祝杯の夜
それからしばらくして、エポックとセーブも目を覚ました。とりあえず合格をもらったと言うことだけ、伝えると、エポックは嬉しそうにベッドの上を跳ねていた。あの調子なら怪我は大丈夫そうだ。
杖ごと地面に叩きつけられていたときは、腕をへし折られた俺なんかよりよっぽど手痛い一撃を受けてたハズだ。
セーブも傷は回復しているようだった。これなら一安心。身体が大丈夫なことを確認すると、とりあえず俺たちは医務室を後にした。
結果は明日、詳しく教えてくれるらしいが、とりあえずこのホブゴブリンの皮は売却しておきたい。
ギルドなら素材売却ができるハズだ。
・・・。
「なーんか、よそよそしかったよね。受付の人。」
売却を終えての帰り道、頭をかきながらエポックは呟く。
「それに、私たちを試験した試験官の人も居なかったわね。」
セーブも背伸びをしながら、エポックの呟きに返す。
違う、アレはよそよそしいと言うか、なんというか、申し訳なさみたいなものだよなぁ。
憐みの目、みたいな。多分この騒動をみんな知っていて、それであんな感じで・・・。
俺はホブゴブリンの売り上げ、銅貨5枚をアイテムボックスにしまいながら、そう思った。でも、これは二人には内緒にしておこう。
「あ、そういえばジンバ!
僕、今日の戦いでレベルが上がって「剥ぎ取り」と「罠設置」ができるようになったんだよ!」
エポックが嬉しそうに俺に教えてくれる。
「私もレベルが上がったわ。まだチュートリアルジョブだけど、新しく「妖精の息吹」を使えるようになったのよ。」
「妖精の息吹?」
「妖精の息吹は、妖精族に伝わる癒しの風でね。
仲間の精神力を回復させる効果があるのよ。」
精神力、これが尽きてしまうと気絶してしまう。ところが俺のメインの技である魔法剣は精神力を絶えず刀身に注がないと、効果がなくなってしまう。
セーブが妖精の息吹を使えるようになったことは、本当にありがたい。
いつのまにか時刻はもう夕方。今日は本当に濃い、充実した1日だった。
無駄遣いは出来ないが、合格できたこと。それはしっかりお祝いをしておきたい。
「それじゃ、今日は宿に戻ってさ。
パーっとお祝いをしないか?レベルアップと、合格のお祝いを。」
「それはいいことにゃー!」
思えばまだみんな朝飯しか食べていない。三人は顔を見合わせると、駆け足で宿に向かって行った。
俺たちの泊まっている宿。「虹色のりんご亭」は普段は宿だが、夜は食堂兼飲み屋みたいなお店になる。
台所を切り盛りしている旦那は無愛想だが、料理の腕前がよく、女将の方は人当たりが良く愛想もいい。
「かんぱーい!」
三人は器を合わせると、そう言って中に入っているエールをグビグビと流し込んだ。思えば水分も取ってなかった。身体に染み込んでくるっ・・・。
乾杯って文化と、エールがあると言うことに、少し驚いたが、それよりもご飯とお酒だ!
「ぷはー!お酒なんて何年ぶりに飲んだんだろうな。」
エポックが口の周りに泡をつけて言う。彼女はこれまで生活にも苦労していた訳だから、ビールを飲む機会も少なかったのだろう。
「今日はお祝いなんだって?さぁガンガン食べていっておくれ。」
女将さんはそう言うと俺たちの机に大皿を置いた。
大皿に乗っていた料理、それは見たことのない魚の揚げ料理だった。
「この魚はね、桃色イワシって魚なんだけどね。まぁ安くて美味しいんだけど骨が多いのよ。でもこれは頭からバリバリかじってみて。」
イワシ、たしかにイワシのような形をしている。色が極彩色なのを除けば、たしかにイワシだ。
揚げられた魚は刻んだ野菜と一緒にあえられている。上からは甘酢のようなソースと香辛料がかけられている。
立ちのぼる湯気は、食欲をそそる。
俺は言われた通り、頭からかじってみる。
「これは・・・めちゃうまだ。」
身が美味しいのはもちろん。イワシ特有の青魚のクセをあまり感じない。
そして何より、頭が香ばしくてうまい。
これは油でじっくりと揚げたんだろう。ビールが進んで進んでしょうがない。
また、香辛料は胡椒のようなものかと思ったら、どちらか言えば山椒のような味わいだ。
このピリリと痺れる感じが、魚と野菜にマッチしている。
甘酢は、甘さを抑えて酸味が強い。それがこの疲れた身体にマッチしている。そして何より、この魚を食べた後にエールを流し込むと、いくらでも身体に染み込んでいくような気がする。
あまりのうまさに三人、無言で食べ飲み進め、三人同時にジャッキを空にすると、女将さんにこう告げたのだった。
「おかわり!!!」




