ソト
広い草原を、颯爽と馬車が走っていく。
「まさか、馬車をくれるとは思わなかったな。」
ジンバは御者をしながらそう呟いた。
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「僕が渡したいのは、馬車なんですよ。」
ダニエルは俺にそう言った。
「!!!
馬車だって?駄目だ、それは大事なダニエルの資産じゃないか。
そんなもの受け取るわけにはいかない。」
俺は突然のことに驚き、断る。だがダニエルは折れずに
「クレミアさんのおっしゃるようにアルテミスは乗合馬車で三日ほどの距離です。
ですが、乗合馬車が出発するのは早くても明日の昼頃でしょう。
自前の馬車があれば、それより早く着くことができるはずです。」
「しかし、それでも・・・・・・。」
俺が固辞しようとすると
「これは僕にとっても賭けなんです。商人にとって縁こそ宝。であるならば、Cクラスの冒険者とより強い縁が持てる今、自分の貴重なものを投資するより他にないんです。」
「俺達が合格できるか、まだわからないんだぞ。」
「しますよ。間違いなく。
この商人、ダニエルの審美眼に間違いはないんですよ。」
ダニエルはそういうとニコッと微笑む。そして
「受け取ってくれますね。」
とジンバに話すのであった。
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そんなことで俺たちはアルテミスに向けて馬車を走らせていた。
馬車を曳いてくれる栗毛のこの馬。
以前、ダニエルとカークが山賊に襲われて馬車ごとひっくり返された時にも、主人から離れることのなかった、
そして、今日主人が変わったというのに何も反抗もせずに礼儀正しく走り続けている。
このなんとも穏やかな忠義者の名前は「ソト 」だ。
彼は何とも軽やかに脚を運んでいく。
石は避けるし、なるべく馬車が揺れないように、段差の少ない場所を探して走っているように思える。
「賢い馬なのかもな。」
ジンバがそう言うと、立て髪を震わせて先ほどよりも気持ち早めに走っていく。
まさか言葉がわかるのか?
まさかな。
ソト が少し笑った気がした。
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ふと、馬車の荷室の方に顔を向ける。
エポックもセーブも、以前と変わらない表情でニッコリとこちらに笑みを返す。
ここまで、ほとんど会話をしないままでいる俺たち。
荷物をとりに虹色のリンゴ亭に行った時に話そうかと考えたが、アルさんもウルスラさんも居らず、はじめて見る冴えない中年の男性しか、宿の人は居なかった。
あの2人もギルドの関係者なのは間違い無いけど、紹介もされず、話すこともないまま宿をチェックアウトすることになってしまった。
そして今も話すことができないまま、いる。
逆に以前通りなのがとても怖い。
2人は何を考えて、何を思っているのか。
「後で、聞かないといけないよな。」
俺は2人に聞こえないくらいの声でそう呟いた。




