「食べる」という戦い
「ちょっと、ちょっと、こんなところで寝てちゃいけないよ。」
と言って俺の身体を何度もゆさぶる、この宿の女将ウルスラの呼び声で目を開ける。
同じように中で寝ていたエポックとセーブも起こされたようだ。
「さ、晩ごはんの用意ができたよ。」
そう言ってにこやかに俺の肩を叩くウルスラだが、俺はとてもじゃないが晩飯なんて食えない。このまま寝たい。
一刻も早く、着替えて寝てしまいたいところだ。
「ふぁぁぁ・・・今日は、このまま休もうと思います。」
あくびをしながらそう言って立ちあがろうとしてふらつく。壁に捕まって何とか持ちこたえる。
「それはいけないよ。あんたたちは冒険者だろう?
冒険者はどんなに疲れてクタクタになっても、食べなきゃダメ。
いいかい。冒険者が強くするのは剣や魔法だけじゃない。精神も強くないといけない。その精神を強くするのは、疲れて食べる気も起きない時に、それでも一口食べる気力となんだよ。食べなきゃ身体は回復しないからね。」
ウルスラは俺たちに諭すような口調で、そして厳しくそう言った。そして「下で待っているよ。」と言って降りて行ってしまった。
「確かに・・・お腹は空いてはいるのよね・・・。」
セーブはゆっくりと椅子から立ち上がった。
そして身体の筋を伸ばしていく。
「んー、確かにウルスラさんと言う通りだよね。このまま朝を迎えたら、仕事のできるコンディションにはならないよね。」
エポックもつけっぱなしだった腰の短剣を外すと、立ち上がり手首と足首をプラプラさせる。
「用意もしてもらったことだし・・・食べに行こうか。」
俺たちは、三人揃ってヨタヨタと、食堂に向かって行ったのだった。
食堂では、三人は一心不乱にご飯をかっ込んでいった。
この日の晩ご飯は、ご飯の上に何かの肉の揚げ物がのせられた「カツ丼」のようなものだった。
俺の知っている前世の普通のカツ丼は卵でご飯が閉じられているものだが、今日のカツ丼はいわゆるソースカツ丼のようなものだった。ご飯の上には、野菜の千切りが乗っていて、そこにソースにつけられたカツが、それも大きめのやつが二枚のせられている。飯も大盛りだ。
それにエールの小さい樽がひとつ付いていた。
俺たちは無言で、と言うよりも無我夢中で食べていた。
一口食べ始めれば、空腹だったのを思い出したのだ。
カツを、ご飯を、エールで流し込むように食べていった。その光景をウルスラは和やかに眺めていた。
食べた後は、汚れた服を脱ぎ捨てて、そのままベットに倒れ込んで寝た。疲れた身体、そして満腹感、それに加えてアルコールが入ったことで、眠るまでに1分とかからなかった。
あのまま床に、机に寝ているよりはよっぽど体力も回復したことだろう。
そして俺たちは、朝を迎えたのだった。




