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100の資格を持つ勇者  作者: 小鳥遊カンナ
序章 ものがたりのはじまり
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プロローグ

「ついてねぇなぁ・・・。俺の人生、こんなもんか・・・。」



自分の死体を見下ろしながら、俺はそう呟いた。

腕が変な風に曲がって、頭からは血が流れている。足もぐにゃりと本来曲がるはずのない方向に折れ、俺から流れ出た血が地面にどんどん広がっている。

変な話だが「痛そうだなぁ。」というのが、印象だ。倒れた「俺」を見ている「俺」自身は全然痛くないのだけれども。


同僚の運転するフォークリフトにぶつかって、俺は死んでしまった。

あっという間の出来事だった。気が付いた時には身体は宙を飛んでいて、次の瞬間にははるか遠くの地面に叩きつけられていた。

「そんなスピードで、フォークリフトを運転すんなよな。」そう思った直後には、俺の意識は途絶えていた。


自分の身体に戻ろうとしてみたけど、もがくだけで元に戻ることはできない。

周りのやつに話しかけてみたりしても、当然反応はない。

もちろん、大きい声で叫んでみても、だめだ。誰も何も反応しない。



あーあー、こんなことならこの派遣はやめときゃ良かったな。

大学卒業後に就職大氷河期突入、履歴書やエントリーシートを書けども書けども、面接を受けども受けどもお祈りメールばかりが届く毎日。

何とかこぎつけた契約社員も倒産であっという間に無職に戻り、パート、アルバイト、派遣でなんとか生活する日々。

そんな自分を変えたくて、ひたすら手に職、足に職と資格を身につけた日々も虚しく、40過ぎてもまだ派遣。取った資格は100を越えるのに、何も使えないまま時間だけが過ぎて行ってしまった。


そんな俺が時給2000円という高額につられて派遣された場所がこのブラック会社。

働かない社員、仕事は山のように俺たち派遣社員に降り注いでくる。その上、時間内に終わらない仕事は「自主的に」残って働かなきゃいけない。

何せ労働基準法なんて守らんのだから、俺も過労と寝不足で満身創痍。

そんなとこに居眠り運転のフォークリフト、こりゃ仕方ないよな。


「これでこの会社、変わってくれりゃ俺の死も意味あるのかもな。」なんて、変わり果てた自分を見て思う。

まさかもみ消す、なんてことはしないと思う。たぶん。

事故った奴には申し訳ない、同情するよ。寝不足でフラフラしてた俺が悪いわけだしな。


いやしかし、生涯独身で、両親も死んでて、迷惑をかけるやつが少なくてよかったのかな。


ともかくもこのクソったれな社会の渦にもまれて、あのまま無駄に資格を取って、足掻くよりも良かった。そう思うことにしよう。


自分の人生のはずなのに、案外終わってみるとあっけない。それどころか他人事のように感じる。

案外、死ぬ時というのはこういうものなのかもしれない。




「苦難多き人生を歩んでいた割に、達観しとるやつじゃの。」

いきなりの声に驚き、そちらに視線を向けると、そこにはそれまでいなかった老人の姿があった。


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