うけど、でもそれは自分の主張を押し付ける為じゃない。

 ぶつかり合いの果てに、最後はどこかでわかり合う為だ。


 だから、相手を傷付けることにどうしても迷いが生まれる。

 でも私はそれを、愚かだとは思わない。


 息をすることも難しい中で、ホワイトを睨んで叫ぶ。

 そんな私に、ホワイトは微笑みと共に冷めた目を向けるてくる。


「貴女様は本当に、愚かなお方」


 そう呟いて、尾の締め上げが更に強める。

 そのまま全身の骨を粉砕されるのではないかと思った瞬間、私の背中で翼のように開く黒剣が魔力を迸らせた。


 三本の黒剣が、私の背中を中心にグルグル急速に、円を描くように回転した。

 まるで回転ノコギリのように黒い刃を振り回し、私を締め上げていた蛇の尾をズバズバと斬り裂く。


「ッッッ────────!!!」


 悲鳴こそ上げなかったけれど、ホワイトのその白い顔に青が差した。

 切り刻まれた尾は空中でバラバラと崩れ、蛇の部分を半分ほど失ったホワイトは、慌てて身を引いた。


 激しい圧迫感から解放された私は、押し固められた激痛の残滓に耐えながら大きく咳き込んだ。

 急激に訪れた開放感と、たっぷりと吸い込めた酸素に緊張がやや解れる。


 けれど、そんな隙を突くようにドルミーレの力が強まった。

 まるで私になんて任せていられないと言わんばかりに、黒い力が残りの半分に押し寄せてくる。


「く、ぅぅうううう…………!!!」


 それを、なんとか踏ん張って堪える。

 けれど濁流のように押し寄せてくる力が、私の意識を妨げる。

 それに堪えることに私が精一杯になっている間に、左腕が勝手に動き、それに吊られるように私は正面に向かって飛翔した。


 私から距離を取り、額に脂汗を浮かべながら切断された傷口を再生させているホワイトへ、一直線に。

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