67 お花畑と城と剣1
ソルベちゃんのおうちに一晩泊めてもらってから、わたしたちは妖精さんたちの村を出た。
カマクラの中はそんなに広くなかったし、ベッドはソルベちゃん一人でいっぱいっぱいなのにどうするんだろうと思ってたら、カマクラの中をふかふかの雪でいっぱいにして雑魚寝をすることになった。
それは別にいいんだけど、でもわたしたちにはさすがに寒すぎるからって、アリアが魔法でコーティングしてくれた。
そしたら雪は冷たくなくなって、ワタのようなふかふかのお布団みたいになって、わたしたちは四人でそこにねっころがった。
村を出る時ソルベちゃんに、ここを出るならチャンネルを戻しておかないと、と言われた。
はじめて会った時妖精さんのことが感じられるようにしてもらったから、それの感覚を元に戻しておいた方が良いみたいだった。
元に戻しちゃうと、またここに来た時みんなのことを見つけられないんじゃないかって、わたしはそれが心配だった。
でも、心がつながってるからここに来ればその存在はちゃんと感じられるよってソルベちゃんは言ってくれた。
たくさんの氷の妖精さんたちに見送られて、わたしたちはソルベちゃんに感覚を『しゅうせい』してもらった。
氷みたいにひんやりした手にみんなでさわって、ジーンという寒さと冷たさを感じて。
そして、「またね」って笑うソルベちゃんの顔を見たと思ったら、氷の妖精さんたちの姿はパッタリ見えなくなっちゃった。
青くキレイに光っていた輝きはなくなって、こおった湖の上にあったたくさんのカマクラの村もない。
来た時と同じ、雪と氷だけの静かな場所になっちゃった。
まるで、はじめから妖精さんたちなんていなかったみたいに。
でもソルベちゃんが言ったとおり、見えなくても、わたしにはここにみんながいるって、ソルベちゃんがいるってわかったから。
だから、すこしだけさみしかったけど、でもまた会えるんだって信じられて、わたしたちはこの雪と氷の土地を後にしたのでした。
氷の木の林を抜けて、また三人で西に向けての旅を続けた。
ソルベちゃんに色んな話を聞いて、レオとアリアはたまにむずかしいそうな顔をする時もあったけど。
でも今までと同じように、わたしたちは楽しく冒険をした。
妖精さんたちのところを出てから、今までに比べて一気に人が住んでる町がすくなった。
たまにある町も小さな、人が少ないところだったり。
だから今までの旅よりも、なかなか次の町にたどり着けなくて、野宿をすることがおおかった。
ソルベちゃんから聞いた話だと、西のお花畑はもうそうとおくないらしくて。
この国ではあそこは行っちゃいけない場所だから、その近くにはそもそもあんまり人が住んでないって、そういうことかもしれない。
西のお花畑まであとすこしってことで、アリアは一つ心配事があるって言ってた。
それは、女王様にどこかで待ち伏せされてるんじゃないかってこと。
動物さんたちの町で、女王様の兵隊さんたちにわたしがお花畑に行こうとしてること、知られちゃったから。
あれからわたしたちのことを捕まえようとしてる女王様が、近くに兵隊さんを置いてわたしたちを待ちかまえてるかもしれないって。
言われてみると、確かにそうかもしれないってわたしもすこし心配になった。
行き先がバレちゃってて、こんなにもさんざん探し回られてるんだから、待ち伏せされてるってことはあるかもしれない。
でも結果から言うと、どこにも兵隊さんたちは待ち伏せをしてなかった。
今までみたいに町に元々いる兵隊さんたちに見つかって、追いかけられるなんてことはポロポロあったけど。
でも、わざわざわたしたちのことを待ちかまえている人たちはいなかった。
理由はよくはわからないんだけど、もしかしたら、わたしたちを捕まえるためだったとしても、やっぱり西のお花畑には行っちゃいけないからかもしれない。
それほどまでにこの国ではあそこは『きんいき』なんだってことかもしれないって、レオがそう言ってた。
それか、行っちゃいけないからってよりも、行きたいかくない理由があったり、行けない理由があるから、とか。
でも『たんじゅん』に行きたくないみたいな理由だったから、あの女王様ならおかまいなしに無理矢理にでも行かせそうだし。
だからどちらかというと、行けない理由が何かあるのかななんて、わたしはそう思った。
まぁ、邪魔してくる人たちがいないのはいいことだから、わたしたちの旅はそういう意味では『かいてき』だった。
町で見つかっちゃうくらいなら、もう逃げるのになれちゃったけど。
でももし大勢で待ち伏せなんてされてたら、さすがにこまっちゃってたと思うし。
そうして、わたしたちは『まほうつかいの国』の西の西、外れの方までやって来たのです。
町も人もぜんぜん見なくなって、ただ森や原っぱを抜けて、ただひたすら西に向けて歩いて。
ようやく、やっとわたしたちは、お花畑らしきところにたどり着いた。
でもそこは、お花畑というにはなんというか『はなやか』さがたりなかった。
『かんじん』のお花はよく見えなくて、お日様が差してないからかどんより暗い。
どうしてかって、そのお花畑には真っ白な霧が『じゅうまん』していたからです。
すぐ目の前もぜんぜん見えないくらい、まっしろな霧がすっぽりとお花畑をおおっていて、その中がぜんぜん見えなかった。
でも不思議と、わたしはそこが目的のお花畑だって、そう思えた。
わたしたちは、やっと西のお花畑に来られたのです。




