世界の約束
俺に話しかけてきた爺さん、年齢は60歳は超えているだろう。
見た目は、そう昔話に出てくる神様の姿。白い長い髭、ゆったりとした白い衣、いかにも「わし偉そうじゃろ?」といったいで立ち。
「そうさな、おぬしの思った通り。わしはいわゆる神様というやつでの。」
「っっ!」
何も言ったわけでもないのに、俺の心を読んだかのように話す爺さん、、、いや神様か。
「そうさのう、この姿も仮初の姿。おぬしの思考を読み取っての、神様らしい姿で出てきているわけで、例えばのこんな姿もできる。」
と、爺さんの身体が光に包まれたかと思えば。
そこには羽衣を着た亜麻色の髪をした女神の姿があった。昔読んだ絵本の「金の斧、銀の斧」に出てくる女神の姿がこんな感じだったような気がする。
「女神っていうとこういう姿かしらね。どう?信じてくれた?」
「そりゃ、目の前で見せられたら、信じますって。
そ、、、それで、えっと神様が、俺のところに来てくれて?えっと、もしかして天国に連れて行ってくれるとか?」
目をぱちくりさせながら俺が女神に尋ねると
「天国、というのは人間が生み出した概念に過ぎないの。ほんとはそんな世界なんてないし、もちろん地獄もないわ。・・・そうね、あなたに伝わるように言うならば、ここは『ハザマの世界』かしらね。」
「ハザマの世界?」
「そう、人も犬も猫も虫も、ありとあらゆる生き物は死ねばそれでおしまいなの。天国に魂が運ばれてなんてことはなくて、魂は浄化されて再び別の形になって、生まれ戻る。・・・だけどね。中にはその環から外れてしまうことがあるの。」
「俺はその環に入れなかった、と?」
女神は「ふぅ」とため息をつくと
「あなたの人生は、釣り合いがとれていなさすぎるのよ。」
「釣り合い?というと?」
「生き物は多かれ少なかれ、努力をすれば結果がついてくる。たとえ一度の努力が結果につながらなくても、別のところで帳尻が合うようにできている。多少の差があっても幸せな結果と苦しい努力は釣り合いがとれる。それが『世界の約束』なんだけどね。あなたはあまりにも報われないまま、その生涯に幕を閉じてしまった。」
「・・・確かに、あんまりいい人生じゃなかったけど。」
俺は過去を思い出す。彼女もできなかった、仕事もうまくいかなかった、友達にも恵まれなかった。
「『世界の約束』を果たせなかった魂はね、同じ世界の環に入ることができないの。そうしてやってくるのがこの『ハザマの世界』
今のあなたの魂は宙ぶらりんで、浄化されることもされない。」
「ってことはこのままいくと?」
「このままなにもできないまま、ハザマの世界を彷徨う。そして、彷徨い続ける。永劫の時を彷徨い続ける中で無念、恨み、虚無といった悪意が世に悪影響を及ぼす。
地縛霊とか、もっと昔は妖怪といったこともあったらしいわ。あなたも聞いたことがあるでしょう?」
そうか、夏に稲○さんが話す怪談話の裏側にはそんな秘密が隠されていたんだな・・・って、このままじゃ俺も地縛霊コースまっしぐらじゃないか!そんなのは嫌だ!!
「でしょう?だからね、私が助けに来たってわけよ。」
女神さまは俺の心を読んでいたのだろう、俺の心の叫びにこたえると
「ね、もう一度やり直してみない?異世界で・・・。」