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80 レジスタンスとよくない噂4

 クリア。クリアちゃん。

『魔女の森』にいた時に会った、透明人間の女の子。

 ずっとひとりぼっちで森にいた、わたしの魔女のお友達。


 わたしが『魔女の森』にいる間は何回か会って遊んでた。

 でもわたしが森をとびだしてからはもちろん会えてなくて。

 ここでその名前を聞くなんて、思ってもみなかった。


「アリスちゃん、知ってるの? そのクリアって魔女のこと」

「う、うん。『魔女の森』にいた時にできたお友達だよ」

「『魔女の森』にいた子? うーん。僕には心当たりがないなぁ」


 腕を組んでうなるレイくん。

 レイくんはわたしよりもよっぽどあの森のこととか他の魔女のことにくわしいから、自分が知らない子があそこいたってことが不思議なのかな。

 でも、クリアちゃんの場合はしょーがないと思う。だってだれにも見えないんだもん。


「クリアちゃんは透明人間だったんだよ。だからだれにも見えなくて、見つけてもらえなかったって言ってたんだ」

「透明人間、かぁ……なるほどね。確かにそのクリアの目撃情報には、それっぽい話があったよ。 ローブで隠した内側には、まるで何もないように見えたってね」

「じゃあ、本当にわたしが知ってるクリアちゃん、かも……」


 わたしが会った時のクリアちゃんは魔法で作った服しか着るものがなくて、それは一緒に透明になっちゃうって言ってたけど。

 服は何とか手に入れて、そこにいることはわかってもらえるようになったのかもしれない。

 それはよかったなって思うけど。けど……。


「レイくん。それで、そのクリアちゃんがあばれ回ってるってどういうこと?」


 『ふあん』になって質問すると、レイくんはすこしこまった顔をした。

 言いにくそうに、眉毛をシュンと下げる。


「えっとねぇ……僕も聞いた話だから定かじゃないんだけれど。そのクリアって魔女は、どうも無差別に事件を起こしているらしんだ。他の魔女がレジスタンス活動をしているところに現れては、魔法使いに関係のない町の人に手を出すこともあるとか。だから魔女の中でも危険視されてるのさ」

「そ、そんな……! そんなのウソだよ! クリアちゃんはそんなことする子じゃないよ……!」

「うん。僕もアリスちゃんのお友達だって聞いて、信じられなかった。君が友達になるような子が、そんなことをするとは思えない。だから、もしかしたら君の友達とは別人かもしれない」

「クリアちゃん……」


 レイくんは気まずそうにわたしから目をそらしながら、うつむくわたしの頭をなでてくれた。

 別人かも知れないって言ってくれたけど、でもそうじゃないかもしれない方が大きいって思ってる、そんな感じがした。


 わたしの知ってるクリアちゃんは、大人しくて優しい子だった。

 恥ずかしがり屋で、でもだれにも見つけてもらえないのがさみしくて。

 とても、そんなひどいことをするような子には見えなかったのに。


「……噂は飽くまで噂だよ。その魔女が君のお友達とは限らない。アリスちゃんはアリスちゃんらしく、友達を信じていればそれでいいさ」

「う、うん……」

「ただその子の真偽はともかくとして、そういった無差別的な騒動を起こしている魔女がいるのは確かだ。アリスちゃんに危害が及ぶ可能性も……否定はできないから、気をつけて」

「……わ、わかったよ」


 半分上の空で返事をしたわたしを、レイくんは優しい目で見てくる。

 クリアちゃんにもう一度会いたいって思った。

 森をとびだしちゃってから長いこと会えてないし、あいさつもしないで行っちゃったことも謝らないといけないし。

 それに、本当にそれがクリアちゃんじゃないのか、確かめたくてしょーがなくなった。


 でも、そのクリアちゃんを見つけるのはきっと大変だ。

 今も『魔女の森』にいたとしても、わたしがあげた目印のヘアゴムをつけていてくれてても、やっぱりクリアちゃんは透明人間だから。

 ならまずはやっぱり、この国を平和にした後にゆっくり探した方がいいかもしれない。

 それまでに、何もなければいいんだけど……。


「ねぇレイくん。その魔女は、どうしてそんなことをしてるのかな? 魔女が魔法使いと戦おうとするのはまだわかるけど、どうして関係のない人も傷つけるんだろう」

「そこがわからないところなんだよね。魔法の力を手に入れたことでその力を振りかざしたくなる子もいるけれど、そういう類とはまた違うみたいだ。聞くに、何かを探し回っているみたいだとか。だからもしかしたら、その子がアリスちゃんと接触した時、君にアクションをかけてくる可能性があるかもしれない」

「わたし? それは……わたしの友達かもしれないから?」

「ううん。この場合それは関係ないよ」


 わたしが聞くと、レイくんはあわてて首を横にふった。


「アリスちゃんが『始まりの力』を使えるようになって、この国を解放して回るようになってから、多くの魔女はその力に『始まりの魔女』を感じてる。全ての魔女の始祖、『魔女ウィルス』の起源の気配をね。その力を持つ君がこの国に対して戦いを挑んでいるからこそ、魔女はそこから勇気を与えられ、希望を見出し奮起しているんだ。そのクリアって魔女も、きっと動機はそこだと思うんだ」

「どういうこと?」


 いまいち意味がわからなくて、わたしは首をかしげた。

 レイくんはそんなわたしの胸元にそっと手をおいて、真剣な目でわたしを見た。


「『始まりの魔女』は僕ら魔女の起源であり、原点であり、母のようなもの。そのことを理解していなくても、感覚的に自分に(ゆかり)のある大きな力の存在を感じる。だから本能的にアリスちゃんに近付こうとする子がでるかもしれない。今君はお友達の魔法使いと一緒にいるから、普通なら僕のようにそう簡単には近付けないけど。でも彼女なら、それを無視した暴挙にでてもおかしくないかもしれない」

「でもわたし、何にもしてあげられないよ? 魔女の人が来ても、別に何にも……」

「何かが得られるかどうかは別の話だよ。魔女にとって、『始まりの魔女』の側に侍ること、それそのものが重要なのさ。魔女にとって『始まりの魔女』は、なんていうか神様みたいな感じだからね。まぁこれは、魔女の感覚だからアリスちゃんには難しいかな」


 レイくんはそう言うと、真剣な顔からニッコリした表情にもどった。

 キョトンとしてるわたしに笑いかけて、トントンと肩をたたく。


「それに、何もできないなんてことはないんだ。僕はね、アリスちゃんとの繋がりから力を貰ってるのを感じてるんだ。きっと君は、友達として繋がった魔女に、自分の力を与えて能力を底上げさせることができるんだよ」

「わたしが、レイくんに力を貸してるの?」

「そうなるね。アリスちゃんとの心の繋がりに乗って、大きな力が流れてきているのを感じてる。それと同時に、僕の魔女としての力がアリスちゃんに流れて補助をしてるみたいだ。きっと魔法を使い慣れていない君のアシストになってるんじゃないかな」

「そ、そうなんだ……」


 レイくんの説明はなんだかむずかしかったけど、すこしだけ思い当たることがあった。

 妖精さんの村でチャッカさんと戦った時、心のつながりをたどってあられちゃんが力を貸してくれた。

 わたしたちを守ってくれた氷の盾やとか、わたしの胸にさいた氷の華からは、あられちゃんを感じたんだ。


 あられちゃんは魔女じゃないから、レイくんが言ってることとまったく同じってわけじゃないかもしれないけど。

 でもそういうことかもしれない。わたしは友達から力を借りることができるんだ。

 その相手が魔女だと、わたしからも力を貸せたり、もっといろんなことを助けてもらえたりする。そういうことなのかな。


「アリスちゃんという僕ら魔女のプリンセスに、補助という形で奉仕して、その見返りに庇護となる力の恩恵を受けている。きっとそんな構図だ。だからそのシステム求めて近寄ってくる輩がいないとも限らない。誰とでも仲良くなれるのはアリスちゃんの良いところだけど、でも相手はよく見てからにした方がいいと、僕は思うな」

「う、うん。わかったよ……」


 プリンセス、なんて言われてちょっぴり恥ずかしくなる。

 確かにわたしにはドルミーレの力があって、それはものすごいことなんだろうけど。

 でもわたし自身は普通の女の子だから、そういう風に『もてはやされる』のはむずがゆかった。


 でも、わたしが魔女の人たちにすこしでも何か力を貸せてるんだとしたら、それはうれしいな。

 魔女は魔法使いから逃げなきゃいけないし、それですこしでも生き残りやすくなるんならとってもいいことだから。


 でもその噂の魔女がクリアちゃんじゃなかったら、もしかしたら力をほしがってわたしにおそいかかってくるのかな。

 けど、とっても乱暴なことをしてるってその人が、クリアちゃんだったらいやだし……。

 あぁ、なんだかすっごくもやもやするよ。

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