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44 喋る動物と昔話11

 言うだけ言った夜子さんは、すぐにすーっと空気にとけるように消えてなくなってしまった。

 残されたわたしたち四人は、とりあえず急いでふすまを開いて部屋の外へと飛び出した。


 縁側みたいな、お庭とつながっている板張りの廊下に出てみると、お屋敷を囲んでいる塀の向こうがガヤガヤさわがしいのがわかった。

 すっかり暗くなった夜のジャングルなのに、塀の向こうではテラテラと赤い光が輝いてる。


 あれは町中にあったキレイなチョウチンの光とはちがう。

 テラテラゆらゆらとゆれる、火が燃えてるような光だった。


「なんだかうるさいなぁ」


 ココノツさんはうざったそうに、でも落ち着いたようすでボソッとそう言った。

 お屋敷の外から聞こえてくるワーワーガヤガヤとしたヒトの声に、肩を落としてため息をついてる。


 何が起きたんだろう。どうしたんだろう。大丈夫なのかな。

 心配になって、レオとアリアに体をくっつけながらココノツさんを見上げる。

 ココノツさんは塀の向こうの明かりを薄い目でながめてから、わたしたちを見下ろしてニッコリとやわらかく微笑んだ。


「なんだか穏やかではなさそうねぇ。でも安心しなさい。わちきがついてる。ちょっと様子を見てくるから、(ぬし)らはここでお待ちなさいな」


 そう言うと、ココノツさんはふわっふわな金色のしっぽをふりながら、さささっと入り口の方まで歩いて行ってしまった。

 お部屋の前で取り残されたわたしたちは、不安になって顔を見合わせる。

 そんな中で、レオがポツリと言い出した。


「オレたちも、ちょっと様子を見に行ってみようぜ」

「でも、レオ。待ってなさいって言われたでしょ?」

「けどよ。本当に女王陛下の兵が来たってんなら、狙いはアリスの可能性が高い。相手の出方を見て、逃げるなら早く逃げねーと」

「そ、それは……」


 あわてて止めたアリアだけど、冷静なレオの言葉に口を閉じた。

 ココノツさんが大丈夫だって言ってくれたんだから、大丈夫なのかもしれないけど。

 でも本当にわたしたちをおっかけて兵隊さんたちが来たんだったら、知らんぷりはできない。


「わたしも、レオに賛成かな。ちょっぴり様子を見に行ってみよう」

「アリスまで! 危ないかもしれないんだよ!?」

「ちょっとだけだよ。本当に危なそうだったらレオの言う通り早く逃げなきゃだし。ちょっとだけ見に行ってみようよ」

「うーん、アリスがそう言うなら……」


 心配そうに顔をくしゃっとするアリア。

 わたしはそんなアリアの手をしっかり握って、大丈夫だと笑顔を向けた。

 それからレオがわたしの反対の手を握って、キリッとした顔でわたしたちを引いた。


 レオを先頭に、こっそりと入り口の方へと向かう。


 玄関口のところまで来て、そっと物陰から外を覗き見てみる。

 屋敷の門のところでココノツさんが家来の人たちと立っていて、その外側にはたくさんの赤と黒の服を着た兵隊さんたちがいた。


 前に見たのと同じ、女王様と一緒にいた兵隊さんたちだ。

 メラメラと火のついたタイマツをもって、屋敷の門をおおうように囲んでいた。

 その中で少しえらそうな、隊長さんみたいな人が一歩前に出て大声で叫んでいた。


「しらばっくれるのもいい加減にしろ! ここにいることはわかっているのだ。大人しく恭順の意を示すのだ!」

「はてさてなんのことやら。恭順と言われましてもねぇ。わちきは何をすればよろしいのやら」


 ココノツさんはわたしたちと話していた時と同じように、おっとりと柔らかな話し方で返していた。

 隊長さんはそれにイライラするのか、さらに声を強くする。


「この町に法を犯そうと企む旅の子供が訪れたと聞いている! 町の者に聞けば、旅の子供はこの屋敷に招かれたそうではないか! 貴様が匿っていることはもうわかっているのだ!」

「はて、法を犯そうとは、一体どのような? そのような恐ろしい子供はしりませんけれどねぇ」

「我々が受けた報告によれば、『西の禁域』への侵入を企てているとのことだ! 子供であれ、それは決して許されぬ大罪である!」

「……なんとまぁ」


 それを聞いて、わたしたちは一斉にびくっとした。

 それは確かにわたしたちのことだ。

 兵隊さんたちは女王様に逆らったわたしたちじゃなくて、西のお花畑に行こうとしてる人を捕まえに来たんだ。

 どっちにしてもわたしたちなんだけど。

 でも、どうしてわたしたちがそこに行こうとしてることがわかったんだろう。


「お話はようわかりました。して、そのような情報は一体どこから?」

「この町の者だ。貴様も良い町民に恵まれたな。おい、ここへ来い! 貴様の知ることを主人(あるじ)に言ってやるがいい!」


 隊長さんが後ろに向かって大声を上げると、兵隊さんたちの人混みの中から小さい影が押し出された。

 周りの兵隊さんの腰くらいしかない大きさのその人は、乱暴に隊長さんの横に突き出されて、トテンとこけた。


 シャツはヨレヨレで、ネクタイもゆるゆるになってる。

 ピンと立っていたはずの耳は、今はヘタンと倒れてた。


「ワ、ワンダフルさんだ……!」


 アリアがかすれた声で叫んだ。

 わたしも思わずおっきな声を出しそうだったけれど、なんとかぐっとガマンした。

 そう。わたしたちに町中を案内してくれて、いっぱい親切にしてくれたワンダフルさんが、隊長さんの横に飛び出してきたのです。

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