82 救国の姫君1
わたしたちは『じゅんちょう』に『りょういき』を増やして、国を女王様から解放していった。
魔女のレジスタンス活動に出くわすこともあったけど、そういう時もなるべく『おんびん』になるようにしながら、戦いを止めて『りょういき』を張った。
最初の頃はけっこうテンポ良く解放が進んでいったけど、でも途中からなかなかそうもいかない時もあった。
さすがに女王様の方も『けいかい』したのか、半分くらい解放した頃から、普通の兵隊さんたちとは別に強い魔法使いが出てくるようになったのです。
わたしの力は大体のことはできるし強力だし、それに『真理の剣』もあるから、魔法の攻撃は基本的には効かない。
でもわたしもけっきょくはただの子供だから、強くて魔法が上手な魔法使い相手にはなかなか敵わないこともあった。
なんとか力任せに追い払うことができた時もあれば、ちょっとむずかしくてこっちが『たいさん』することもあったり。
だから後半はけっこう大変で、あっという間に全部解放ってわけにはいかなかった。
わたしの『えいきょう』でレジスタンス活動が『かっぱつ』になったっていうのも、一つの原因かもってアリアは言った。
それぞれの地域に『はいぞく』されている兵隊さんの他に、よく魔女狩りも見かけるようになったからだ。
女王様はわたしたちや暴れる魔女たちを『けいかい』して、戦える人たちをたくさん放つようになっていた。
「このままガムシャラに解放して回ってても、もう仕方ないかもしれないね」
お城のとあるお部屋にあるソファーに三人で並んで座っている時、アリアがポツリと言った。
『まほうつかいの国』の三分の二くらいを何とか解放したわたしたちだけど、最近は上手くいかないことも多くなってきたからだ。
「今この国は、わたしたちが解放した部分の方が多い。けど当然、女王様の力がなくなったわけじゃないし、守る部分が少なくなった分、戦力が集中してきて戦うのがむずかしくなってきた。いくらアリスの力があっても、わたしたちじゃ王族特務とか魔女狩りの集団と戦うのは無理がある気がするよ」
「まぁ、確かにな。兵隊だけならまだしも、超一流の魔法使いの王族特務と、戦闘のプロの魔女狩り相手は、さすがに分が悪い。けどよ、じゃあどうする?」
レオはアリアの言葉にうなずきながらもうーんとうなる。
わたしたちの解放の旅が苦しくなってきたのは本当だし、アリアの言う通りただ今まで通りやっててもしょーがないかもしれない。
ただ、じゃあどうするかと言われるとむずかしかった。
わたしたち三人はなかなかいい案が浮かばなくて、肩を並べてうんうんうなるしかなかった。
わたしやレオよりもいろんなことをひらめくアリアも、今回はなかなか思いつかないみたいだった。
ソファーの上でおひざを抱えて、ぶすっと『ぶっちょうずら』をしている。
「おやおや少年少女、お困りのようだねぇ〜」
そんな時、夜子さんが天井をにゅる〜っと通り抜けて現れた。
逆さまに頭から突き抜けてきた夜子さんは、おへそくらいまでを天井から出して、ニヤニヤとわたしたちを見下ろしてくる。
普通だったら、急でヘンテコなその登場にびっくりするところだけど、夜子さんはいつもそんなんだから、さすがにわたしたちもなれてきた。
急に出てきて当たり前、変な登場も当たり前。そんな風になっちゃって、わたしたちはだれひとり驚かなかった。
「あ、夜子さんこんにちは。何か助けてくれるの?」
「助ける? 私は別に助けないよ。私は君たちを助けたことはないし、助けるつもりはないからね」
わたしたちの反応がつまらないとも言わなくなった夜子さんは、そのままつーっと全身を天井から出して、逆さまのままゆっくり降りてきながらそう言った。
逆さまの形のままあぐらをかいている夜子さんは、そのまま頭で床に着地して、上下反対のままわたしたちに笑った。
「じゃあ何の用ッスか? オレら今、色々考えてるんッスよ」
「おーう辛辣。冷たくあしらわれてお姉さんは悲しいねぇ〜」
すこしウザったそうに返したレオに、夜子さんは大して気にしてなさそうに言った。
それからニンマリとわたしたちを見回すと、何の動きもなしでくるっと回転して、普通の体勢で床に座った。
「君たちの活躍は目覚ましい。アリスちゃんの領域を国中に制定し、女王の手の者を遮断することでその支配力を低下させる。その作戦はうまくいってるよ。その影響は未解放の地域にも伝播して、国民全体の女王への従属意識は下り坂だ。今や、『白い剣を携えた少女』は国の英雄となって、女王よりも支持を集めてる」
「そんな、英雄だなんて……」
ニマニマ笑いながら、まじめなんだかからかってるんだからわからない言い方をしてくる夜子さん。
わたしはそんな、英雄だなんて大それたものじゃないけど。
でも、みんなから必要とされているのはうれしかった。
「いや、君は国民にとっての英雄さ。女王の悪政に反旗を翻し、弱き者を守る姿はまさしく英雄そのものだ。もちろん、君たちもね」
夜子さんはレオとアリアのことを見てパチンとウィンクした。
わたしの旅と戦いは、二人がいなきゃぜったいできなかったことだ。
わたしが英雄だって言われるんなら、二人だって同じように思われるべきだ。
けれど、突然話をふられた二人はあたふたとあわてて首を横にふった。
「わたしたちは何にも。ただ、アリスのサポートをしてるだけで……。ほとんどはアリスの『始まりの力』のおかげですし」
「まぁ確かにそうだけれど。そのサポートがなければここまで事は運ばなかっただろう。君たちの活躍は、行為は、頑張りは、ちゃんと意味があり結果を残している。そのことには自信を持ちなさい」
夜子さんはめずらしくシャンとした顔をして、まじめなトーンでそう言った。
そのなれない声にびっくりしながらも、レオとアリスは素直にうなずいた。
夜子さんもそんなまじめな顔ができるんだなぁと思ってると、またすぐにフニャッとふざけたニヤニヤ顔に戻ってわたしたちを眺めてきた。
「さて、そこでだ。君たちの行き詰まりはごもっとも。君たちの反旗に憤っている女王は、戦力を未解放の地域に放ち続けている。魔女のレジスタンスも活発になってきたしね。だから今、王都の戦力をフル活用して、解放して回る君たちや、トラブルを警戒してるのさ」
「じゃあ、やっぱり今まで通りってわけにはいかないってことだよね……」
「まぁそうだけれど。でもこの情報から導き出すべき答えはそこじゃないよ。わかるかな?」
ニマニマ笑いながら言う夜子さんの言葉に、わたしはいまいちピンとこなかった。
たくさんの戦力が放たれてるって事は、それだけ解放して回るのが大変ってことじゃないのかな。
わからないと首を傾げるわたしを見て夜子さんはおかしそうにニヤけて、それからアリアの方を見た。
見つめられたアリアはすこしビクリとして、でもすぐにハッとした顔をした。
「王都の戦力が外に出てるって事は、王都そのものの守りが薄くなってるってこと!? 未解放の地域の守りを気にして、王都の守りが手薄になってるんだとしたら……」
「そう、正解だ。女王は自らの地位と権力に固執するあまり、自身の支配力の低下を恐れている。だから自身の守りよりも支配地の減少を阻止しようと考えた。となれば、突くべきとこはそこしかない」
「まさか、王都に直接乗り込むってことッスか!?」
ガバッと身を乗り出したレオに夜子さんはイジワルくニヤッと笑った。
「王都になんてそんな控えめなこと言わないで、もっと直接、城に乗り込んじゃえばいいじゃないか。おや? なんと都合の良いことに、こんなところに城への近道が」
あまりにもわざとらしく言った夜子さんの隣で、空間にポッカリと穴が空く。
そしてその先には、こことはまたちがうお城の中みたいな豪華な広間が見えた。




