はじめての魔法
「ん?異世界?」
「そう、異世界。」
ぶっ!出ました。異世界!
そりゃ憧れますよ。
なんたって俺は異世界物のラノベや漫画が大好きだ。
家の本棚には、たくさんの本がある。置ききれなくて、床にも置いてあるくらいだ。
でも俺は超人でもないし、居酒屋の店主でもないし、資格が多いだけの派遣社員だ。役に立てるとは思えない。
「ほんとにそうかしら?あなたのその力。私は本物だと思うわよ。」
「力って?例えば?腕力は・・・あんまり自信がない。足の速さもあんまりないけど。」
「そうね、でも資格はたくさんあるでしょう?」
「そりゃ、人生を資格に賭けてきたようなものですから。」
手に職を、足に職をと頑張ってきたのは間違いない。人生ではあんまり役に立たなかったけど。
「その資格があれば、異世界でも大丈夫。・・・そうね、口で言ってみるよりもやってもらったほうが早いかしらね。」
女神さまはそういうと、自分の右手の人差し指を左手で握ると・・・
「ボキッ」
人差し指を折ってしまった。
「って、何してるんですか!いきなり!!」
俺は焦りながら女神に話しかけるが、女神はいたって冷静沈着で静かに
「この程度のけがは日常茶飯事です。何せあなたが行く世界にはモンスターがいますから。
ですが、御安心なさい。その世界には魔法やスキルといったものが存在します。
骨折はヒールと唱えれば直すことができます。
「いや、俺は魔法なんて使えないですよ!」
「いいえ、あなたにはその力が身についております。あなたは『普通救命講習』を修了していますね。
さぁ、自分の力を信じてヒールと唱えてみてください。」
『普通救命講習』ポピュラーな講習だ。
心肺蘇生法やAEDの使い方を学ぶ。人によっては高校生でも持っている人も多い。
3時間の講習で座学と実技を学び、終われば修了証をもらうことができる。
介護や医療、教育の現場で働いている人は必ず受けるように言われることもあるだろう。
派遣でチーフを任されることもあった俺は当然この資格を持っている。
女神さまが言うなら、この講習を受けた俺にもヒールができる、のだろうか。
怪訝に思いながらも俺は女神さまの指に手を向けて
「ヒール」
と唱えてみた。
・・・俺の手のひらから淡く光が出たかと思うと、その光が女神さまの指をやさしく包み、見る見るうちに赤く広がっていた腫れがなくなっていった。
「上出来ですね。一回でできるようであれば、私も安心できそうです。」
女神さまはそういうと右手をグーパーグーパーして、治ったことを確かめ、ニコリとほほ笑んだ。
「このように、あなたの持つ資格とスキルや魔法に関連性を見出し、あなたが信じることで異世界で使うことができます。
とはいえ、資格以上のことはできません。内臓破裂してしまったような人を救命講習程度の力で治すことができないように。」
確かに、この資格は医師免許じゃない。この資格でなんでも治療できるわけでもないということで、あくまで応急処置ということか。
それでも俺にはわかった。
「この世界で活かすことができなかった資格を、異世界では活かすことができる、と?」
「活かせるかどうかはあなた次第、でしょうが。そうですね、少なくともあなたの資格に助けられる人はたくさんいる、と言っておくわね。」
そうか、それなら、俺の人生無駄にはならない。
むしろ、ここからじゃないか。
「それじゃ、いいかしらね。100の資格を持つ勇者。
異世界アルカディアで、よい人生を歩みなさい。
あなたの前途に幸が多からんことを、神はいつでも願っておりますよ。」
そういって、俺に向けて手をかざす女神様。
その手のひらから無数の、光る泡が俺を包んだかと思うと、俺の意識は遠くに、翔んでいった。