食卓を囲んで
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・!」
ここは、どこだ?
俺はあの草原で、疲れて、倒れてしまって、それから俺はどうしたんだっけ?
「よかった、目が覚めたんだね。」
少女の声が聞こえた。
俺は上体を起こし、声のほうに顔を向けた。
そこには黒髪の少女、いや、少女といっても異世界らしく、耳が動物だ。耳の感じはモフモフして黒いので黒猫のような感じだけど、形は長くておとぎ話のエルフみたい。
「俺は・・・」
「精神力を使い果たして倒れたとこを、そこのおじょーさんに助けてもらったの!」
いつの間にかセーブが隣にいる。
少し怒っているようだ、口をへの字にしている。
「ほんとに危ないとこだったのよ!
私がもう少し役に立てれば、よかったんだけど。ともかく、精神力は心の力だから、切らさないようにしないとダメ!というのが・・・この世界の常識なんだけど、でも伝えるのが遅くなってごめんなさい・・・。」
セーブの言葉には、「大丈夫じゃないなら大丈夫って言わないでよ。」という俺に向けられた怒りと、「精神力のことちゃんと伝えなかった。」自分への怒りの二つが混じっているように感じた。
申し訳ないことをしてしまったな。
「ともかくも、倒れたジンバを背負って、彼女がこの小屋まで運んでくれたんです!お礼を言わないと!!」
「俺を背負って?本当にありがとう!あのままじゃゴブリンの晩飯になるところでした。
えっと、いま手持ちはお金がなくて、このゴブリンの角くらいしかないのだけど・・・。」
と俺がポケットから角を差し出そうとすると
「だいじょーぶ、僕は困っている人は見過ごせないよ!」
と笑顔で答えてくれた。ただ、お礼を言われたのがうれしかったのか、耳がピクピク、そして彼女の後ろで黒い尻尾がフルフル震えていた。
「えっと、改めまして。僕はジンバ。で、こっちの彼女が・・・。」
「セーブよ。」
「ジンバにセーブだね。覚えた!
僕はエポック、黒猫族とエルフのハーフのエポック!」
エポックと名乗った少女、顔は割と幼く、まだ中学生くらいにも見える。
黒い猫の尻尾と耳がなければ人間に見える。
エルフとのハーフというのも、耳を見れば頷ける。確かに耳はモフモフしているが、少しだけ長い。
「とりあえず、腹が減っては何とやら、だよね。
ビンボーでお口に合わないかもだけど、一緒にご飯を食べよ!」
ありがたい。確かにこの世界に来てまだ俺は何も食べることができていない。
甘えすぎていては申し訳ないけど、それでもここは厚意に甘えよう。セーブも同じ気持ちのようだ。
「こんなものしかなくて、ごめんね。」
そう言って出されたものは、粥だった。
雑穀に近いのだろうか、いろいろな種類の実が入っている。
「このお礼は必ずするからね。」
「必ずしないといけないよな。」
「まぁそんなことはさておき、食べようよ!僕も久しぶりに人と一緒に食べることができてうれしい!」
というと、エポックは粥を食べ始めた。
そうか、ここは「いただきます」の習慣ってないよな。セーブも小さい器で食べ始めている。
俺は心の中で手を合わせると、粥を食べ始めた。
粥というよりも、重湯に近いこの料理は青臭く、何の味付けもされていなかった。
腹を満たすだけの料理なのだろうか、それでも、弱った俺の身体にはしみ込んでくるようだった。
疲れたこの身体には「温かい」というだけでごちそうだった。
食事をしながら、エポックからいろいろ質問を受けた。
どこから来たのか?どこへ向かうのか?
まさか別の世界から来たとは言えず、とりあえず少し遠い村からやってきた、村は名前もないような小さな村で、村から村へ旅をしていると答えた。
俺、というよりもおしゃべりなセーブが、エポックにもいろいろ質問していた。