それぞれの地獄
宿に一番最初に帰ってきたのはセーブだった。
ほとほと疲れた様子で部屋に入ると、そのまま椅子にへたり込んでしまった。
「・・・疲れたわ。」
そう言うと机に突っ伏して寝てしまった。
彼女の仕事はギルドの臨時職員・・・。行ってすぐにガーゴイルの解体の手伝い。それもエポックと違ってスキルがないので、横で解体しているクレミアのお手本を見よう見まねでやるしかなく、結局血塗れになりながらなんとか解体作業を終える。ここで失敗した分は給料から天引きされる。
そして次は報酬の計算のお手伝い。これもスキルが無いので、支給された算盤で計算する。何度も間違えてやり直し、これがまたしんどい。
とりあえずそれが終わり、ようやくお昼かと思うと、昼食のまかないの準備も新人の仕事らしく、慌てて料理。
それも素材の中で売り物にならないような物で料理をしなきゃいけないというのが辛い。今日は解体のゴミで出た、トーフサーモンのアラで作ることになった。
結局、調理に手間取って自分は食べる暇もないまま、次は素材の加工のお手伝い。ぬめぬめしている水晶ナメコを崩さないように、破らないように革で磨いていく。滑って割ってしまった分は給料から天引きするそうだが、私は二つも割ってしまった。
次は戦闘訓練、という名のクリミアの攻撃を避ける訓練。クレミアは持っている短杖を構えると、私に向かって、的確に、そしてそれなりの威力で振ってくる。
「ブンッ!」
風切音が聞こえる程の速さを容赦なく振り回す。全部避けることができたが、終わる頃にはくたびれて動けない。
そして最後は研ぎのお手伝い、備品登録してある槍の刃先を砥石で磨いていく。同じ姿勢でひたすらずっと磨く、一時間以上同じ姿勢で磨くので首が凝り固まってしまった。
それらの仕事が終わって、やっと解放された。セーブは疲れのあまり、そのまま机で寝息を立てて寝てしまった。
次に帰ってきたのはエポックだった。あちこち泥だらけ、擦り傷だらけ。ククリナイフは刃も少し欠けていて、見るからに満身創痍だ。
「うう、なかなか狩りはうまくいかない・・・。」
彼女の今日の仕事は、この宿の旦那との狩りだった。
ところがいざ森に足を踏み入れてみると、足場も悪く歩くので精一杯。
狩場に行くためには、川を泳いで渡り、飛び石をジャンプして渡り、崖から飛び降りたかと思えば、別の崖をよじ登り、そうしてたどり着くのだ。
着く頃にはもうヘトヘトで、へばっている。支給された水も飲み切ってしまっていた。
そして、そんな中で出てきた獲物は、今日はテッキンヘラジカだ。見た目はヘラジカなのだが、ツノがまるで金属の塊のようになっている。
こいつのタックルは強烈で、金属でできた盾を簡単に凹ませてしまう。
僕は逃げるのに精一杯、一撃でも貰ってしまったら、多分大怪我だ。
逃げる僕がいいおとりになったのか、アルさんがテッキンヘラジカの急所に槍を突き刺す。
そしてそのヘラジカを担いで、また街に戻ってくる、これが一番辛かった。
ふらふらの脚で、転ばないように歩く。それだけでいっぱいいっぱいなのに、そこに二人がかりとはいえ何十キロもある荷物を背負って帰ってくるのだ。
後半は歩きながら意識がなかった、ように感じた。
「このまま、寝たら、ベッドを、汚しちゃう。」
そう言うとエポックは壁側の床に寝そべり、そのまま寝込んでしまった。
そして、最後に帰ってきたのは俺だった。
あの訓練の時の申し出を二つ返事で了承した俺は、その後もベルナルドの召喚した亡霊と戦うことになった。
それも、小手調べの亡霊戦士だけでなく、骸骨戦士を繰り出してきた。
この骸骨は、筋肉も無ければ関節もないはずなのに、非常に滑らかな動きで俺に向かってくる。
それに武器も剣だけでなく、槍や斧、中には鋭く尖ったかぎ爪を装備したものもいた。
剣や斧は、基本的に何とか倒すことができる事も少なくなかったが、槍はこちらがなす術もなくやられてしまうことが多かった。
やられるたびにベルナルドがグレートヒールで俺を治してくれるので大丈夫だったが、痛みは本物だし、身体の疲れも本物だった。
最後に二体同時に槍を装備した骸骨戦士にボコボコ、というかグサグサに刺されたところで、俺は意識を失ってしまっていたようだ。
その後気がついた時には、ベルナルドの魔法でこの宿にワープしていた。
「もう・・・限界・・・。」
俺はそういうと、部屋のドアを開ける事もせず、そのままもたれ掛かり、倒れてしまった。




