長い夜⑤
「ハハハ、すごい強いね、君たち。
僕も一生懸命頑張って作ったんだけどね。この程度のおもちゃじゃダメだったか。」
そういって笑う少年、吸い込まれるような闇のような色の瞳と髪をした彼は、そういうと足元に転がっていたウォーウルフの首を蹴り飛ばした。
「なんだ、貴様一体こ・・・!・・・グガッ・・・!」
俺たちが反応するよりも先に、兵士長が少年の肩に手をのせようとする。
そこまでは見えていた。
ところが、次の瞬間に「見えたとき」には、兵士長は少年に腕を払いのけるように、首ごと斬り落とされていた。
首を失った兵士長の身体は、よたよたと前に倒れて、そして血を噴出して身体を痙攣させている。
「うるさいなぁ、僕はお前には話してないんだよ。
僕が用があるのは、君たち三人。あとは邪魔しないでほしいな。」
今度は、その兵士長の首を兵士たちのほうに向けて蹴り飛ばす少年、少年の顔はにこやかで、でもどこかで人を見下しているよな冷笑だった。
「ヒィ!」
そういってのけぞる、兵士たち。槍を捨て逃げ出そうとしているが、恐怖で足が動かないのだろう。その場に立ちすくんでいる。
「・・・エポック、セーブ。
こいつはやばい。たぶん、ダンチで強い。
・・・だから、急いで逃げなきゃだめだ。」
俺はそう二人に囁き声で伝える。
「逃げるって言っても、この状態じゃ・・・。」
エポックは両手に剣を構えて、防御の姿勢をとっている。少年はゆっくりこちらに向かって歩いてきている。武器を持っている素振りすら見せない。
兵士長の首を落とした武器すらなんだかわからない。
「なんとか、話をして、時間を稼ぐから・・・。セーブとエポックは、あそこの兵士を連れて、逃げて。
それで、ギルドに言えばギルドマスターか、クレミアが来るはず。
そうすれば、なんとかなる。
俺はナマハゲもいるし、少しくらいなら・・・?」
そこまで話したところで、急に胸が熱くなって、息苦しくなった。
これまで感じたことがない、この痛みは何だろう・・・。
「ガッ、ゴホッ、ゴフッ・・・。」
血を口から吐き出すジンバ。
そして彼の胸に突き刺さった刃、その剣を持っているのは、件の少年であった。彼は一瞬にして、ジンバのところに移動し、そして誰にも見えないような素早さで、ナマハゲごとジンバの胸に剣を突き刺した。
ナマハゲは膝をついて、動きを停止させる。ジンバは、崩れ落ちるように地面に倒れる。
血まみれでもだえるジンバのそばにエポックとセーブが駆け寄る。二人ともヒールをかけるが、血はとめどなく地面を伝っていく。
「あらら、やっぱりこの程度か。
ゴブリンキメラを倒したから、このくらい避けられるかなって思ったけど、やっぱ弱いね。」
そういってジンバの身体から、騎士剣を引き抜き、一振りすると血を拭った。
「ハハハ、改めまして、僕の名前はマリシャス。
玩具屋のマリシャスっていうんだ。君たちが壊しちゃったゴブリンキメラも、ゾンビたちも僕のおもちゃだったんだよ。
また作り直さなきゃいけない・・・だからさ、今度は君たちでおもちゃを作ろうかなぁって。」
そういって嘲笑するマリシャス。
ああ、俺の身体から・・・血が・・・出ているのか。
あの時と・・・フォークリフトにはねられた、あのときと・・・おなじだな。
ふたりのこえが、きこえる。
「ダメ、ヒールじゃ血がとまらないわ!」
「もう一回、ヒール!だめだ、血が・・・。とりあえずこの布で押さえて圧迫しないと!」
「薬草は?これも一緒に使って!」
・・・ああ、圧迫止血。
そうそう、そうだよ。止血するときは、布で押さえて・・・圧迫。これで止血できるんだ・・・。
でも胸を刺されちゃ・・・、無理か。
「ヒール!何で血が止まらないのよ!何で止まってくれないのよ!」
「だめだよ!ジンバ!起きてよ!こんなところで死んじゃダメだよ!!ヒール!!ヒール!!」
二人とも涙を流しながらヒールをかけている。
俺のこと、構ってちゃ・・・ダメだ。
後ろに・・・奴が来てる。
あの嘲った、顔の奴が来てる。
「大丈夫だよ、悲しくなんかないよ。みんな一緒におもちゃにしてあげるからさぁ!」
マリシャスはそういって、二人に向かって騎士剣を構える。
二人とも、俺の回復のことに夢中で動こうとしない。
「守らなきゃ・・・。」
おれは、そう、おもった。




