商人の眼と、僕の不安と
「え?」
俺の言葉にダニエルとコークは驚く。
「今、君たちのいる所は最低だ。だから、もし仮に失敗したとしても、これより酷くなる事はそうは無いと思う。
だから、ここは一緒に考えていったほうがいいと思うんだよ。」
俺は二人にそう伝えた。今の俺に、解決する方法はわからない。でも、女神が俺にスキルを伝えたことを考えても、多分、ここでこの二人を助けることが必要なことなんだと思う。
「僕も・・・助けたいと思う。」
珍しくエポックは、静かに呟いた。彼女の中でも葛藤があるのかもしれない。
「とりあえず、ここに山賊退治の報奨金がある。銅貨8枚だ。
まず、これを俺たちのチームと、コークと2分割、つまり4枚ずつに分ける。」
俺はそう言うと、コークの手のひらに4枚の銅貨を渡す。
「次に、俺たちが今日倒した、このワルビープランツの実とオオネズミを渡す。これは投資、つまり、売れたら代金を返してもらう。」
エポックとセーブに目で確認をする。二人とも、無言で頷いてくれた。
俺はアイテムボックスからワルビープランツの実とオオネズミの皮を取り出し、店の台に置いた。
「これからの販売のことだが、それはまた明日話そうと思う。これだけあれば当座は大丈夫だろ?」
俺はそう言うと、二人の顔を見る。ダニエルも、コークも腕で涙を拭き、静かに返事をしてくれた。
俺はダニエルに手を差し出した。
こう言う契約の時は、握手が大事だと、前世では教わった。
ダニエルも俺に答えて、台にしがみ付くとなんとか立ち上がり、ガッチリと握手をした。
あれだけの怪我の後だが、この握手は力強い。
そして、眼には光が宿っている。ちゃんと商人の顔をしている。
そろそろ夜になることもあり、俺たちは一度戻ることにした。
討伐の代金だけでも受け取っておかないと。このままじゃタダ働きだ。
それが終わったら、宿に戻って夕食を食べて明日に備えて寝ないといけない。
俺たちの身体もクタクタなんだから。
夜になると少し冷える。
俺は外套のフードを目深にかぶると、エポックとセーブと共に街に向かって歩き出した。
(・・・やっぱ凄いよなぁ。ジンバって。)
僕は、人を助けたいって気持ちがすごく強い。それは冒険者になれてからとても強くなってきた。
だけど、ジンバやセーブと一緒に過ごすようになってから、命を守るってことも大事だと思った。
アギの村に住んでいた時の僕は、落ちている木の葉のような、価値のない存在だった。
世界は死に満ちている。価値のない命は死んでいくものだと知っていた。
でも教会に泊まったあの日、あのとき襲ってきた山賊の死体を見て、ジンバは苦しんでいた。ジンバにとっては死は、身近なものじゃ無いんだ。
だから、僕は無性に腹が立った。このダニエルという少年に。彼の「浅はかな」行為はもしかしたら、コークも巻き込んでしまった。彼女にも死が訪れたかもしれない。
あの山賊は強かった、だからもしかすると僕たちも死んでいたかもしれない。でもそれはいい。冒険者が人を守って命を落とす。命をかけて行うべき仕事だからだ。
命をかけることと、命を捨てることは全く違うんだ!
エポックはそう心の中で自問自答していた。
そこに矛盾がある事はわかっていた。
(もしかすると、彼を助けても、また同じようになってしまうかもしれない。)
その思いが頭をよぎる。
と、ふいに肩に暖かいものを感じる。そこにはセーブの手があった。
「ここはジンバに任せてみましょう。」
そう言ってニッコリと微笑むセーブ。
僕も「ふふっ」と笑うと、「そーだよね。言い出しっぺだもんね。」と返すのだった。




