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71 健気な想い

「まくらはね、アリスお姉ちゃんの味方だよ」


 しばらくみんなで取り止めのないお喋りをした。

 そしてカノンさんがそろそろ帰るぞと立ち上がったところで、まくらちゃんは私にしがみついて来た。


 カノンさんに倣って腰を上げようとしていた私に、覆いかぶさるように抱きついてくるまくらちゃん。

 私は不意を突かれて抱きとめることで精一杯だった。


「まくらは今までカノンちゃんに守られてばっかりで、今もそうだけど。でも、まくらだってカノンちゃんの力になりたいし、アリスお姉ちゃんとか、みんなの力になりたいの」

「ありがとう、まくらちゃん。今日はそんなまくらちゃんのおかげでとっても助かったよ」


 ぎゅっと抱きしめ返しながら言うと、まくらちゃんは顔を上げて嬉しそうに笑った。

 ほんわかと無邪気に笑っているまくらちゃんだけれど、彼女になりにいろんなことを考えているみたいだった。

 だからこそ、カルマちゃんをもう一度生み出したのかもしれない。


「まくらは、難しい話はよくわかんない。でも、カノンちゃんとかアリスお姉ちゃんがしょんぼりしてるとこは見たくないの。だから、まくらはみんなが笑っていられるんなら、いくらでも頑張るよ!」

「まくらちゃんは優しいね。私もみんなでずっと笑っているようにしたいって思ってるよ」

「うん! だからね、カルマちゃんのこといっぱい頼ってね! まくらはまだ自分では魔法を上手く使えなくて、カルマちゃんにお願いするしかないから。まくらにできないことは、カルマちゃんがしてくれるって約束したの!」


 まくらちゃんはその無邪気な笑顔を少しだけ薄れさせた。

 自分の中にいるカルマちゃんというもう一つの人格が、以前何をしていたのか知っているからだ。

 でも、まくらちゃんにとってカルマちゃんはきっともう、なくてはならない存在なんだ。だから言葉が力強い。


 孤独に震えることはなくなっても、カルマちゃんはまくらちゃんの足りない部分を補う存在なんだ。

 魔女を自覚してもまだその力の使い方、戦い方を知らないまくらちゃん。

 そんな今のまくらちゃんが自分の思いを遂げる為には、カルマちゃんの存在が必要不可欠なんだ。


 だからまくらちゃんは笑う。

 思うところはあっても、それが自分自身で自分の全力だから。

 その小さな体に精一杯の想いを込めて、自分のしたいことを頑張っている。


 そんなまくらちゃんがこうして力を貸してくれると言っているんだから、私だって負けてはいられない。

 その健気な想いと無垢な笑顔が嬉しくて、私は思いっきり抱きしめた。

 苦しいよと笑いながら私の背中を叩くまくらちゃんが、とっても愛おしい。


「とりあえずこっちのことは任せとけ」


 私がまくらちゃんを放すと、カノンさんはまくらちゃんの頭をくしゃくしゃと撫でながら言った。


「まくらのことはアタシが死んでも守る。それに今はカルマのバカもいるからな。余裕だとはいえねぇが、まぁなんとかなるさ」

「うん、信じてるよ」

「それよりもアタシはお前らの方が心配だ」


 立ち上がりながら頷くと、カノンさんは目を細めた。

 私と氷室さん、そして千鳥ちゃんを順繰りと見て苦い顔をする。


「アタシだってお前らのことは信じてる。けどよ、わかってるとは思うが、アゲハの強さは化け物じみてやがる。魔法使いの君主(ロード)を相手取るのとそうは変わらねぇ。お前らこそ無茶すんじゃねぇぞ」

「うん、大丈夫だよ。私たちの目的はアゲハさんを倒すことじゃなくて、きちんと話すことだから。もちろん戦いは避けられないと思うけれど、きっとなんとかなるよ」


 不安がないと言えば嘘になる。むしろ不安だらけだ。

 けれどそれを表に出しても仕方がないし、余計な心配をかけるだけ。

 だから懸命に笑顔を作って言うと、カノンさんは眉を落としながら笑みを返して来た。


 私の強がりなんてきっとお見通しだ。

 けれどカノンさんはそれ以上は言わず、優しく微笑んで頷いてくれた。


 みんなでビルの出口まで降りて、二人が帰っていくのを見送る。

 カノンさんに手を繋がれたまくらちゃんは、その姿が見えなくなるまで大きく手を振っていてた。

 それに応えて手を振り返していると、色んな悩みによる心のつっかえが少し楽になった気がした。


 私には、心から想ってくれる友達がいる。

 困った時必死で助けてくれる友達がいる。

 お互いに支えあって立ち向かってくれる友達がいる。


 私に迫っている現実は決して生易しいものではないけれど。

 一人では心が折れてしまいそうだけれど。

 沢山の人たちがこうして力を貸してくれるから、私はなんとか前に進むことができる。


 だから今は二人の好意に甘えよう。二人の気持ちに感謝しよう。

 今自分がしないといけないことへ目を向ける為に、その力を借りよう。


 私はその気持ちを胸に、冬の夜に消えていく二人の背中を最後まで見送った。

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