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100の資格を持つ勇者  作者: 小鳥遊カンナ
ファーイストの英雄
52/119

ダニエルの嘆きと

滞りなく馬車を走らせる。その後は大きな問題もなく街についた。

まず街の衛兵の詰所に行くと、山賊の死体を引き渡した。やはり常習的にやっていたようで、僅かだが懸賞金がかけられていた。配分は後で分けることにして、とりあえず俺はその懸賞金を受け取った。

次に俺たちは少し街の外れにあるというコークとダニエルの雑貨屋に向かった。


二人の雑貨屋はこじんまりとした、割合に古い建物だった。

「空き家となってたところを、買い取って作ったんです。」

コークはそう言って、門を開けた。庭は広く、馬車を留めておくスペースもある。

俺はそこに馬車を誘導し、ブレーキをかけておく。馬は非常にいい子だ。停止したら、大人しく前にある桶の水を飲み始めた。





「改めまして、今回は本当にお世話に、なりました。

この雑貨屋 「紅玉」の店主のダニエル・ラトゥーユと申します。」

ようやく目を覚ましたダニエルは、椅子に腰掛けると途切れ途切れにそう言った。まだ顔色は悪く、血液が足りてないのかもしれない。

セーブが教えてくれたことだが、この世界では貴族階級にしか、名字を名乗ることは許されないらしい。

ということは、彼は貴族ということになる。


「お察しの通り、私はラトゥーユ伯爵家の、長男です。

本来であれば、家督を継ぐ予定でしたが・・・。」

ダニエルの話はこうだ。


ラトゥーユ伯爵家の長男として生まれ、英才教育を受けてきたダニエルだが、自分には貴族としての資質がないことに気がついていた。そして、武芸にも才能がないことも。

その代わり、自分の適性に商才があることがわかっていた。なので、家督を弟に譲って自分は商人を目指そうとした。

ところがそれで困ったことが起こった。伯爵家ともなればいくつかの貴族が後ろ盾を欲しがる、特に伯爵よりも下の階級の男爵や子爵がそうだ。

いくつかの男爵や子爵が、自分たちの手の届かないところで婚約や、弟の暗殺の話をしているのをダニエルは知ってしまった。

そこで彼は必要な荷物をまとめ、無理やり家督を弟に譲ると家を飛び出してしまった。


「私はもともと、ダニー・・・ダニエルに使える護衛としてお屋敷に住んでいたんです。

でも、飛び出すって聞いて、慌てて私も一緒に付いてきたんです。ほんの少し、剣が使えたので。」

「僕はもう伯爵じゃない、だから対等の立場で来て欲しいって伝えたんだ。」

途切れ途切れになりながらもダニエルは話す。


「いくばかのお金と馬車は、弟が託してくれていて・・・、僕は幸いにも適性が商人だったから、御者をするのも慣れていたんだけどね。」


「この街で店を開いて、最初は軌道に乗ったんだ。香辛料がよく売れて・・・ところが、ある時から店に嫌がらせが続いてね・・・、火事で倉庫の香辛料が燃えてしまったんだ。」

「それだけじゃない、誹謗するようなビラまでまかれて、お客が来なくなってしまったの。」

コークはそういうと、店の棚から何枚かの紙を取り出す。確かにそこには、「詐欺の店」などと書かれていた。


「このままじゃ、店が潰されてしまう。

そこで賭けに出ることにした。・・・ワルビープランツの実には毒があるが、その毒性を研究しようとしている人が帝都にいる。・・・その人は大量のワルビープランツを欲しがっているそうだから、たくさんとって売ればいい。そう考えた・・・。だけど、結果はこのザマだ。」

ダニエルは自分の身体の傷を見ると、悔しそうに呟いた。



「今のままだと、ダメね。」

セーブが唐突にそう語りかけた。

「ダメとは?」

ダニエルが俯いたまま答える。


「貴族との縁を切ったというなら、苗字を名乗る必要はないはずよ。

いまだにラトゥーユ家と名乗ってしまっていることが、やっぱりまだ捨て切れていないところだと思うのよ。

今もどこかで、家族が助けてくれるんじゃないかって甘えてる。そんな感じがするのよ。」

「・・・そうかも、しれないな。」

力なく答えるダニエルの肩の上に、コークは何も言わず手を置く。


「僕も、そう思う。

商人で戦う力があるわけじゃない貴方が、魔物を狩って一獲千金っていうのは、コークさんありきの考えだと思う。」

エポックもセーブに続けて、言う。

確かにその通りだ、山賊に襲われたからフイになったが、この作戦だと基本的にはコークがワルビープランツを狩らないといけない。これは対等な関係とは言えないだろう。


ダニエルは顔もあげることが出来ずにいる。床にポタポタと水滴が、いや涙が止めどなく溢れている。

コークの瞳からも大粒の涙が溢れている。

彼女たちに言われて悔しいんじゃない、悲しいんだ。



しばらく涙がポタポタ床に落ちる音が続いていた。





「・・・こう言う時は、やっぱり俺たちも協力しないといけない、よな。」

俺は沈黙を打ち破るように、そうはっきりと言ったのだった。

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