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第8話 つながる声_2


 僕は全身に冷や汗をかき、心臓が破裂しそうなほどバクバク鳴った。


『呪われる!』


 僕はたまらず、かたく目をつぶって声の方を向き、そのまま土下座した。


「ごめんなさい! ごめんなさい、琴乃ちゃん! 

僕は、琴乃ちゃんを怒らせるつもりは全然無かったんだ!」

「お父さん!」

「ごめんなさい! ごめんなさい!!」

「お父さん!!」

「ごめんなさい!!! ごめんなさいぃっ!!!!」

「栗原さん、栗原誠二さん!」


 誰かが僕の両肩に手を置いた。


「栗原さん、ゆっくり目を開けて……」


 中年の……おばさん声。

僕はギュッとつぶっていた目を緩め、ゆっくり目を開けた。

同時にボロリと涙がこぼれた。

視界に数人の足が見えた。

皆、一様に白い靴と白い靴下を履いていたが、2人、全く違う靴を履いていた。

不思議な面持ちで、足から上をゆっくり見あげていったら

若い女性と女の子が、心配そうな表情で僕を見下ろしていた。


「お父さん!」


 女の子が言った。

僕はハッとして、手放した受話器を再度掴んだ。


「もしもし!」


 ツー……という音しか聞こえない。


「お父さん……」


 女の子が手に持っていたスマホを僕に見せた。

着信履歴に「222」とあった。


「お父さん」

「あ……」


 僕は目の前の女の子……僕の娘、琴乃を抱きしめて泣いた。

そのまま僕は眠ったのか、目が覚めたら病院のベッドに横たわっていた。


「…あれ?」


 むくりと起き上がり辺りを見回す。

全面、白一色。

窓は半嵌め殺しで、外の景色は良く無かった。

向かいあった建物の窓しか見えず、どの窓も白いカーテンを閉めていたので中の様子を伺えない。

フゥッとため息をついて再び仰向けになる。

つまらない天井の蛍光灯を見つめながら、ゆっくり記憶を辿っていった。



 ……僕は何をしていたんだっけ?



 トントン。

誰かがドアをノックする。


「入ってまーす!」


 僕は一人で考え事をしたい時、無意識にそう答える。

子供の頃、誰かに邪魔されたくない場合

便所にこもっていたのが癖になったらしい。


「栗原さん、失礼しますよ」


 医者が看護師を連れて入ってきた。


「お身体の調子はいかがですか?」

「……」

「ご気分はいかがでしょうか。頭がフラフラするとか、

目がチカチカするとかありませんか?」

「……あの」

「はい」

「僕は何故、ここにいるのですか」

「海難事故……覚えていますか?」

「……」

「広田さんという男性は?」

「あっ!」


 僕は走馬灯の様に今までの出来事を思い出した。

目の前に一面波の壁が立ち塞がって……!


「広田さんは! 皆は! 無事か!?」

「はい、貴方以外は皆さん元気で一週間くらいで退院されましたよ。

貴方だけ……約1ヶ月間、目を覚まさなかったのですがね」

「1ヶ月……」


 とても信じられなかった。

問診の後、娘と女房が入って来た。


「お父さん」

「……こ……琴乃」


 なんか気まずい。

いたずらで ”都市伝説の電話番号” にかけたら出た女の子……。

お化けだと思って話していながら、イイ子だなぁと感じて……。

一言で言えば ”初恋” だったから。

娘の隣にいる女房をちらっと見上げる。


……ゴメン。君の事も好きなんだけど、やはり僕はこの子がいい!

心の中で強く思った。

そして即、女房から鉄槌が降され失恋した。


「お父さん、琴乃はいつか彼氏ができて結婚して家庭を持つんだから、

そんな目をして見てもダメよ」

「……はい」


 僕はガックリと首をうなだれた。

その僕の気持ちを知ってか知らずか、琴乃が大笑いする。

女房が思い出したようにベッド脇に置いてあった小さな紙袋を開けた。


「皆さん(漁師仲間)から、どうもありがとうって……」


 女房が僕に渡してくれたそれは、励ましの言葉で埋めつくされた色紙と

お礼の気持ちを書き連ねた手紙の束だった。


「広田さんがね、『荒れる海の中で船を操る健二はカッコ良かった!』だって!

何度も言ってね、ほんと、言い切れないって感じだったわ~」


 女房が嬉しそうに話す。

あの日、浜からも見えたそうだ。

いきなり暴風が吹き荒れると、見る間に辺り一面、雲に覆いつくされて

僕らの船が、あっと言う間に遠くの沖合に流され消えたのが。


 ……僕らは地元の湾内で漁をしていた。

この時期、潮の流れに乗っていろんな魚が産卵に集まるから

少しの労力でがっぽり捕れる、ボーナス的な漁の時期なのだ。

まさか、こんな事になるとは……。

僕らは大漁だった。だが、捕った魚と一緒に船まで失った。

今、改めて失望感が襲う。

皆の手紙を読んでいくと……仲間達も同じ心境な事がわかった。

長々と手紙に綴ってある。

そして、どの手紙も『命あってのものだね』の一文で ”苦渋” は終わっていた。


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