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66 妖精の喧嘩と始まりの力17

 チャッカさんはわたしに何回もお礼を言ってから、燃える山にひゅーっと飛んで帰って行った。

 最初の時のこわい感じはもうぜんぜんなくて、強気だけどとっても気のいい感じのヒトだった。

 今度は炎の妖精のところにも遊びに来いよって、クシャッと笑いながらそう言ってくれた。


 チャッカさんが帰って、山の炎も落ち着いて、氷の妖精の村はすっかり落ち着いた。

 炎でとかされちゃったところもあるみたいだけど、でもそれはまた直せばいいからってソルベちゃんは言った。


 レオのケガは、はじめからケガなんてしてなかったんじゃないかってくらいにキレイに治って、すっかり元気になってた。

 わたしが力を使ったことがすこし『ふまん』そうだったけど、でもレオは何にも言わなかったから、わたし的にはこっそりホッとしたりして。


「アリスはすごいよ。やっぱり君には、ドルミーレの力が宿ってた。間違いないよ!」


 チャッカさんを見送ってから、ソルベちゃんは『こうふん』気味に言った。

 パァッと明るい顔でニコニコ笑って、飛びつきたいのをガマンしてるみたいにわたしにグイグイ近づいてくる。


「妖精の精術を遥かに圧倒する魔法の力。それに、ここら一帯を自分の領域にして、しかも力の流れまでコントロールしちゃって。アリスには、ドルミーレの『始まりの力』が確かに受け継がれてるんだ……!」

「そう、なのかな……? わたし、いまだによくわかってないんだけど……」

「きっとそのうちわかるようになるよ。アリスが力を使ってから、僕はより強くその力の存在を感じたし。だからアリスが『始まりの力』持ってるのは間違いない。アリスはこの国で、いやもしかしたらこの世界で、一番強くてすごい力を持ってるんだよ!」


 ソルベちゃんはとってもうれしそうで、空中でおどるようにクルクルと回った。

 あんまり『じょうきょう』がわかってないわたしと、それに魔法使いのレオとアリアは、すこし『ふくざつ』な顔になっちゃう。

 わたしがその『始まりの力』を持ってることって、本当にいいことなのかなぁ。


「僕は嬉しいんだ。『始まりの力』を受け継いでるヒトがいて。自然の具現である僕ら妖精にとって、世界そのものに働きかける魔法、ドルミーレの原初の魔法は憧れみたいなものだったんだ。その力の使い方を手伝ったから、思い入れもあったし。けど彼女が死んでしまって、その力は失われてしまっていたと思ってたんだ。でも、それを受け継いでる子がいた。しかもそれがアリス、君みたいな子で本当に嬉しいんだ!」


 ソルベちゃんはわたしたちの頭の上を飛び回りながら、落ち着かない様子で楽しそうに言う。

 前に、妖精さんの精術と、魔法には似た部分があるって言ってた。

 だから妖精さんたちにとってドルミーレの力は特別なものだったってことなのかな。

 よろこんでもらえるのはうれしいけど、でもなんとなく反応にこまる気もする。


「それにアリスは、誰かとの強い繋がりを持って力を借りてたよね? それはドルミーレにはなかった力だと思う。アリスのオリジナルかな?」

「え? そうなの? わたし、とにかく無我夢中で、よくわからないんだけど……」

「ドルミーレはいつも一人だったから、誰かを頼るような、繋がりを求めるようなことはしてなかった。もしかしたら、ドルミーレの力を元に、友達想いのアリスならではの力が生まれたのかもしれないね」


 ソルベちゃんはわたしの目の前まで降りてきてニシシと笑った。

 友達想いって、そうやって言われるとちょっぴり照れくさい。


 でも、そうするとやっぱりあれは、あられちゃんとつながって、あられちゃんが貸してくれた力なんだ。

 わたしの大好きって気持ちが友達に届いて、力を貸してもらえたのかもしれない。

 もしそうだとしたら、わたしはいつだって大好きな友達とつながれて、一緒にいられるってことだ。

 それはすなおに、とってもうれしいと思った。


 ならきっとあられちゃんだけじゃなくて、わたしが大好きだと思ってる友達みんなと、わたしはこの心をつなげられるんじゃないかな。

 いつも一緒にいてくれる、レオとアリアももちろん。

 たくさんの友達とつながれたら、きっととってもステキだ。


「僕も、その繋がりに入れるかな?」

「もちろんだよ! ソルベちゃんはもうわたしの友達だよ。これからもずっと、わたしはソルベちゃんのこと想ってるよ」

「ありがとう。僕もこれから、この心にアリスを感じるよ。遠く離れたとしても、僕たちはずっと友達だ」


 ソルベちゃんはニッコリ笑ってそう言って、わたしの胸元の氷の華をツンとさわった。

 あられちゃんの声が聞こえた時に、わたしの胸に咲いた華。

 ソルベちゃんがそれにさわった瞬間、透き通ったやわらかな力がポワンとひびいた気がした。


 わたしとソルベちゃんの友達としてのつながりに、妖精さんの力が流れたのかもしれない。

 目には見えないけど確かにわたしたちは繋がってるんだって、そう思えた。


「アリス、本当にありがとう。アリスだけじゃないよ、レオもアリアも。君たちに会えて本当によかった。君たちのお陰で僕らはまだこの土地にいられそうだし、よかったらまた遊びにきて欲しいな」


 ソルベちゃんは地面に足をつけて、すこし『あらたまった』感じでそう言った。

 見た目はわたしたちくらいの子供のようだけど、真面目なふうにキリッとした顔はすこし大人っぽくなった。

 でも、真面目な顔はすぐにくずれてニパッと笑顔になる。

 だからわたしたちも笑顔でうん、とうなずいた。


 むずかしい話が多かったけど、ソルベちゃんたち妖精さんたちと会えて、色んなことが少しずつわかってきた。

 それに、わたしたち人間とはぜんぜんちがう『かちかん』と考え方を持ってる妖精さんは、とっても勉強にもなった。

 なにより、ソルベちゃんとお友達になれてよかったから。


 話しているうちにわたしの力はいつの間にか落ち着いていて、胸の熱さは引っ込んでいた。

 今思い出すと、前にも聞いたあの冷たい声は、もしかしたらドルミーレの声だったのかもしれないなんて、そんなことを思った。


 ぶっきらぼうでとっても冷たい声。

 その乱暴な言葉にそそのかされて、わたしの心にはぐるぐると黒い気持ちがうずまいた。

 その時のことを思うと、なんだかドルミーレのことがすこしこわくなってきた。


 あの時のわたしの気持ちは、とってもよくなくて、悪い気持ちだった。

 あの声を聞いて、その言葉から気持ちが流れ込んできて、わたしは飲み込まれちゃいそうになったんだ。


 今までわたしはドルミーレのことをそんなに悪い風には思えなかったけど。

 あの声は、あの言葉は、あの気持ちは、とってもこわかった。

 あれが本当にドルミーレなんだったとしたら、わたしはドルミーレのことが、こわい……。


 あられちゃんの声がわたしの目を覚ましてくれて、本当によかった。

 胸の熱さと一緒に、あられちゃんが貸してくれたと思う力のあったかさもなくなってた。

 でも、わたしの心はあられちゃんの存在を今も感じてる。


 近くにはいなくて、世界もちがって、わたしたちははなればなれだけど。

 でもわたしは心でつながってるんだって、今はそれがよくわかる。


 あられちゃんとのこのつながりが、わたしをきっと『みちびいて』くれる。

 まだ帰り道も帰り方もわからないけれど。

 でも、わたしには帰る場所があって、待ってくれている人がいるんだって、このつながりが教えてくれるから。

 だからきっと、わたしはきっと自分を見失わないでいられると思う。


 元の世界で待ってくれている、わたしの大好きな人たち。

 それに、この世界で出会ったたくさんのお友達。

 みんなとのつながりがあれば、わたしは何もこわくない。


 だからわたしは、大変なことがたくさんあるけど、それでも帰るのをぜったいあきらめない。

 あられちゃんがわたしを信じて待ってくれてるって、この心のつながりが教えてくれるから、ぜったい。


 だから、もう少しだけ待っててね、あられちゃん。

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