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34 空気読め

 両手に死神の鎌のような物を持って、楽しげに笑い声をあげて突っ走るカルマちゃん。

 張り詰めた空気も、私たちの気持ちも完全に無視で、一人自由奔放にアゲハさんへと突っ込んだ。


「アンタ、ほんっと空気読めなさすぎ!」


 首を刈るようにクロスして振るわれた鎌を、後ろ跳びに飛び上がることで回避したアゲハさん。

 カルマちゃんの暴挙に舌打ちをしながら悪態をついた。


「空気読むって何? 空気は吸うものだよ? 透明でなーんにも書いてないのに、何を読めばいいの〜? あははっ、アゲハちゃんばっかじゃないのぉ〜?」

「うっさい! バカはアンタよ! 死ね!」


 子供のように無邪気な顔でケラケラと笑うカルマちゃんに、アゲハさんは血管が切れそうな程にイラついていた。

 今にもぶちんという音が聞こえてきそうだ。

 カルマちゃんに悪意はない……んだろうけれど、天然の煽りはアゲハさんに物の見事に効いていた。


 怒りに任せて上空から振り下ろされるカマイタチ。

 大振りで放たれたそれは、楽しそうに笑うカルマちゃんに難なく避けられている。


「カルマのやつ、勝手なことしやがって────あ、今更だけどよ、今のアイツは味方だ。色々思う所はあるだろうが、今は信頼してやってくれ」


 カルマちゃんの身勝手な行動に辟易と溜息をつきつつ、カノンさんが思い出したように補足した。

 その表情は若干複雑そうだったけれど、悪い顔はしていなかった。


「カノンさんがそう言うなら、わかった。詳しい話は後で、だね」

「ああ、悪いな────よし、アタシらも行くか。アイツに死なれたら困る」


 カノンさんは困ったような笑み浮かべながら、言うが早いかきゅっと顔を引き締めて、一足先に飛び込んでいってしまった。

 魔力で身体能力を強化しているのか、一蹴りで物凄い推進力を得てミサイルのように突っ込んでいってしまう。


 もちろんそこまでの機動性がない私たちは、置いていかれてしまって、出遅れてしまった。

 特攻型の二人のアクティブな動きに驚きつつ千鳥ちゃんを見ると、酷く眉間に皺を寄せて険しい顔をしていた。


「大丈夫だよ千鳥ちゃん。みんなで戦えば、絶対負けないよ。千鳥ちゃんはもう一人じゃない。一人で頑張ろうとしなくていいんだよ」

「わ、わかってるわよ。別に、そんなこと心配してるんじゃ……」

「じゃあ私の心配してくれてる? 千鳥ちゃん優しいからなぁ」

「ち、ちがっ…………まぁ、でもそうね」

「あれ、意外に素直」


 緊張をほぐしてあげようと戯けて語りかけてみれば、千鳥ちゃんは意外な反応を返してきた。

 私の方をチラチラと窺い見ながら、少し恥ずかしそうにして。


「アイツに対する個人的な嫌悪感はある。顔なんて見たくないし、受け入れたくないし理解したくないって。でも、それよりも今は、アンタが殺されるのが嫌。今はそれがなにより、怖いのよ」

「千鳥ちゃん……」


 つっけんどんで素直じゃない千鳥ちゃんが、ここまで言ってくれるなんて。

 嬉しくて胸がジーンとするのを感じた。

 その嬉しさを私は、千鳥ちゃんの頭を撫で回すことで表現した。


「な、何すんのよ!」

「私もだよ、千鳥ちゃん。私も、千鳥ちゃんが傷付く所は見たくない。だから、お互いがお互いを想い合っていれば、私たちは大丈夫だよ」


 頭を振って私の手を払う千鳥ちゃんに、私はニカッと笑顔を向けた。

 一人ひとりの力は弱くても、力を合わせればなんだって乗り越えられる。

 想い合って助け合えば、一人ではできないことだってできるんだ。


 千鳥ちゃんが私を想ってくれるのと同じくらい、私だって千鳥ちゃんの事を想っているから。

 お互いが大切な友達だと思っていれば、守りたいと思っていれば、この絆は何にも負けない。


「ふ、ふんっ! 勝手にしなさい。私はただ、私がしたいように、するだけなんだから……」

「私もだよ。ほら、私たちも戦わないと。私たちの戦いなのに、任せっきりじゃいられないよ」

「う、うん」


 気恥ずかしそうに顔を逸らす千鳥ちゃんに私はにっこりと答えてから、渦中に目を向けた。

 アゲハさんに向かうカルマちゃんとカノンさん。

 私たちを守るために、二人が戦ってくれている。


 私たちは一度顔を見合わせて、小さく頷き合ってから二人で一斉に飛び込んだ。

 私は強く剣を握り、千鳥ちゃんは電気をその体に帯びて、戦いの渦中へと飛び込む。


「カノンさん、カルマちゃん! ごめん!」

「大丈夫だ。気ぃ抜くなよアリス! アイツ、前よりもやべぇぞ!」

「お姫様おっそ〜い。今日のアゲハちゃんはマジヤバだから、流石のカルマちゃんもちょっと困ったさんだよ〜」


 二人の言う通り、今日のアゲハさんはとても強い。

 その身から感じる強烈な魔力、そして禍々しいオーラは前回よりも格段に上回っている。

 前に戦った時は、()()()()アゲハさんとやり合わなかったけれど。

 でも前回は私を殺すつもりはなかったようだし、全体的に手を抜かれていたってことなんだ。


 合流した私たち四人を、上空から見下ろすアゲハさん。

 漲る禍々しい魔力が、その蝶の羽から溢れ出して妖しく蒼い輝きを放っている。

 それがやっぱり美しくて、でもどうしようもなく(おぞ)ましい。


「仲良しこよし、ちょームカつく。四人まとめてかかってきなよ! 全員コテンパンにしちゃうからさ!」


 最早物理的な圧力に思える強大な魔力と威圧。

 上から押し潰そうとしてくるかのような重圧。

 けれど私たちは臆することなく、強く構えて夜空に浮かぶアゲハさんを睨んだ。


 カルマちゃんは、一人お気楽にニタニタしているけれど。

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