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25 隠れグラマー

「んん……」


 カノンさんの意外に優しい一面に私がほっこりし、そんな私に突っかかるカノンさん。

 空気が少し和やかになったところで、私の膝の上でまくらちゃんがもそもそと動いた。


「……はぁ。よく寝た〜」


 可愛らしくぐーっとの伸びをしてから、のんびりと目を擦るまくらちゃん。

 相変わらず起き上がらないで私の膝の上に頭を預けたまま、ごろりと仰向けに体勢を変えた。

 そこでようやく私の顔を見て、とろんと眠そうな表情をしていたまくらちゃんの顔が固まった。


「……おどろいた。お姉ちゃん、誰?」

「えーっと、私は花園 アリス。よろしくね」


 正直、急に寝られてびっくりしたのは私の方なんだけれど、そこは敢えて言うまい。

 まくらちゃんは中学生くらいの女の子だし、ここは年上の余裕を見せるべきだろう。

 とりあえずにこやかに挨拶してみると、まくらちゃんは柔らかく微笑んだ。


「よろしくね。まくらはまくら。ねぇアリスお姉ちゃん、カノンちゃん知らない?」

「アタシならここだ」


 人懐っこい笑顔でとても当たり前のように尋ねてくるまくらちゃん。

 この子には警戒心というものがないのかもしれない。

 私が既にカノンさんと知り合っていて、そしてこの場にカノンさんがいるからいいけれど、そうじゃなかったらどうしたんだろう。


 カノンさんはまくらちゃんを覗き込むようにして身を乗り出した。

 その姿を見たまくらちゃんは、和やかな笑顔を更にぱっと華やがせた。


「カノンちゃんだ。おはよー」

「おはようまくら。ほら、アリスが困ってるからそろそろ起き上がれ」


 呑気なまくらちゃんをカノンさんがいそいそと起き上がらせる。

 そろそろ太ももが痺れてきた頃だったから助かった。

 いくら小柄なまくらちゃんの頭とはいっても、人の頭を長時間乗せているのは地味にしんどい。


「どこ行ってたの? まくら、カノンちゃんのこと探してたの」

「それはこっちのセリフだ。まくらがいつのまにかどっか行っちまってたんだぞ?」

「えぇー。迷子はカノンちゃんの方だよー」

「馬鹿言うな。アタシが迷子になんてなるかよ」


 ぶーぶーと口を尖らせるまくらちゃんの柔らかそうなほっぺをカノンさんがつねる。

 大した力は入れていないみたいで、まくらちゃんはヘラヘラと笑っていた。


「まくらちゃん、カノンさんが大好きなんだね」

「大好きだよ。カノンちゃんはね、意地悪だけど優しいの」

「知ってるよー」


 私が声をかけると、まくらちゃんはとても嬉しそうに笑った。

 カノンちゃんと出会う前のまくらちゃんのことはわからないけれど、今はカノンさんのお陰で寂しい思いはしていなさそうだった。

 むしろとても楽しそうで、そして嬉しそうだった。


「ほら、氷室さんもまくらちゃんとお喋りしたら?」

「えっと……」


 私が促すとm氷室さんは戸惑うように私とまくらちゃんを交互に見た。

 基本人見知り気味なのはわかっているけれど、これから一緒にいるわけだし。

 今のうちに仲良くなっていた方がいいと思って少し強めに促した。

 ポーカーフェイスが焦りと戸惑いで少し崩れている。そんな氷室さんも可愛いと思ってしまう私は、ちょっと性格悪いのかな。


「お姉ちゃんは?」

「……氷室、(あられ)

「霰お姉ちゃん! よろしく!」


 この無害そうな女の子は、パッと笑顔を咲かせて氷室さんに抱きついた。

 氷室さんは驚きのあまり目を白黒させて、辛うじてそれを受け止めていた。

 まくらちゃんは本当に警戒心皆無だなぁ。人懐っこくて可愛らしいけれど、魔女としてその無警戒さはどうなんだろう。


「ほらほらまくらちゃん。氷室さん困ってるから」

「はーい」

「……花園さんは意地悪」

「ごめんごめん」


 少し恨みがましくこっちを見てくる氷室さんに、私はまくらちゃんを引き剥がしながら謝る。

 別にまくらちゃんのことが苦手というわけではないと思うけれど、比較的大人しくて人見知りな氷室さんにとって、こういう無邪気なコミュニケーションは難易度が高かったかな。


「じゃあアリスお姉ちゃんがぎゅってしてー!」


 氷室さんから引き剥がされたまくらちゃんが、そのままの勢いで私に抱きついてきた。

 小柄なまくらちゃんを受け止めるのはそんなに大変じゃなかったけど、こうして抱きしめてみてわかった。まくらちゃんは意外と発育がいい。


 ゆるいパジャマを着ているから見た目ではわからなかったけれど、全体的に肉付きが良くてなかなかグラマラスな体型をしている。小柄な割にスタイルは良さそう。

 そして抱きついてきて押し付けられているこの感触から見るに……きっと私より大きい。比べるべくもなく。

 寝る子はよく育つ……なのかな?


 そんな無邪気で人懐っこいまくらちゃんと戯れつつ、これからどうするかという話になった。

 二人はこっちに来てから色んなところを転々としていて、特に拠点のようなところはないらしい。

 私の家には今誰もいないから泊まってくれても良かったんだけれど、それを提案すると氷室さんに止められた。


 カルマちゃんがまくらちゃんや私を付け狙っている状態でお姫様である私の家に帰るのは、ただ居場所を教えることになってしまうって。結界も意味をなさなくなってしまうみたい。

 確かに、自分から敵を招き入れることになってしまうかもしれない。


 だとすると、ひとまず今夜をどうするべきかとみんなで頭を抱えた。

 誰かの家ではなくて、四人が寒さを凌いで一夜を過ごせる所。

 そしていつ敵に襲われても周りに迷惑をかけないような、人気の少ない所。


 暫く考えて、氷室さんが一つだけ提案をした。

 それはちょっと申し訳ない気もしたけれど、でも他にいい案も浮かばなかったから仕方ない。

 勝手ではあるけれど、私たちは氷室さんの案に乗ってあの人に頼ることにした。

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