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69 ケジメ

「うーんとね、何にも知らなかったカルマちゃんに、色々教えてくれたのがクリアちゃんだったの。いつだかひょっこり来てね、魔女のこととかワルプルギスのこととか、色々教えてくれたんだ〜。それで、ワルプルギスに入ったらどうって誘われたのぉ〜」


 私たちの呆れ返った表情なんて気にするそぶりも見せず、カルマちゃんは自分のペースで話し出した。


「その時のクリアちゃんのね、とんがり帽子とローブの組み合わせを見て、魔女ってそんな感じの格好するんだぁって思って真似っこしたんだよ! でもローブだとカルマちゃんのセクシーなナイスバディがお披露目できないから、ひらひらなマントにしてみました!」

「そ、そうなんだ……」


 得意げにマントをバサッと広げるカルマちゃんに、私は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 カノンさんは呆れ返って溜息をついている。

 つまるところ、カルマちゃんはクリアに会ったことがあるだけで、特別何かを知っていたりすることはなさそうだ。


「……話が逸れたけどよ」


 カルマちゃんがひらひらさせているマントをうざったそうにしながら、カノンさんはのっそりと口を開いた。

 カルマちゃんに話を聞いても意味がないと思ったんだろうなぁ。


「奴の正体の真偽はともかく、クリアを名乗る魔女が現れて、突然アリスのピンチを知らせてきたんだ。何かの罠かと思って問い詰めてみても、早く助けに行けの一点張りで話になりゃしなくてよぉ」

「いやぁ〜話が通じないって怖いよねぇ〜。人間なんだから、ちゃんと相手に通じる言葉でちゃんと会話をして欲しいもんだよねぇ〜」

「お前が言うな、お前が!」


 腕を組み、わざとらしく難しい顔を浮かべて噛み締めるように言うカルマちゃん。

 カノンさんが空かさずその頭に拳骨を落として、カルマちゃんは甲高い悲鳴をあげた。

 でも今のはカルマちゃんが悪いと思う。だって私だって思うもん。カルマちゃんにだけは言って欲しくないって。


「とにかく、埒があかねぇから探知を全開にしてアリスを探してみたら、本当にお前が襲われてたから慌てて助けに行ったんだ」

「そうだったんだ。本当にありがとうね」

「アタシらは大したことはしてねぇよ。ただまぁ、こんなことがあったってだけさ」


 もう何度目かのお礼を言うと、カノンさんは気さくに笑った。

 自分たちだって大変だったっていうのに、私に気を使わせないように軽やかに言ってくれる。

 その懐の深さに、今は大人しく甘えさせてもらうことにしよう。


 それにしても、クリアという魔女は本当に一体何者なんだろう。

 私を助けに行くようにカノンさんたちに言ったということは、レイくんが言うように私の味方なのかな。

 でも側から見れば悪辣で狂気の魔女だというし。


 クリアに対しても、記憶が戻れば何か思い出せるのかなぁ。

 人からの話でしか知らないから、余計に判断がつかない。


 でも、ロードとの戦いで大怪我を負って、行方知らずになっていると言われていたクリア。

 そんな彼女がレイくんの前に現れ、そしてカノンさんたちの前にも現れたというとは、傷は癒えてこの街にやって来ているということだ。

 行動を起こし始めた以上、私の前に現れるのも時間の問題かもしれない。


 けれど、何が何だかわからないクリアのことよりも、今は目先の問題の方が大事だ。

 私の命を狙い、そして夜子さんの命も狙っているアゲハさん。

 そしてそれを裏で操っているであろうロード・ケイン。


 これを切り抜けないことにはどうにもならない。

 それに、千鳥ちゃんとアゲハさんの問題にも同時にケリをつけないといけない。

 これ以上、千鳥ちゃんが過去のことで苦しまないように。


「……あのね、カノンさん。それに、氷室さんも」


 まだ降りてこない千鳥ちゃんを気にしながら、今度は私の話を切り出した。

 千鳥ちゃんの過去のことは勝手に喋れない。けれど、千鳥ちゃんがアゲハさんとの因縁にケリをつけたいと思っているということは説明した。

 そして私自身も、アゲハさんともう一度会って話をして、必要があればきちんとぶつからなければならないと思っていることも。


「今度は、私がちゃんとあなたを守るから」


 ざっと話し終えると、氷室さんがすぐさまそう言った。

 アゲハさんの襲撃から私を守れなかったことに負い目があるのか、その表情は少しだけ暗かった。

 別に、氷室さんが責任を感じることじゃないのに。


「ありがとう。明日、ワルプルギスよりも先にアゲハさんを見つけて、ちゃんと話せるようにしたいんだ。氷室さんにも一緒に来てもらえると嬉しいんだけど……」

「もちろん」


 伺う視線を向けると、氷室さんは少し食い気味に素早く頷いてくれた。

 その目は僅かに力強くて、どこか必死さすら感じる。

 ムキになっているというか、来るなと言われても行くといった頑なさを感じなくもないような……。


 どちらにしても力を貸してもらえるのはありがたいし、深く考えずに私はただ感謝を述べた。

 今日の名誉挽回をしようという、氷室さんなりの意気込みかもしれない。


「カノンさんも力を貸してもらえると心強いんだけど」

「ああ、もちろんだ。ダチだからな。けど、ちょっとアタシらは別行動にさせてくれ」

「……?」


 ニカッと笑って頷いてから、カノンさんは難しい顔になって言った。


「お前のことを狙うアゲハがロード・ケインの差し金だとしたら、これはアタシの責任でもある。アタシは、ロード・ケインの方を当たってみようと思うんだ」

「で、でも、それは流石に危険なんじゃ……。だって相手はロードで、すっごく強いんでしょ?」

「まぁな。でもアイツが関わっている以上、アタシに黙ってることはできねぇよ。それにアタシ自身、ちゃんとケジメをつけないとなんねぇからな」


 思い詰めるような目でカノンさんは静かに言う。

 さっき言っていたように、自分のせいでロード・ケインがスパイを送りかできたと思っているのかもしれない。


 でもカノンさんは協力を断ったわけだし、結果的にカノンさんが相手の益になる行動をしたわけじゃない。

 ロード・ケインが利用しようとしていた、私への繋がりと夜子さんへの繋がりは全く生かされなかったわけだから。


 でもそれは、そういう問題ではないのかもしれない。

 元とはいえ自分の上司だった人が私たちに危害を加えようとしている。それがカノンさんには我慢ならないんだ。

 それに、カノンさんは自分の理由で魔女狩りを裏切っていているから。

 そのケジメをつける意味合いも含んでいるんだ。


「わかった。じゃあロード・ケインの方は任せるね。でも、無茶だけはしないでね?」

「ああ、任せとけって」


 今はカノンさんを信じて、魔法使いのことは魔法使いに任せよう。

 笑顔を作って向けると、カノンさんは親指をグッと立てて爽やかな笑みを返してきた。


 その力強い返答は、全く不安を感じさせなかった。

 でもそんなカノンさんを、カルマちゃんは不満げな顔で静かにジトッと見つめていて。

 それだけが少し、気になった。

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