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38 会いたかったのは

 一番近いコンビニまで辿り着いて、人数分の食べ物を買い込んだ。

 そこそこな量になったから袋を分けて、二人で手分けして持つ。

 行きは散歩気分で歩いてきたけれど、帰りはこの荷物を持ちながらと考えると少し憂鬱な気がしなくもない。


「氷室さん、先に戻ってて。私ちょっとうちに寄ってから戻るよ」


 私が言うと氷室さんは眉をピクリと動かした。

 変わらないポーカーフェイスの内側に、訝しげな感情が見えた。


「なら私も……」

「大丈夫だよ、そんなに遠くないし。それに荷物持ちながらだからさ」

「でも……」


 氷室さんは心配そうに私を見つめる。

 まぁさっきあんな話をしたばかりだし、余計に私の心配をしてくれているんだ。

 そんな氷室さんの気持ちが嬉しくて、私は目一杯の笑顔を返した。


「昼間だしさ、私に危害を加えようとする人たちも大胆なことはしてこないよ。大丈夫、すぐに戻るから」

「…………」

「もしもの時は絶対氷室さんを呼ぶよ。私たち、繋がってるでしょ?」


 少し拗ねているようにも見える氷室の胸をポンポンと叩く。

 私たちの心は繋がっている。もしもピンチに陥ったとしても、強く想いを込めれば私の声は氷室さんに届くはず。私が正くんに襲われた時のように。


「……わかった」


 氷室さんは渋々と頷いた。

 別について来て欲しくないわけじゃないんだけれど、この荷物を持って遠回りさせるのは悪いし。

 それにみんなお腹空いてるだろうから、とりあえず今食べる分だけでも早く持って帰ってあげた方がいいだろうし。


「ありがとう。すぐ戻るから」


 手を振って別れると、氷室さんも控えめに手を挙げた。

 そのままずっと私を見つめていて、私が角を曲がって見えなくなるまで氷室さんは私から目を離さなかった。


 そこまで心配してもらえるのは素直に嬉しい。

 自分でも不用心なのかなと思ったけれど、でも警戒しすぎても身動きが取れなくなってしまう。

 当面の危機であるカルマちゃんの襲撃は、一応夜までないだろう。あの子、約束は守ると言っていたし。

 魔女狩りの襲撃に関しても、昼間の人目がある場所で行われるとは考えにくい。


 私の家はそう遠くないから、そんなに時間はかからずに帰ってこられた。

 自分の家に入る前に隣にある晴香の家を見た。

 どちらかといえばこっちが本命だった。昨日の夜電話して来て、何か悩み事がありそうだった晴香。

 今日の夜に時間を取ってあげることは難しいけれど、少し顔を見るくらいはしたかった。


 昨日の晴香はどうも様子がおかしかった。一時的に不安定なだけだったのかもしれないけれど、それでも幼馴染としては心配だった。

 少し顔を見て、話の触りくらいは聞いてあげられるだろうし。


 そう思ったけれど、家のガレージには車がなかった。

 一応インターフォンを押してみたけれど誰も出ない。

 もしかしたら日曜日だし、家族で出掛けてしまったのかもしれない。


「ま、今日はダメって言っちゃったの私だしね」


 突然押しかけたんだからいなくても仕方ない。

 このタイミングで聞いてあげられたら良いなと思ったんだけれど、いないんだからどうしようもない。

 後で落ち着いたらメールでも送っておこうかな。


 仕方なく自分の家に入って、ささっとシャワーを浴びて服を着替える。

 みんなは魔法があるからシャワーを浴びたり着替えをしなくても清潔を保てるみたいだけれど、私はそうもいかない。

 寝袋である程度快適に寝られたとしても、あんな廃ビルで一夜を過ごしたら色々と気になる。


 ぱぱっと身なりを整えて、私は急いで家を出た。

 氷室さんが心配しているだろうし、それにみんなも待ってるだろうし。


 帰りは少し急ぎ足に。けれど荷物が少し重くて思うようには急げない。

 魔法が使えたらこの荷物もちゃちゃっと運べるのかな?

 氷室さんに預けていた方が良かったのかもしれない。


 そんなことをぼんやりと考えながら歩いていた時だった。

 ふと目の前に現れた人影に、私は思わず足を止めた。

 いや、止めざるを得なかった。その人影を無視することはできなかった。

 それは私がよく知る姿だった。よく知ってる。嫌なくらいに。


 数日前の記憶が鮮烈に蘇る。

 忘れたくても忘れることなんてできない。

 だってあそこから全ては始まったんだ。


 黒いコートに身を包んだその姿。

 暗闇に紛れるには丁度いい格好だけれど、真昼間だと白い紙にインクを垂らしたみたいによく目立つ。

 けれど何か魔法でも使っているのか、その目立つ出で立ちでもあまり人目を引いている節はなかった。


 魔法使いは昼日中(ひるひなか)に大胆な動きはしないって聞いてたんだけどな。

 どうしよう。これは予想外だ。


 真っ黒なコートをまとって、けれど今はフードを被っていない。だからそれが誰なのかはすぐにわかった。

 私と同じくらいの背丈の女の人。あの夜私を迎えに来たうちの一人。

 今私が会いたかったのはあなたじゃなかったんだけどな。


D4(ディーフォー)────」


 思わず呟いてしまった私の声を聞いて、D4は優しく微笑んだ。

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