お店再開ウルトラ大作戦①
「なるほど、ここで治療院を開く訳ですか。
治療院なら、品物がなくても良いし、ギルドのある街には持ってこいだ。」
話を聞いたダニエルは真面目な表情で考えている。
俺にはない、商人のスキルで考えているのだろうか。
俺たちは子ども達に別れを告げると、ダニエルとコークの店「紅玉」に来ていた。
彼らに今後のことを説明するためだ。
ダニエルもコークも昨日の泣いていた姿は何処へやら。決意を固めたようだ。
真剣な表情で迎え入れてくれた。
そこで俺はことの次第を二人に説明した。
スラムの子ども達にヒールを教えたこと。
少なくとも十人程度は使えるようになったこと。
そして、まず第一歩としてここで治療院をひらくこと。
何も知らない者が聞けば与太話にも聞こえるかもしれない。だが、ダニエルとコークは疑うような素振りは全く見せずに聞き込んでいた。
「と、すると問題となるのは、当面の彼らの生活費・・・ということになりますね。」
「流石にここに十人を泊めるわけにはいかないからなぁ。」
この店は古びた空き家を改装したこじんまりとした所だ。
流石に十人ここで寝るというわけにもいかない。
そして、食事もいつまでも炊き出しというわけにはいかない。
俺が頭を悩ませていると、エポックが
「僕、良い考えがあるかもしれない。」と嬉しそうに俺に伝えてきた。
というわけでやってきたのが冒険者ギルドだった。
冒険者には怪我が付き物だ。ところがヒールが使える初級の冒険者は少ない。そこでギルドでは治療院や回復アイテムの斡旋もしている。とのことだ。
「回復魔法の使い手が多い治療院なら多少融通がきくかもしれない。」とのエポックのアイディアで聞いてみることになった。
「しかし、治療院の斡旋だなんて、ギルドも意外とマメなんだな。」
「んー、例えば怪我をしている人に法外な値段をふっかけたり、逆に殺して奪い取るような人がいると困るじゃん。
だから、冒険者ギルドはそういうところとも連携してるんだって。」
「この街の治療院はほとんどないはず・・・うまくいくと良いんですが。」
ダニエルにも一緒に来てもらっている。このビジネスの主役だからな。
俺たちは受付に行くと、「治療院の斡旋先について、相談したいことがある。」と告げた。
今日の職員は神経質そうな男性の獣人だ。パッと見て、カウンターの奥にクレミアは居ない。
ギルドマスターのベルナルドも居ない。彼は自室にいるのだろう。
男性の職員は「副ギルドマスターをお呼びしますので、おかけになってお待ち下さい。」と告げ、カウンターの脇にある大きな呼び鈴を鳴らした。きっとこれで呼ぶのだろう。
俺は座って待つことにした。エポックはやはりクエストが気になるのか、クエストボードを見に行ってしまった。
「ねぇ、ひとつだけ私も確認しておきたいことがあって。」
セーブがダニエルに聞こえないように、俺の耳元で小声でささやく。
「どうした?」
「子ども達がヒールをつかえること、どう説明するの?」
「俺が教えたじゃ、駄目かな?」
「間違いなくやめたほうがいいわ、だってユニークスキルなんでしょ。下手したら、大変なことになると思うわ。」
「大変なことって?」
「貴方を拐って、監禁して、大規模ヒール工場のスタートね。」
俺は自分が牢屋みたいなところに押し込まれて。休む暇もなくヒールを教えている姿を想像して、身震いする。
それは避けたい。
「女神様のお告げがあったとか、誤魔化しておくよね」
俺がそう囁くと、セーブは「それが良いわ。」と頷いた。
クエストボードを見に行ったエポックがちょうど帰ってきた。いくつか受けたいクエストがあったらしい。嬉しそうに耳と尻尾を揺らしている。
カツカツカツ・・・
革靴のなる音が聞こえて来る。どうやら副ギルドマスターがやってきたようだ。
俺はそちらを振り返ると、絶句した。いや、俺だけでなくエポックもセーブも絶句していた。
「あら、お久しぶりですね、皆様。副ギルドマスターのクレミアです。」
そこにはキャラメル髪の「あの」彼女がにこやかに立っていたのだった。




