長い夜⑥
「なんだって!北の詰所にゾンビの魔物が現れたって?
北の詰所と言えば、ジンバさん達が仕事に行ったところじゃないか!」
ダニエルはそう言って狼狽えていた。
※※※※※※※※※
北の詰所の騒動で残った兵士たちではなく、その場から逃げ帰った新人兵士達が助けを求めたのは、街の外れにあるダニエルの店だった。この店が今は治療院として開業していることを知っていたからだ。
「そ、それで、まだ兵士長や何人かの兵士は、そこに残っていまして。」
「ジンバさん達も一緒か?」
「は、はい。」
兵士たちは怯えた様子でダニエル達に伝える。
「ダニー!応援に行った方が良いかもしれない。」
そう言ってコークは棚からレイピアを取り出す。そしてその声を聞いてやってきたのが、ティフだ。
彼女は今はこの治療院に泊まり込んで仕事をしている。その彼女が起きてきたのだ。
感の良い彼女はすぐに何かが起きた事に気がついた。
そして
「準備してきます。」と手早く着替えて、杖を持ってくるのであった。
「商人で戦闘職じゃない僕は正直、足手纏いだ。でも、ジンバさんからヒールは教わった。商品の薬も詰め込んだ。
とりあえず馬車を使って、急いで北の詰所に向かおう!」
兵士たちをベッドに横たわらせた後、三人はすぐに馬車に乗り込んだ。
「間に合ってくれよ!」
そう言ってダニエルは手綱を強く握った。
※※※※※※※※※
「あ、あああ、ジンバ・・・」
エポックの悲痛な声が、静かな夜に響く。
セーブは驚きの表情のまま、動くことができない。
マリシャスの騎士剣はエポックとセーブの身体を撫で切りにするはずだった。
ところがそれをジンバが我が身を盾にして庇った。
胸に致命傷を受け、もはや立つことも叶わないと思われた彼は立ち上がって身を挺して二人を守った。
彼は思い出したのだ。
そう、自分が「第一種衛生管理者」の資格を持っていることを。
第一種衛生管理者は作業環境の管理、労働者の健康管理、労働衛生教育の実施、健康保持増進措置などを行う国家資格である。
労働災害を未然に防止すること、そのために必要な措置を講じるために設けられているものである。
ジンバは強く思いこんだ。
「冒険者にとって・・・ここは作業現場だ。
で、あれば・・・ここで彼女達が怪我をすればそれは労働災害だ。俺は・・・労働災害災害を未然に防がなきゃいけない・・・。」
そう思った。
守ってくれるガーディアンナマハゲも、今は動けない。
であれば、労働災害を守るのはこの身体しかない。
そう思った時には二人の身体を覆うようにして、守っていた。
二人に剣は届かなかった。だが代わりにジンバの背中は深く切り裂かれてしまった。
胸よりも、はるかに多い量の血が、夜の空に広がる。
それはまるで血の花火のように、止めどなく広がる。
そして今度は地面に、流れていった。
「やだ、ジンバ!何でこんなこと!!」
「ジンバ!ジンバ!!!」
二人は声をかけるが今度はピクリとも動かない。目は瞳孔が開いていて、血は先程の倍は流れている。
「へぇ〜、あの傷で動くなんて、しぶといねぇ。
これなら良い玩具になりそうだね。」
マリシャスは騎士剣についた血を舐めながらそう呟いた。言葉とは裏腹に、自分のやりたいことを邪魔されたのが不愉快なのか、不満そうな表情だ。
「キィーーーーン!」
突然、金属と金属がぶつかる甲高い音が鳴り響いた。
エポックだ。彼女の両手には短剣が握られている。藍鉄の短剣は刃に大きな欠けができていた。これは先ほど一瞬でエポックが切り掛かった時にマリシャスの騎士剣との打合いでついた欠けだった。
「許さない・・・。」
今まで見せたことがないような、憤怒の表情で睨みつけるエポック。
「そんな動きもできるんだ。いいよぉ、いい表情、まるで買ってもらったばかりのおもちゃを壊された子供みたいだ。ああ、最高に楽しくなってきたよ。」
マリシャスはそう言って、騎士剣を構える。
エポックは憎悪の表情で、何度も、何度も切りかかっていく。ところが、その全てはマリシャスによって打ち返される。
反撃を受けて腕に、脚に、腹に、顔に深い傷を負っていくエポック。だが、攻撃は止むことがない。
「この、野郎!!」
そう言ってセーブは、ジンバの腰に携えられていた長剣を持って切り掛かってくる。
そこにエポックも短剣を二本逆手に構えて突っ込んでくる。
それを嘲笑うかのように、マリシャスが騎士剣を肩に担ぐように構えた、その時。
「・・・やってくれたな!玩具屋」
その声と同時にマリシャスの首に杖が深々と刺さった。




