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73 お花畑と城と剣7

 あられちゃんの声が聞こえた。

 わたしを呼ぶ声が聞こえた。


 真っ暗だった目の前に、うっすらと青白い光がさしこんできて、やんわりとわたしを包み込んでくれる。

 あったかくて、心が落ち着く優しい光が、まるでわたしの手をにぎるみたいに、抱きしめるみたいに。


 その光を感じて、わたしはこわさを感じなくなった。

 ドルミーレの黒い気持ちに包まれて、さみしくてかなしくなってつらかった。

 ひとりぼっちだって思って、こわくて泣きそうだった。


 でも、あられちゃんの声が、この優しい光が教えてくれた。

 わたしはいつだって一人じゃない。

 いつだってつながってくれている友達の心が、わたしを一人になんてしないんだって。


『────アリスちゃん……大丈夫。どこにいってもわたしたちは友達、だから。どんなに離れていても、わたしたちはいつだって、一緒、だから。心を、感じて……わたしたちは、つながってる────』

「あられちゃん……ありがとう。あられちゃんのこと、ずっとずっと感じてるよ」


 心をつたってひびいてくる、あられちゃんの優しい声。

 ちょっぴりおっかなびっくりで、それでも一生懸命気持ちを伝えようとしてくれている声。

 わたしがよく知ってる、大好きなあられちゃんの声。


 その声が心に優しくひびいて、わたしの『きょうふしん』を吹き飛ばした。

 こわくなんてない。さみしくなんてない。

 一人じゃないんだから。わたしは一人じゃないんだから。


 ドルミーレは、人に価値なんかないって、そう言ったけど。わたしはそうは思わない。

 わたしは友達がいるからこそ毎日が楽しいし、友達といるからこそここまで冒険してこれたんだ。

 わたしにとって友達は、何よりも大切な、価値のあるものなんだ。


 ずっと一人ぼっちで、みんなから嫌われて、最後には退治されちゃったドルミーレにはそれがわからないのかもしれない。

 だからこんな暗い気持ちでいっぱいで、わたしにもそれを押し付けようとする。

 でも、わたしはドルミーレとはちがうから。


「わたしは……わたしは、『こどく』なんかじゃない。わたしはいつだって友達とつながってる。この力が、あなたの力がどんなものだって、わたしはそれを使って大切な友達を助けたい!」

『他人との、繋がり……そんなもので、本当に抗えるというの? あなたが大切にしているその繋がりも、いずれはこの力が断ち切ってしまうかもしれないわよ?』

「そんなこと、ないよ。だって今、友達の声がわたしを助けてくれた。あなたの気持ちに押しつぶされそうなわたしを、助けてくれたもん。どんなことがあったって、つながりは消えない。だってそれが、友達だもん」

『……綺麗事ね』


 ドルミーレのつぶやくような声がしっとりとひびく。

 その声には、かなしみとさみしさと、それに怒りを感じた。

 きっとわたしの気持ちとは正反対の考えを持っているから、わたしの言ってることがわからないんだ。

 でも、それはわたしも同じだから。


 わたしにはドルミーレの力があるみたいだけど、わたしたちはぜんぜんちがう。


『まぁいいわ。あなたなんかにこれ以上意地悪をしても仕方ないもの。あなたが私を内包してる以上、私の力はあなたの力。使えるだけ、使いたいように使えばいいわ。あなたがそれを何の為に、どう使おうと私は興味がないもの。ただ……』


 ドルミーレはため息をつきながら、どってもだるそうに言った。

 さっきまでの黒くて冷たい『ふんいき』は落ち着いたけど、とってもどうでもよさそうになった。


『私に迷惑をかけないで頂戴。私の眠りを妨げないで。私は()()()()()()眠っていたいのだから。こうしてあなたなんかと関わっているのも、本当は億劫で仕方ないのよ。まぁ、あなたがこの忌々しい国を滅ぼすというのなら、少しくらいはフライングしてあげてもいいけれど』

「そ、そんなことはしないよ……! わたしはただ、わがままな女王様にひどいことをやめてほしいだけで……!」


 ドルミーレが『ふきつ』なことをサラッと言うから、わたしはあわてて首をふった。

 するとフフフと小馬鹿にしたような笑い声が静かにとんできた。


『あの男の末裔なんて、さっさと殺してしまえばいいのに────まぁ、あなたにそこまで求めていないわ。その剣で、精々思うように暴れなさい』


 その声はどうでもよさそうで、でもどこかにくしみが混じっている気がした。

 なげやりでぶっきらぼうな、どうにでもなっちゃえ、みたいな感じ。


『この国の人間が、何も知らずに救国の剣なんかと呼ぶその剣で。それは本来、英雄の剣でも、何かを救うためのものでもないけれど。ただ、()()に対抗するためには()()が必要だっただけ。それはそのためだけの概念武装。それ以外の意味なんて、なかったのに……。まぁ、それもどうでもいいわ』


 そんな風にため息まじりに言うドルミーレの声が、すこしずつとおくなっていっている気がした。

 わたしが剣をにぎったことで熱くふくれ上がったドルミーレの力の『そんざいかん』が、ゆっくりと落ち着いていく。


『これ以上あなたに構っていてもいいことはないわね。もう寝るわ。こんな居心地の悪い世界で起きていたくはないし。後はあなたの好きなようになさい。けれど、死なないで頂戴。好きにすればいいけれど、死なれては困るわ。それだけは、肝に命じておくことね』

「あ……! ま、まって……!」


 一方的にそう言って、ドルミーレの声がスーッととおくなった。

 胸の奥底の『そんざいかん』はそのまま、気配だけがうすくなっていく。

 そんなドルミーレを、私は思わず呼び止めた。


 ドルミーレは何にも答えなかったけど、気配がうすくなっていくのが止まった気がした。


「教えてほしいことがあるの。どうして、わたしにはあなたの力があるの? どうして、わたしにはあなたの声が聞こえるの?」

『……そんなの、簡単なことよ』


 わたしの質問に、ドルミーレは眠そうなゆるい声で答えた。


『私はあなたの中にいるから。あなたの心の中で眠っているから。あなたは、私だから────』


 スッと、ドルミーレの声が消えて、気配が消えた。

 胸の奥、心の奥に、その大きな『そんざいかん』と力をだけ残して。

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